第16話 教会は絡繰り屋敷??
「えーっと、これは……?」
それを見た時の私の第一声がこれだった。
目の前には、朽ち果て、瓦礫に埋もれた何らかの建物……廃墟ってこんな感じ?と言いたくなるような光景が目の前に広がっている。
「教会っぽくない?」
ミュウがそんな事を言い出す……言われてみればそれっぽく見えなくもない。
「私の知っている限り、このような様式の教会は無かったはずですが、神を祭る痕跡がありますから教会だったのかもしれませんね。」
教会の関係者でもあるマリアちゃんにも見覚えが無いとすると、教会だとしても、少なくとも現行の教会とは無縁って事でいいのかな?
「ねぇ、レフィーアは何か知らない?」
(……。)
先程の無茶の所為で消費した魔力の回復に務めているのか、レフィーアからの返答がない……まぁ、何か知っていればそのうち話しかけてくれるよね?
私はそう判断して、今はレフィーアに確認することを諦める。
「でもこんなのが森の中にあるんだったら、街の人……特にギルドの人は知っていてもおかしくないと思うんだけど、そんな事一言も教えてくれなかったよね?」
「多分、ご存じなかったのだと思います。」
私の疑問にマリアちゃんが答えてくれる。
「どゆこと?」
「この場所は森に入ってから、結構奥まった位置にあります。私達はミカゲさんのおかげで楽に辿り着きましたが、本来ならば森の樹木が入り組んでいて中々辿り着けなかったと思われます。」
確かにねぇ、今は障害物なくて一直線に来れたけど、本当なら樹木が邪魔していたわけかぁ。
納得だわ、とマリアちゃんの言葉に私は大きく頷く。
「それに、これは推測になりますけど、侵入者排除の為の認識疎外の結界も張られてたんじゃないでしょうか?だとすれば、今まで誰にも発見されなかったのは納得がいきます。」
「何でそう思うの?」
私もそうじゃないかなぁとは思うけど、一応マリアちゃんの見解を聞いてみる。
「先程も言いましたが、この建物は教会もしくは何らかの宗教に関わる建物であることは間違いないでしょう。しかし、私の知りうる限り、このような様式の宗教に関する建築物は無いのです。だとすれば可能性は二つ……まだ知られていない邪教か、もしくは古代遺跡、という事です。」
「成程ね、邪教なら見つからないように阻害結界を張るのは当然だし、古代遺跡なら結界が張られてなければここまで原型を保てるはずがない、という事ね。」
マリアちゃんの説明に、納得、と頷くミュウ。
「だったらやる事は決まったわね。」
「決まったって……何を?」
妙に張り切っているミュウを見て、何のことか大体想像つくけど一応問いかけてみる。
「探検……調査……お宝よっ!」
……まぁ予想通りだけどね。
私も「探検」という言葉に少し胸を躍らせているから、ミュウの気持ちはよくわかるので、私達は早速調査に向けて準備をする。
「さぁ、行くわよ……周りの警戒を怠らないようにね。」
ミュウが先陣を切って遺跡へと足を踏み入れる。
私はその背中を見ながら改めて遺跡を見てみる。
最初は廃墟だと思ったけど、遺跡としてみると、なんとなく重厚感があふれているように見える。
「どんなお宝があるんだろうね?」
(……。)
私はレフィーアに声をかけてみるが、相変わらず反応が無い。
変身している間は、なんとなくレフィーアの事が分かるので、調子が悪いとかそういうわけではないことは分かっている……ただ、さっきから黙り込んだまま何の反応もしてくれないので気になってしょうがない。
正確に言えば、遺跡を目の前にしてからレフィーアの様子がおかしい……この遺跡と何か関係あったりして……って、まさかね。
私はふと思い浮かんだ考えを振り払うかのように頭を振ると、先に行くミュウ達の後を追いかけて遺跡へと脚を踏み入れた。
◇
「ミカゲ、ここは大丈夫?」
「ウン、ちょっと待ってね。」
私は部屋全体の気配を探るように魔力の糸を伸ばしていく。
伸ばすと言っても実際にやってるんじゃなくて、あくまでもイメージね。
建物の中に入ってから気づいたんだけど、私にはなんとなくこの建物の事が分かる気がするのよ。
あくまでも「そんな気がする」って程度のイメージなんだけどね。
気配感知と同じような感じで感覚を広げると部屋の中の構造がなんとなくわかるの、これはきっとレフィーアの持っている知識だと思うのよね。
だけどレフィーアは相変わらずダンマリ……っと、今はこっちに集中っと。
「ミュウ、あなたの後ろの壁、近くにスイッチがあるけど……。」
「ん、これ?」
ミュウが私の言葉を最後まで聞かずにスイッチを押す。
「わぁ~っ!」
ミュウの足元が突然開き、足場を失ったミュウが穴に落ちていく。
「……落とし穴の罠だから押さないでねって、……もう遅いか。」
私はミュウが落ちていった穴に近づく……深くなければいいけど。
穴を覗き込もうとすると、そこから手が生えてくる……ホラー?
「もっと早く言いなさいよっ!」
穴からミュウが這い上がってくる。
途中で双剣を壁に突き立てて落下を阻止したんだって、獣人の体術は凄いよねぇ。
「ミュウが最後まで聞かないからいけないんだよ。」
私とミュウは睨み合う。
「まぁまぁ、それでミカゲさん、他に何かありますか?」
私達の仲を取り持つかのように、マリアちゃんが割込んでくる。
「うん、この部屋には何もないみたい。ただね、足元に何かある感じがするのよ。」
「足元ですか……。」
マリアちゃんは先程からチェックしていた紙を広げる。
この紙はここの見取り図で、建物に入ってからマリアちゃんが書き込んで作成したもので、マリアちゃんは今いる小部屋に落とし穴のマークを書き込む。
この建物はやっぱり教会みたいな使われ方をしていたようで、建物に入るとまず吹き抜けの大広間っぽいスペースが有り、前方に祭壇みたいな物があったから、ここが礼拝堂で間違いないと思う。
広間のサイドの2階スペースには幾つかの小部屋があったみたいなんだけど、崩れていて原形を留めていなくて、1階もその下にあたる部分の小部屋は軒並み崩れていたの。
そして、礼拝堂の裏にあたる位置……今私達がいる所なんだけど、ここも小部屋がならんでいて……多分関係者の生活スペースだったんじゃないかな?……それを一部屋づつ調べてるところなんだけど。
「地下室ですかね……どこかに下りる階段がありそうなものですけど。」
「とはいっても、今の部屋が最後だからね……瓦礫をどかす?」
マリアちゃんとミュウが悩み始める。
「取りあえず、ご飯にしよ。お腹空いたでしょ?」
考えてみたら、朝、街を出る前に食べてからかなりの時間が経っている。
お腹がいっぱいになればちょっとはマシな考えも浮かぶと思うのよ。
「どうせなら暖かいものを食べたかったね。」
広間の一角に座り込んだミュウが、干し肉を取り出しながらそんな事を言う。
「ここで火を熾すわけにもいかないし、仕方がないですよ。」
マリアちゃんも非常食のドライフルーツを一口齧りながらそう言う。
うーん、何か出しにくい雰囲気だけど……。
私は二人に隠れてコソコソと、用意していたものをお椀に入れる。
「あら?ミカゲさんのそれ、何か変わってますわね?」
あちゃぁ……マリアちゃん目ざといなぁ。
「み、皆の分もあるよ?食べる?」
私は仕方が無く二つ取り出し、お椀に入れて二人に差し出す。
「うーん、コレがあるからいいわよ。」
ミュウちゃんはお椀に入った塊を見た後、私に干し肉を見せてそう言った。
まぁ、いらないならいいけど……まだ試作段階だからあまり数も種類も無いからね。
「そう?それならいいけど。」
私は出したお椀を仕舞い、自分のお椀に魔法を掛ける。
『ピュア・ホットウォーター』
お椀にどこからともなく出てきたお湯が注がれる。
私はお椀の中を軽くかき混ぜ、塊をお湯に溶かす……少し待てば異世界風インスタントリゾットの出来上がり♪
お米じゃなくて麦なのがちょっと残念だけど、手軽に暖かいものが食べれるだけで幸せよ。
「いただきまーす。」
私はリゾットを一口食べる……ウン美味しい。
ふと視線を感じて周りを見ると、ミュウとマリアちゃんが私を凝視している……何かあったのかな?
「二人ともどうしたの?食べないの?」
「ミカゲ……それなに?」
「何って、リゾットだけど……?あ、と言ってもお米じゃなくて麦を使っているから……。」
「そんな事聞いてんじゃないわよっ!」
んー、ミュウがおこになってるけど、なんで?
私が不思議そうな顔をしていると更にミュウが怒鳴る。
「なんでアンタだけ、そんな暖かいものを食べてるのよっ!」
「だって、ミュウさっきいらないって……。」
私はさっきのお椀をミュウに見せる……けど、いらないって言ったくせに勝手だと思わない?
「そんな訳の分からない塊が、暖かいものに変わるなんて誰も思わないわよっ!」
ミュウが激おこになってるけど、勝手すぎるよ。
「あのぉ、ミカゲさん、よろしければ私達にも分けていただけますか?」
険悪なムードになりかけた私達の間に割り込むようにしてマリアちゃんがそう言ってくる。
「いいけど、リゾットは後1個しかないよ?スープならまだあるけど。」
大体あなたは説明が足りないのよ、などとブツブツ言っているミュウを無視してマリアちゃんにそう答える。
「私はスープでいいわよ。」
「よろしいのですか?」
「暖かければ何でもいいのよ。」
プイッと横を向きながらそんな事を言うミュウ……素直にマリアちゃんに譲るって言えばいいのにね。
しょうがないなぁ、と私は苦笑しつつも、マリアちゃん用のリゾットとミュウ用に具沢山スープを用意する。
『ピュア・ホットウォーター』
お椀にお湯を注いで二人に渡す。
「塊が解けるまでかき混ぜてね、あと熱いから気を付けて。」
「ありがと……熱っ!」
受け取った後、早速口を付けようとしたミュウが口を押える……だから気を付けてって言ったのに。
「ミュウは猫舌なんだからかなり冷ました方がいいかも。」
まぁ、塊が完全に溶けるまでかき混ぜていればそれなりに冷めるだろうけどね。
「美味しいですぅ。」
マリアちゃんはふぅふぅと冷ましながらリゾットを頬張っている。
「それで、これは何なの?」
暖かいものを食べて人心地着いたミュウが改めて訊ねてくる。
「フリーズドライしたなんちゃってインスタント食品?」
「ふりーずどらい?」
「いんすたんと?」
……私の言葉は理解不能だったみたい。
「うーん、何て説明すればいいかなぁ……。」
フリーズドライ製法とか説明しても分らないだろうし……というか私も理解してるわけじゃないけど。
「お湯をかけるだけで食べれる保存食……かな?」
だからこんなざっくりとした説明になっちゃったんだけど……えっ、説明になってないって?いいのよ、細かい事は。
「ふーん、そうなんだ。」
「便利ですねぇ。」
『それで納得するんかいっ!』
「「「えっ?」」」
今のツッコミ、レフィーアだよね?
(レフィーア?レフィーア?)
呼びかけてみるけど、何の反応もなく相変わらずのダンマリ……。
「さっきのレフィーアさんですよね?」
「反応ないって言ってなかった?」
「ウン、レフィーアだと思うけど、全く反応してくれないわ……。」
「……なら仕方がないわね、取りあえず出来る事をしましょ。」
ミュウが区切りをつけるようにそう言って立ち上がる。
「そうですわね、とりあえず探索を続けましょう。」
マリアちゃんもそれに応えるかのように、周りを片付けて、横に置いてあったメイスを手にする。
「それなんだけどね、あの祭壇辺りを調べてみない?」
私も片づけをしながら二人にそう提案してみる。
祭壇の下に隠し階段というのはお約束だって、以前真ちゃんが言ってた気がする。
「そう言えば、あの辺りは調べてなかったわね。」
早速、というように祭壇に駆け寄るミュウ。
「気が早いというか短いというか……。」
「そこがミュウさんのいい所ですわね。」
呆れる私にマリアちゃんはそう言って微笑みかけてくる。
まぁ、そういう事なのかな?
私達はミュウの後をおって、祭壇の周りを調べ始めた。
「何もないわね……ミカゲにも分からない?」
「ウン、何かあるって感じはするんだけど、それが何なのかまでは……。」
あれから30分ほどかけて、祭壇の周りを入念に調べているが、特に変わった所は見受けられない。
「あ、そう言えば……。」
しばらくして、何かを思いついたのか、マリアちゃんが祭壇の演台を調べ始める。
「何か思いついたの?」
私がそう訊ねると、マリアちゃんは演台をチェックしながら答えてくれる。
「はい、私も話に聞いただけで詳しくは知らないのですが……。」
マリアちゃんの話では、大きな教会では、祭祀の際、司祭が突然演場に現れる事があるという。
一種の演出なんだろうけど、何も知らない民から見れば神の力とか思うでしょうねぇ。
実際そういう効果を狙っているんだとか。
なので、この祭壇にもそういう絡繰りがあるんじゃないかってマリアちゃんは言うのね。
「あ、これじゃないかしら。」
マリアちゃんが見つけたのは台座の裏に巧妙に隠された幾つかのスイッチ。
押してみるけど、当然何の反応もない。
「ちょっとやってみるね。」
私はそのスイッチ周りを中心に魔力の感覚を広げてみる……これかな?
細い途切れ途切れの経路を見つけて、そこにゆっくりと魔力を流してみる。
「わわっ!」
ミュウの足元が突然なくなり、慌てて飛びのく。
「落とし穴……ではないようですね。」
マリアちゃんが穴を覗き込んでそう言う。
「多分、何らかの魔術具が動いてたんだと思うけど。」
長い年月で壊れたんだろうと私は思う。
「仕方がないわね、ちょっと様子を見てくるから明りをお願い。」
私はミュウに請われて、穴の中にライトの魔法を放つ。
ミュウは穴に飛び込み、壁を蹴りながら落下のスピードを抑え込んで無事着地する。
「……大丈夫みたいよ、そのロープ使って降りてきて。」
ミュウに言われて穴の淵を見ると、ロープが垂れ下がっていた……いつの間に!?
私達は恐る恐るロープを伝ってミュウの待つ穴の底へと降り立ち、周りを見てみる。
そこは過去の司祭が使用していたのだろうと思われる小部屋だった。
「見て、見て、ここ凄いよ!」
ミュウは既に調べ始めていたらしく、いくつかの宝箱と宝石などが詰まった革袋を積み上げていた。
「司祭様の執務室みたいですわ。」
マリアちゃんが棚にあるいくつかの書籍を見ながらそう呟く。
「取りあえずこの部屋の調査よね。」
私が呟くまでもなく、ミュウもマリアちゃんも部屋の中を家探し……じゃなくて調査をしていた。
「まったく……こういう時にレフィーアの力が必要なんだゾ。」
私は棚にあった1冊の古文書をぱらぱらとめくりながら、私の中にいるであろうレフィーアに呼び掛けるが、当然のように返事は無かった。
「はぁ、仕方がないか、調べるのは後からでも出来るしね。」
私は何が書いてあるか全くわからない古文書をはじめとして、手あたり次第棚の中の書籍を袋に詰め込んでいった。
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