140話

アスランは残りの時間を仲間達や婚約者に時間を使いながら装備の新調に勤しんでいる。


しかし、欲しいと思えるような装備に巡り会えない。


そんな時にヒイロより会いたいと言われ、以前クロードと待ち合わせたカフェで合うことにした。


アスランはカフェの扉を開ける。


カランカラン。


音と共に店員さんが近づいてきた。


「いっらしゃいませ。お一人様で宜しいでしょうか?」


「あ、いや待ち合わせなんだが…」


「それではお待ちの間はこちらの席をお使い下さい。」


そしてアスランが案内された席はカフェの中央に目立つように配置された豪華な席だった


そそくさと店員さんが言ってしまったため、アスランはしょうがなく座って待っている。


座って待っていると、店員さんが紅茶とケーキを持ってきた。


「あ、あの頼んでないのですが…」


「あちらの方より承ってございます」


アスランは店員さんが示す方を見たが知らない綺麗なお姉さんがいるだけだった。


綺麗なお姉さんと目が合うとウインクされ、アスランはどうしたら良いか分からない。


そして、次々に運ばれてくる飲み物やデザート。


アスランの席の上には頼んでもいない飲み物や食べ物で溢れかえっている。


しょうがなく飲み物を飲んで待っているが、一向にヒイロは来る気配がない。


しょうがなく後ろを振り向き外を見まわすと…、とんでもない出来事が起きていた。


カフェの外は女性達で溢れ返り大行列が出来ていた。


その並んでいる中に一人、気まずそうにヒイロが並んで待っていた。


アスランは連れがあそこにいるから連れてきて欲しいと伝えた。


ほどなくしてヒイロがアスランの元にやってきた。


ヒイロはアスランの現状を見て頭を抱えた。


「この行列はお前のせいだったのか」


身に覚えのないアスラン。


「えっ、何がですか?」


「この店の伝統を知らないでこの店を待ち合わせに選んだのか?」


「以前友達が使った時は普通だったのでいいかと…思いまして」


何故か、アスランの言葉は小さくなっていく。


「軍事貴族レーダリオンが経営してるカフェだから、一般の貴族でも好き勝手出来ない場所なんだよ。伝手があるとばっかり思ったが…。」


「ああ~、サクラ嬢のお店だったんだ」


「知ってるなら名前くらいだしとけよ。戦場では知略を巡らしていたのに、天と地ほどの差だな」


「なんかスミマセン」


「まあ、弟になる相手だから遠慮なく言っただけだから気にするな」


「あ、もう知ってるんですね」


「エミリアから聞いた時は、拳を握ってでかしたと叫んだものだ」


「えっ、ヒイロ殿がそんなに喜ぶ理由ってありましたっけ?」


「とりあえず本題に入る前に、知り合いがいるなら席を変えて貰うぞ」


こうしてアスランはサクラの名前をだして話が聞かれ難い場所へと移動した。


周りの女性達は名残惜しそうにしていたのは言うまでもない。


頂いた物はアイテムBOXに入れお土産とした。


そしてヒイロから本題が話された。


「今の俺の噂は知っているか?」


「確か、天才軍師現る。希代の戦略家ヒイロ。未だ独身のヒイロ殿を何としても色仕掛けで落とせとかでしたかね?」


「おい、最後のは冗談だよな?」


「え、知らないんですか?お兄様頑張って下さい」


「そもそも俺には重すぎる評価なんだよ。全てお前の手柄でよかったじゃないか」


「いえいえ、フローズンの凄さが伝われば十分なのでドラゴン討伐だけで丁度よかったのです」


「心苦しいのは我慢すればいい。だが、俺の街を救ってくれたお前に何もしてやれないのが一番辛いんだ。逆に報酬を頂いているし…俺はどうすることも出来ないのか?」


アスランはヒイロの純情な心にビックリしている。


エミリアといいヒイロ殿といい、本当に真っ直ぐで素敵な人達だ。すこしでもヒイロ殿の気持ちを軽くするために無理難題を言うことにした。


「では、私のお願いを聞いてくれますか?」


「ああ、何でも言ってくれ。」


「スキルを隠蔽できるアクセサリーを3つと光魔法もしくは回復魔法専用装備を一式と他に良い装備があれば一週間以内にお願いします」


「お、お前、ここは王都だから一週間ではグラス領にも取りにいけないんだぞ」


「何でも言っていいと聞いたので。これで褒賞分のお礼はチャラですね」


アスランはお茶目にウインクして冗談っぽく言ったのだが、ヒイロはアスランに感謝を告げカフェの勘定を払い走り去っていった。


「あ、あれ、もしかして本当に全部探してくるのかなぁ~?隠蔽のアクセサリーだけでも貰えればラッキーと思って無理難題を言ったんだけど…。」


そしてヒイロに伝えていた一週間があった。明日はついに旅立ちの日となっている。


夜になり流石に装備は用意出来なかったかと思いながら最終確認をしていると、凄い勢いでチャイムがなった。


チルヒが呼びに来たので玄関まで行くとヒイロが疲れた表情で待っていた。


「ヒイロ殿、もしかして何か一つでもご用意してくれましたか」


アスランはすこし期待しながら軽い気持ちで聞いたのだが、ヒイロから返ってきた言葉は…。


「スキルを隠蔽できるアクセサリーを3つと光魔法専用装備一式と他にももろもろ装備一式を用意した。確認してくれ」


ヒイロが指さした方向には馬車があり、その中に入ってみると馬車いっぱいに装備が用意されていた。


「え、もしかして1週間で本当に全部用意したんですか?」


「ああ、知り合いの貴族全員に聞いて、持っている者には頭を下げて頼んで何とかな。まあ、アスランの基準に達してない装備もあるとは思うがそれは勘弁してくれ」


アスランは鑑定で見ても良い装備が多くてビックリしている。

そんなヒイロにアスランは真剣に伝えた。


「本当に有り難うございます。ただ一つだけ言わせて下さい。」


ヒイロは何事かと思い耳を傾ける。


「知略は考えや思考次第ですが、軍略に関しては事前に策や物資など準備をすることが多いでしょう。これだけのことが出来るヒイロ殿は間違いなく軍師、もしくは軍師補佐の才能があると思いますよ」


苦しい気持ちでいっぱいだったヒイロの心は、すこし晴れやかになった。

そして、この切っ掛けを機にヒイロはいつしか本物の天才軍師として成長して行くのだった。




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