彰謙と紗綾

『桜火城下』




「彰謙。『桜火国』から姿を消して、他国でまた騒動を起こそうとしたって本当なの?」

「はい。未然に防がれましたけど」

「………憎いのに。どうして、雪那に協力するの?」

「何の縁、ですかね。他国で度々遭遇しまして。まあ、ほとんどが事件現場なんですけど。何もない時に出会ってしまって、ふと。訊いてみたんですよ。犯罪者の事情を酌んだことはあるのかと」

「雪那は、何て、言ったの?」

「軽重問わず犯罪者を見ると、腸が煮えくり返ると同時に底冷えして、事情など考えられない。どうしても手加減ができない」

「彰謙は。雪那について行って、自分にできることをしたいの?それとも、邪魔をしたいの?」

「後者。だと言ったら、どうしますか?」

「武兵と一緒に全身全霊で止める」

「はは。それは楽しみですね」

「彰謙」

「怒らないでください。真剣に答えます。両方です」

「………分かった」

「あれ?武兵を呼ばないんですか?」

「呼ばない」

「紗綾様。表情が豊かになりましたね」

「感慨深そうに目を細めないで。私は彰謙を赦してないんだから」

「はい。だから泣かないでくださいね」

「泣かない」

「殺そうとはもう思ってないですし、刑の一環ですから、従いますよ」

「武兵が目を光らせているし。私だって。それに。雪那は強いから。彰謙なんか、指一本で倒すくらい強いから。心配はしてないわ」

「そうですね、本当に。強さだけは認めますよ。強さだけは」

「うん」

「乙女心は複雑ですね」

「………莫迦」

「初めての恋人ができたそうじゃないですか。おめでとうございます。今度お祝いの品物を持って挨拶をしに行きますね」

「お祝いの品物より先に潮さんへのお詫びの品物でしょう。潮さんは優しいから受け取ってくれるけど、本当は突き返されて当然なんだから」

「はい」

「潮さんの為にも、誠心誠意仕事に励むのよ」

「はい」

「………死なないでよ」

「………はい」








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