「タヌキ統合失調症流魂伝」
それから二人で芸術論を語り合う日々が続いた。塩気の少ない病院食にまずいまずいと言いながらも勢いよく食い、それから切磋琢磨して創作物を作り合う。いつしかハックは退院していった。
タヌキはそれから病院にこもり15年ずっと絵巻物語を書き続けていた。幸い精神薬が効いて今では幻の声は聞こえなくなった。いつしか毛並に白い毛が混じり始めた。それでも書き続ける。いつしか創作物をつくることは生きることになった。
許可を得ていつぞやの神社に行き、今まで描いていた絵巻物語を奉納し、目をつむり祈る。
「イタチ大明神様、僕はまだまだ絵巻物語を描いています。精神障がいを負って自分自身を見つめることが増えました。夢は途中です。これからも描き続けます。この命がある限り!」
その時、どこか遠くでどーんと太鼓の叩く音がした。そしてがっははと笑い声が聞こえた。
「ほうか」
はっとして目を上げる。また声が聞こえた。
「ほうか」
ありがたくなって深々と頭を下げた。
目を閉じると昔のことが思い出される。河童の親父は元気だろうか。野ねずみの親子は今でもたけのこを取っているのだろうか? そして精神病院であった狐のハック。お前は今でも目を輝かせて夢を追っているのか? いや追っているんだろうな。今となっては全て夢か幻かのように感じた。ふと感傷的になってしまい目に涙がたまり景色がにじむ。
懐から半紙を取り出すとさらさらと文を描き上げる。そこにはこう書かれていた。
『タヌキ統合失調症流魂伝』と。
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