第56話 ボーリー防具店、キレーヌ武器店


 鎧の兵士の看板がかかったボーリー防具店に入ると、鎧を着たマネキンがずらりと並んでいた。革の鎧が主なようだが、鎖帷子くさりかたびらのようなものもあった。さすがに全身板金製の鎧フルアーマーは置いていないようだった。


 戦争に行くならそういった装備があったほうがいいかもしれないが、おそらくそうとう高価な上に、重みのために着ているだけで疲れそうなフルアーマーは冒険者には不向きなのだろう。俺からして革の鎧一択だものな。


 客の入りはそれほどでもなかったので、ゆっくり見て回ることができる。いちおう手で触って、少し持ち上げたりしてみるのだが、そもそも素人二人がどう見て回ったところで重みがある程度わかるだけだ。


 店員は他の客の相手にしているので、店員に聞くわけにもいかない。


「華ちゃん、どうだ? 気に入ったのとかあるかい?」


「わたしが神殿で使っていた鎧はこれに似た感じでした」と、華ちゃんが目の前のマネキンが着ていた赤茶けた革の鎧に手を当てた。


「面倒だからそれにするか?」


「そんな選び方でいいんですか?」


「大きさは簡単に変えられるしな」


 俺は他所よその人が見ていないことをこれ幸いと、いったん目の前のマネキンが着ていた革の鎧の一揃いを収納して複製ボックスにいれ、錬金工房でコピーを作った。


 すぐにオリジナルの鎧をマネキンに戻したが、マネキンにちゃんと着せることができず床に落としてしまった。


 鎧が床に落ちて音がしたので、わずかに注目を集めたが、ただそれだけだった。


「岩永さん、いまコピーを作った?」


「そういうことだ」


 俺は落っことした鎧を拾ってマネキンに着せながら華ちゃんに答えた。


 俺もこの鎧で十分だ。屋敷に帰ったらコピーを作ってやろう。店の中の商品には値札などついていなかったので、ボーリー防具店のボーリーの実態は不明のままだ。ちょっとセコかったというか、かなりセコかった俺がその辺りを評価できるわけないな。


「鎧はなんとかできた。

 そういえば華ちゃん、武器はどうする? なにか用意してたほうがいいんじゃないか?」


「そうですね。わたしは、神殿ではメイスを習ってたので、できればメイスがあれば」


「ここにも武器を売ってたが、武器なら向かいの店だという話だったから、あっちにいってメイスを買うか」


「はい」


「俺は、ナイフでも買っておくかな。

 そういえば華ちゃんが斃した蜘蛛だけど、あれ売れるかな?」


「さあ、どうでしょう。

 どこで買い取ってくれるかも分かりません」


「ああいったものは、ラノベでは冒険者ギルドで買い取ってくれるんだけど、蜘蛛なんか使いでが思いつかないからやっぱり売れないんだろうな」


「どうでしょう」


 俺よりこういった事柄にうとそうな華ちゃんに聞いても仕方がないので、


「まずは武器屋にいこう」



 防具屋を出て向かいのキレーヌ武器屋に二人で入った。


「いらっしゃいませ」


 この店ではちゃんと店員が応対してくれた。


「このに合うようなメイスと、俺が使うんだが、ナイフを見せてもらいたいんだが」


「まずは、メイスですね。メイスはこちらです」


 俺たちは店員のあとについて店の奥の方に入っていった。途中、武器は壁に立てかけてあったり、陳列ケースに並べてあったりしてかなりの量の武器が置いてあった。


「お客さま、これなんかいかがでしょう?」


 店員が展示ケースに入っていたメイスを取り出した。


 メイスを手渡された華ちゃんが、何回か持ち上げたり下ろしたりして、


「ちょっと重いかも」


「それでしたら、こちらのメイスはいかがでしょうか。少々お高くなりますが軽い割に威力は先程のメイスと同等です」


 俺からするとメイスなんてものの威力は重さ次第だと思うのだが、魔法がある世界だからなにか特別な力があるかもしれない。


 今度渡されたメイスを手にした華ちゃんが、同じようにそのメイスを何回か上げたり下ろしたりして、


「以前使っていたメイスと同じぐらいの重さだし、長さもこれくらいだったのでこれでお願いします」


「店員さん、それでいくら?」


「このくらいになります」


 日本刀などは、上を見ればキリがないしそれなりのものでも結構な値段だということを聞いていたので、感覚的にはそれほど高くはなかった。


 俺は告げられた代金を値切ることもせず支払っておいた。


 メイスは華ちゃんに持たせて、


「それじゃあ、ナイフを頼む」



 次に案内されたところで、


「どういった用途のナイフでしょうか?」と、店員さんに聞かれたので、俺は、


「護身用だな」と、答えておいた。実はなんとなく切れそうな刃物が欲しかっただけなので具体的な用途など考えてはいなかった。


「護身用でしたら、ナイフというより短剣に近くなりますが、これなどいかがでしょう?」


 店員さんが展示ケースから取り出して俺に渡したのは、背中側に杭のような形の刃が並んだ厚みのある短剣だった。


「ソードブレイカーです」


 これがソードブレイカーか。刃の背中側で相手の剣を受け止めてひねることで相手の剣を折ることもできると聞いたことがある。もちろん俺のような素人で使いこなせるわけはないが、なんとなくかっこいいのも確かだ。ということで俺は手渡されたソードブレーカーを買うことにした。


「それじゃあ、これをもらおうか」


 告げられた代金を払って、俺はソードブレイカーを手に入れた。ソードブレイカーには革の鞘がついていた。これから先、使うことはめったにないだろうが、男のロマンだ。


 ソードブレーカーの場合、刃の方はそれほど重要ではないし、華ちゃんのメイスに至っては刃などないので、キレーヌ度の実態は判らないままだ。


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