第52話 ダンジョンアタック2、ペンダント


 壁の空洞の中から見つけた首飾りは、首飾りというよりペンダントでどう見てもカギに見えるペンダントトップがぶら下がっていた。手に持ってひねるところにドクロのレリーフが彫り込まれており、ドクロの頭頂部の先に取り付けられた輪っかに長めの鎖が通っている。


 はっきり言って見た目が相当ヤヴァい代物なので、


「華ちゃん、俺がこれを首から下げておくよ」


 そう言って俺が首から下げておいた。幸いチェーンはかなり長かったので問題なく俺の首にぶら下がってくれた。この歳になって何気に『カギっ子』になった気分だ。


 俺のゲーム知識から言って、このカギっ子ペンダントは少なくとも中盤までは重要なアイテムになるに違いない。


「しかし、こんなところにいきなり重要アイテムが隠されていたら、誰も見つけられないよな」


「おそらくですが、探検レベルが3ある田原さんなら見つけられたんじゃないでしょうか」


「なるほど。

 連中の先回りをして、俺たちが先に見つけたってわけだな」


「ふふ。きっとそうだと思います」


 華ちゃんが嬉しそうな顔をしたところを見ると、よほどあの二人のことが嫌だったんだろう。人にやさしくすれば人から優しくされるが、その逆もよくあるしな。世の中いろいろ。


「さて、次は扉だな」


「アノマリーはないみたいですが、用心してノックで開けますか?」


「そうだな。

 しかし、華ちゃん、ゲームだとこういったサポート系の魔法をバンバン使っているといざという時攻撃魔法や防御魔法が使えなくなるから、みみっちく使うんだが、華ちゃんはそこら辺大丈夫なのか?」


「いままで魔術を使い過ぎて使えなくなるってこと自体知りませんでした」


 実に頼もしいお言葉である。


「もしも魔法が使えなくなって、先に進めなくなるようならいったん屋敷に戻って、次の日にでも再挑戦すればいいだけだものな」


「はい。でも、丸一日くらいなら平気そうです。

 それじゃあ、ノック!」


 華ちゃんの「ノック!」の声と同時に目の前の木?の扉が手前に向けてゆっくり開いた。


 扉の向うはこの部屋と同じ石でできた通路だった。華ちゃんの頭上に輝くライトの光に照らされたその通路はまっすぐ続いていて、左右の壁に木?の扉が何個か並んでいた。まさにダンジョンクロール型ゲームの世界だ。俄然やる気が湧いてきた。


「いちおう、見えてる扉は全部開けて中を確認していった方がいいな」


 なぜ全部確認した方がいいかというと、ダンジョンクロールとはそういうものだからである。


 本当はパーティーメンバーの数は6名欲しいが欲張っても仕方ないし、2人でダンジョンを攻略していけば、経験値ウハウハで成長も早い。ダンジョンの中で出くわす敵を斃せば経験値もらえるよな?


 実際のところ、ここはゲームではないので敵を斃せば経験値をいただき、ある一定量経験値が貯まればレベルアップするということはないだろうが、もしそういったシステムがこのダンジョンに実装されていたら、エラいこっちゃ。俺は寝食を忘れてのめり込む自信がある。


「まずは最初の扉を開けてみよう」


「岩永さん、その前に、ディテクトアノマリー!」


『負うた子に教えられて浅瀬を渡る』とはまさにこのことだった。華ちゃんがしっかりしたでよかったぜ。



 華ちゃんのデテクト・・・・アノマリーで通路のあちこちが赤く点滅を始めた。木の扉に至っては目に付く扉全部赤く点滅している。


「こりゃまた、ここはえらいダンジョンだなー。

 入り口からして難易度が高かったが、どこもかしこも罠っぽい何かが隠されているとは恐れ入ったぞ。

 赤いところはみんな罠だと思って、デテクト・・・・何とかで解除していくしかないな」


「アイデンティファイトラップ!」


「そこの赤い点滅はピットフォール、落とし穴でした」


「ディスアームトラップ!」


 華ちゃんがデス・・アームトラップを唱えたら、赤い点滅が消えた。試しに俺がその上に右足を乗っけて軽く押してみたが何ともなかった。


 そこで俺は如意棒のことを思い出して、アイテムボックスから取り出して両手でそこを力いっぱい突いてみたが大丈夫そうだった。それでも君子危うきに近寄らずなので敢えて全体重を乗せはしなかった。


 床の上の次の赤い点滅に向かって華ちゃんが、


「アイデンティファイトラップ!」


「ここも、ピットフォール、落とし穴でした」


「ディスアームトラップ!」


 落とし穴だらけか。


 次の赤い点滅は木の扉だ。


「アイデンティファイトラップ!」


「ポイズンニードル。毒針です」


「ディスアームトラップ!」


「岩永さん、扉を開けますか?」


「一部屋ずつ確認していこう」


「はい。それじゃあ、ノック!」


 木の扉がゆっくり向うに開いていった。


「俺が先に中に入る」


 俺が如意棒を構えて扉の先に進むとそこも10メートル四方の部屋だった。


 最初の部屋と違ったのは、部屋の中には蜘蛛の巣が張り巡らされ扉の向かい側の奥には、俺の後ろに立つ華ちゃんのライトの青白い光に照らされた巨大な蜘蛛がいた。胴体は7、80センチ、足の長さは1メートルくらい。足を広げれば2メートル以上になる。頭の部分に並んだ赤い8個の目は、どこを見ているのかは判然としないが、やっぱり俺を見ているのだろう。


 蜘蛛とムカデを比べればムカデの方が嫌だが、蜘蛛も十分いやだ。家の中にいる蜘蛛は益虫だそうだが、目の前の巨大蜘蛛はとても益虫には見えない。このまま扉を閉めてしまいたいが、それでは経験値がもらえないのでここは心を鬼にして目の前の巨大蜘蛛を斃してやろう。


 さて、どうやってこの巨大蜘蛛を斃せばいいか? 足の長さが1メートルあると言っても、俺の如意棒の間合いの方が明らかに長い。正攻法でも斃せそうだし、床は石なのでニトログリセリンを上から落としてもいい。ただその場合、10メートル四方の閉じた部屋の中で爆発させるわけだから爆風が扉に向かってこちらもタダでは済まないような気がする。


 俺がいろいろ思案していたところ、後ろの方から、


「ファイヤーアロー!」


 華ちゃんのその声と一緒に、白い光が伸びて、巨大蜘蛛の8つの目の真ん中あたりに命中し、蜘蛛は足を縮めてその場でひっくり返って、そのまま動かなくなってしまった。華ちゃんのファイヤーアローの一撃で死んでしまったらしい。


 俺の思案は一体何だったのか?



[あとがき]

宣伝:

試しに作った長文タイトル。

異世界ファンタジー『ひっこ抜いたら王になれるという聖剣をほんとにひっこ抜いたら、腰も抜けたので田舎に帰って養生します。』(全12話、3万1千字)

https://kakuyomu.jp/works/1177354055597654666 よろしくお願いします。内容はタイトル通りです。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る