道具屋転生~道具屋に転生させろと言ったが、道具屋(建物)とは言ってない~

さとう

俺は道具屋に転生する

「ご臨終です……」


 医者が、感情のない声でそんなことを言った。

 真っ白な防護服を着て、顔は見えない。悲しんでるようにも見えるし、「やっと終わった」と解放されたようにも見える。

 なぜ、そんな風に見えるのかというと……俺は、幽霊になっていたからだ。 

 素っ裸で、身体が透き通っている。

 こんなの、幽霊以外にない。


「はぁ~……苦しかったぁ」


 なぜか、俺は安堵していた。

 そう、生前はメチャクチャ苦しかった。

 世界的に流行している『ウイルス』に感染、頭痛いし咳出るなーと思って病院行ったら、「未知のウイルスです。隔離! 入院! 検査!」なんて言われて……いつの間にか呼吸がしにくくなり、頭は痛いし高熱は出るし、気付けばぽっくり死んでしまった。

 ちなみに、このウイルスは世界で猛威を振るっている。運がいいのか悪いのか……俺は感染第一号にして、死者第一号でもある。医者がそんなことを言っていた。


「それにしても、死んだのか……あああ!! PCとかスマホ、どうなんのかな!? やばいやばい。俺の書いたクソみたいな落書きイラストや、『小説家になれば?』に投稿してる執筆中の小説とか……」


 どうしよう。死んだし、頼み事もできない。 

 会社の同僚……は無理か。両親……も、無理。というかPCはパスワードで鍵かけてるから絶対に開けられない。まぁそういうの開ける業者もあるだろうけど、やめてほしい。

 ってかさ、ああいうのマジ迷惑だと思う。「故人の思い出があるかもしれないので……」なんて綺麗ごというけど、PCなんで自室以上に究極のプライベート空間だぞ。

 

「というか、俺……なんで幽霊なんだろう。死後の世界とかあるのか? 天国とか……ま、まさか!!」

『そう、大正解!!』

「うおおぉぉぉぉ!?」


 いきなり、肩を叩かれた。 

 幽霊の肩を叩くとかマジ? ってか、誰?

 俺の肩を叩いたのは、鳥の翼を生やした恰幅のいい男だった。腹やばいな。肉食いすぎだろ。


『失礼な。まぁいいや。さっそくだけど、きみには異世界転生してもらおうと思う』

「いきなりすぎ!! ってか、やっぱりそうか!! 毎度おなじみ異世界転生!!」


 そうそう、異世界転生!!

 死んでから、別の世界で無双する異世界転生!!

 まさか俺が!! はっはっは!! やったぜ!!


「でも……なんで? 異世界転生って、死んだらみんなするのか?」

『いやいや。きみ、ウイルスで死んだでしょ? 実はこのウイルス、地球上には存在しないウイルスなんだ。「ラ・レド=ヲーリアス」では風邪みたいな症状のウイルスで、一日あれば完治するんだけど……耐性のない地球人では恐怖の殺人ウイルスでね。間違えてこっちの世界にウイルスを落っことしちゃってさ……ごめん』

「え、ウイルス落としたのあんたなの!? あんた、神様じゃないの!?」

『神だって万能じゃないさ。ああ、キミの遺体から抗体が見つかってね、そのおかげでウイルスの特効薬が作られる。キミの名前は歴史に残るよ』

「はぁ……」

『あ、PCとスマホのデータは消しておいたから。あと、キミの書いた小説が書籍化するように根回しもしておいたよ』

「ありがとうございます!!!!!!」


 俺は本気で神に感謝した。

 あぁ、書籍化……誰が作品を引き継ぐのか知らんが、ありがとう。

 印税はお礼にくれてやる。


『それで、お詫びにボクの管理する異世界に転生させてあげる。もちろん、チート能力も付与してね』

「おおお……」

『で、どんな能力が欲しい?』


 そりゃもちろん、勇者。かっこいい剣。変身能力。即死スキル。

 と……普通のやつならそう願う。でも、俺は違う。

 

「3~4時間くらいの働きで、かなり給料がもらえて、異世界っぽい仕事ができるスキルをくれ!!」

『……具体的だね』

「そりゃ、勇者とかバトルスキルなんてもらったら戦いに駆り出されるだろ。そういうのは見たり聞いたり読んだりするから面白いんだよ。実際にやるとなると、間違いなく地獄だと思うぞ」


 そういうのは、漫画や小説だから面白い。

 自分が勇者? そんなのまっぴらごめんだ。


『そうだな……じゃあ、道具屋なんてどう? きみが道具屋になれば、好きな時にお店を開けて、好きな時に店を閉めれる』

「いいね。異世界の道具屋か!」

『あと、レベル制にするか選べるけど』

「レベル制? ああ、レベルが上がると種類が増えるとか?」

『うん。ま、長い人生になるし、ちょっとくらい苦労するのもありかもね』

「ん~……まぁ、適度な刺激も欲しいし、別にいいか」

『じゃ、レベル制を採用するね。能力は『道具屋』……よし、設定完了』


 神様は、指をパチッと鳴らす。

 すると、俺の身体が発光した。


「おおお……」

『ああ、ボクの管理する世界は地球と同じくらい広くて大きいよ。きっと楽しいと思うから、頑張ってね!』

「ああ、ありがとう神様!! ありがとう!!」

『あはは。ボクのせいで死んだのに、ありがとうってのはねぇ…………あれ? あ、やばっ、ちょっとミスったかも……あ、あはは。まぁ、なんとかなるよね』

「え?」


 俺の身体が光輝き───温かく包まれるような感覚が。

 神様がなぜか苦笑しているのを最後に見て、俺の意識落ちていった。


 ◇◇◇◇◇◇


「う…………」


 目が覚めると、目の前は緑だった。

 木? 藪? なんだこの木……幹が真っ黒だ。

 

「あ、あれ……首が動かん」


 首が回らない。

 でも、首を回そうとしたら、視界が回った。

 なんかおかしい。


「…………え、なにこれ」


 身体がない。

 意識を下に向けてみたのは、ボロボロの小屋だった。

 山小屋みたいだ。ぼろい引き戸の、ぼろい山小屋。

 どうなってんだ? 


「あ、看板……何も書いてない」


 な、なんか嫌な予感しかしない。

 俺、道具屋になったんだよな? 道具屋……道具屋?

 待てよ、あの神様……『あ、やばっ、ちょっとミスったかも……』なんて言ってなかったか?

 猛烈に、嫌な予感がした。

 俺は、伝説のセリフを叫んでみる。


「ステータスオープン!!」


 そして、目の前にステータス画面が表示された。


◇◇◇◇◇◇

道具屋 レベル1

従業員 0

商品 ──

◇◇◇◇◇◇


「……………………」


 まさか、まさか……まさかのまさか。


「まさか俺、『道具屋に転生』したんじゃなくて……『道具屋(建物)に転生』したの?」


 俺の身体は、ぼろっちい掘っ立て小屋になっていた。

 

「噓だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 俺の叫びは、どこかもわからない森に吸い込まれていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る