SS11 あなたの重み
「ひぇっ……」
風呂上がり……
「これは……マズい……」
そして……とある決意を、固めるに至ったのである。
◆ ◆ ◆
◆ ◆ ◆
「俺、ダイエットを始めるよ」
「思うんだけどさ。それ、普通は私の役割じゃない?」
決意を秘めた目で宣言した秀くんに、思わずツッコミを入れてしまった。
いやもちろん太りたいわけじゃないけど、なんかこうお約束ってものがさぁ……。
「まぁいいけど……確かに言われてみれば、ちょっとだけ顔に丸みが出てきたような気もするかな?」
「だろ?」
「でもそれ……私としては、ちょっと嬉しいかも」
「唯華、デブ専だったのか……?」
「あはっ、そうじゃなくて」
もちろん私は、プクプクに太った秀くんだって愛せる自信はあるけれど。
「太っちゃうくらいに、私のお料理を沢山食べてくれてるってことでしょ? 作り甲斐があるってもんだよね」
「ははっ、確かにな」
微笑んでみせると、秀くんもクスリと笑って。
「あぁ、だからご飯の量はそのままで頼むよ」
「てことは、運動を増やすのかな?」
「うん、明日の朝からジョギングを始める」
「あっ、それじゃあ私も一緒に走っていい?」
「もちろん。一緒に走ってくれると退屈も紛れて助かるよ」
という運びになった。
んふっ……一緒にランニングなんて、夫婦っぽくて良いんじゃないっ?
……なんて、ちょっと浮かれていた私だけれど。
◆ ◆ ◆
翌朝、一緒にジョギングを始めてみて。
「早朝ジョギングって、気持ち良いよねー」
「だな、頭がシャキっとするよ」
最初は、そんな風に和やかに並走していた私たち。
◆ ◆ ◆
「へー、こんなところに古本屋さんあったんだ。いっつも手前で曲がるから知らなかった。今度行ってみよっと」
「近所でも、意外と入ったことのない通りとかってあるよな」
◆ ◆ ◆
「全然知らない景色の中を走ってると、自転車で行けるところまで行こうとした時のこと思い出すよね。行きあたりばったりだったから、帰り道で迷子になって」
「ははっ……流石に今回はちゃんと下調べしてコースを考えてるから安心してくれ」
◆ ◆ ◆
「わっ、ここが市の堺になってるんだっ?」
「こういうの、普段ならあんま意識することなんてないから面白いな」
と、この辺りまでは私も普通に対応してた。
だけど。
◆ ◆ ◆
「ぜぇ……はぁ……あの、秀くん……なんか、ここから隣の県って書いてある気がするんだけど……」
「そうだな、こういうわかりやすいランドマーク的なのがあると励みになって良いよな」
「いや、ていうか……そろそろ戻った方が良くない……? もう、結構走ってるけど……」
「うん? Uターンポイントはまだまだ先だぜ?」
「えっ……? ごめん、聞いてなかったんだけどこれ何キロ走る想定なの……?」
「とりあえず、往復で大体四十キロになるよう計算してる」
「
「いや、2.195キロは省略するし」
「むしろそこまでいったらあと2.195キロも走れば!?」
運動強度が、ガチアスリートのそれ!
私的には、楽しくおしゃべりしながらちょっとそこまで走るって程度のつもりだったのに……現時点で、もうだいぶキャパオーバーだよ……!
「ちょっ、ごめん秀くん、私はここでリタイア……」
流石に、ノー準備でフルマラソンは想定外すぎるからねぇ……!
「ん、わかった。気をつけて帰ってな」
「こっちの台詞過ぎるんだけどね……ホント、無理せず無事に帰ってきてね……?」
「あぁ、もちろんだ」
と。
若干の不安を抱えながらも、十キロくらい走ったところで私は帰路についたのだった。
帰りは歩いて帰ったけど、それでもめっちゃ疲れました……。
◆ ◆ ◆
その後。
「ただいまぁ……」
完全に日も暮れた後に帰ってきた秀くんは、見るからに疲労困憊って感じだった。
「おかえりー、そしてお疲れ様。流石に、フルマラソン走ったら体力が限界だよね……」
私は、出来るだけ優しい笑みでそれを迎える。
「その後でジムに行って、エアロバイク180km分漕いだ後に水泳もしてきた……」
「トライアスロンまでやったの!?」
ちょっと……いや、かなり想定を超えた運動量なんだけど……。
「いや、スイムの一キロ時点でギブだった……アイアンマン・ディスタンス基準だと、3.8km泳がないとなんだけどな……ランもフルでは走ってないっていうのに……俺もまだまだだな……」
「ストイックが過ぎる……いやホント、それダイエット目的でやる運動内容じゃないからね?」
「明日はやっぱ、標準通り水泳から入ってみるか……」
「明日もやるつもりなの……? やめときなよ、身体壊しちゃうって……」
「けど、このくらいやれば手っ取り早く身体が引き締まるだろ……?」
「それはそうだろうけど……ていうか、何が秀くんをそこまで駆り立てるの……?」
そもそも、言うほど太ってるわけでもないと思うんだけど……。
「いや……太ってる俺は、なんつーか……」
とそこで、秀くんはなぜかフッと小さく笑う。
「解釈違い、ってやつだからな」
「よくわかんないけど、なんか言動が一葉ちゃんに影響されてない……?」
なぜかキリッとした表情なとこも含めて……。
「まぁ、つまりはだな」
なんて思っていたら、今度はちょっと照れくさそうな表情で頬を掻く秀くん。
「いざって時に、身体が重くて唯華を護れないなんて事態になったら嫌だから」
「っ……!」
あぁもう、相変わらずナチュラルに不意打ちしてくるよねぇ……!?
私のために無理なんてしてほしくはない気持ちは、もちろんあるけど……こんなこと言われたら、頭ごなしには否定出来ないじゃない……!
でも、そういうことなら……!
「じゃあ……」
―――――――――――――――――――――
すみません、長くなったので分けます。
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