異世界転移したら大賢者だった。「なにこれ?序盤から最強になれる? まあ、異世界だし、別に最強になっても大丈夫だよな?」

鏡つかさ

第1章

あれ?ここは?


【プロローグ】──廃人ゲーマー、ついに限界を迎える。


プロフェッショナルネットゲーマー(自称)である俺──**宮崎 楓(みやざき かえで)**は、ズキズキと痛む頭を押さえながら、ひたすらキーボードを叩き続けていた。


画面の中で対峙しているのは、このゲーム『World Sense(WS)』において最強と名高いボス、黒龍カムイ。そして、俺のキャラ。


こいつと戦うのも、もう二百戦以上か。


最初は苦戦したが、攻撃パターンにも慣れ、今ではギリギリで避けて首を狙うこともできる。


──ズバッ。


ついに最後の一撃。剣がボスの首を切り裂き、HPが0になる。


画面がフラッシュし、黒霧となって消えていくボス。


そして表示されたのは討伐報酬と、入手経験値。


その中に、ついに……あった。


【ムラサメ】──伝説級の呪刀。ドロップ率1%、挑戦回数234回。


三日前、運営がイベントを開始した。


その内容は「伝説級アイテムの期間限定ドロップ」。


対象は、このゲーム内に存在する最強クラスのボスたち。そしてムラサメは黒龍カムイからのみ入手可能だった。


今日がイベント最終日。残り時間は──


「……23時29分」


モニター右下の時計を見て、思わずニヤリと笑う。


ギリギリで間に合った。


──そのまま、俺はキーボードに突っ伏した。


力が入らなかった。眠気も、空腹も、疲労も限界だった。


大学の単位はすでに取り終わっている。開放感とともに、俺はこの数年どっぷり浸かってきたMMORPG『WS』に全力を注いでいた。


睡眠ゼロ、栄養ゼロ、生活リズムはもはや幻想。


でも、それでも──


やっとムラサメを手に入れた。


……もう寝ていいよな?


布団まで行く体力も残ってない。


じゃあ、少しだけ……このまま……


意識が、沈んでいく。



「──宮崎楓さん。ようこそ、死後の世界へ」


次に目を開けたとき、俺は真っ白な空間にいた。


中央には木製のテーブル。湯気の立つポット。そして向かいには──


女神のような美少女が座っていた。


長い水色の髪、陶器のように白い肌。体型は……完璧だ。露出度の高い羽衣に包まれたその姿は、現実離れしていて思わず見惚れる。


「……誰、この人?」


「ふふっ、驚くのも無理はありませんね。私はアリア。日本において、若くして亡くなった人を導く、聖なる女神です」


女神……?


ってことは──


「俺、死んだのか?」


「はい。主な原因は、健康管理の欠如と過労死です。ここ三日間、睡眠ゼロでゲーム漬けでしたね?」


あっ……うん、確かに。


「あのボス倒すために、ずっと起きてたしな……」


「でも、ご安心ください」


「……いやいや、死んだんですけど」


ツッコもうとした瞬間、アリアはにこやかに手を挙げた。


「では、報告があります。──おめでとうございます!貴方は《異世界転移ガチャ》に当選しました!」


「…………は?」


アリアのテンションに、俺の思考が一瞬で停止した。


「異世界転移……ガチャ?」


「そうです!説明しますと──これは死後の世界で行われているちょっとしたゲームです。ガチャで当選した方には、異世界で第二の人生をプレゼント!」


何そのノリ。


だが、異世界転移……なんかロマンはある。


「まあ、せっかくだし。やってみるか。……お願いします、異世界へ転移させてください」


「ご理解が早くて助かります」


アリアは笑顔で頷いた。


「それと、特別に《願い》を二つまで叶えてあげます」


「マジで? それはありがたい」


しばし考えて──


「じゃあ、一つ目。できれば人が少ない場所に転移してほしい。いきなり町のど真ん中に現れたら目立つし」


「了解です」


「二つ目は……そうだな。身を守る力が欲しい。戦えるとか、逃げられるとか。万能じゃなくていいけど」


「剣術天才系と魔法チート系、どちらが好みですか?」


「……どっちも捨てがたいから、おまかせで!」


「ふふ、わかりました。では契約、成立ですね」


そう言ってアリアが立ち上がり、俺の額に手を当てる。


「我は女神アリア。この者に第二の生を与え、望みを叶えん──」


淡い光が俺を包み、視界が白く染まっていく。


──ありがとう、アリア。



─────────────────────


■カエデ Lv:1

■HP:100/MP:100

【STR】10 【VIT】10 【AGI】10

【DEX】10 【INT】10 【LUK】10

スキルポイント:0/所持金:1000E

職業:無し/称号:無し

装備:村人のシャツ(黒)・ズボン(黒)

魔法:なし/スキル:なし

アイテム:世界地図


──────────────────────


「……これ、ステータス画面?」


目を覚ました俺の目の前にあったのは、半透明のウィンドウ。


まるでRPGのキャラ情報みたいなそれが、確かに俺にだけ見えている。


──夢か?


WSやりながら寝落ちして、そのまま夢の中ってオチ?


……でもアリアの顔とか、声とか、まだ頭の中に鮮明に残ってる。


となると──これはもう確定だ。


「始まったな、俺の第二の人生……!」


心の奥からワクワクが湧いてくる。


辺りを見渡すと、そこは緑に包まれた鬱蒼とした森の中。


そして目の前には、一軒の古びた建物。


廃墟か……? いや、違う。本棚が見える。もしかして──書庫?


ともかく、まずは探索からだ。

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