異世界転移したら大賢者だった。「なにこれ?序盤から最強になれる? まあ、異世界だし、別に最強になっても大丈夫だよな?」
鏡つかさ
第1章
あれ?ここは?
プロフェッショナルネットゲーマー(自称)である俺──宮崎楓は頭痛をこらえながらひたすらキーボードを操作していた。
画面に表示されているのは、このゲームで最強と言われているボスと俺のキャラである。
確かにこのボスは最強と言われているが、何度も同じボスと戦っていると、徐々にそのボスの動きや攻撃パターンに慣れてくる。
ボスの必殺攻撃を的確に躱し、剣でボスの首を切り落とすと、ボスの残りHPが0になった。
ボスが断末魔を上げながら黒霧になって消えると、討伐賞品と得られた経験値が表示される。
そしてその中にそれもあった。
俺がこのボスに234回も挑んだ理由。それは、ドロップ率が1%の伝説級のアイテムを入手する為だ。
3日前に運営がとあるイベントを開始した。
そのイベントとは、伝説級のアイテムを一時的に入手可能とするというもの。
入手方法はゲームにおいて最強と言われているボス達を討伐すること。
俺が狙っていた伝説級のアイテムは【ムラサメ】。伝説の刀工である村雨が錬成した、「呪われた」日本刀だ。
入手するためには、このゲームに登場するボスの中で最強と言われている黒龍カムイを討伐しなければならない。
1%を引くために何度も何度も…
さらにイベント限定のアイテムのため、このイベント中にしか入手できないというわけだ。
三日前から開催されており、終了は今日の23時半である。
俺は画面の右下に表示されているデジタル時計を見る。
現在の時刻は23時29分。ギリギリのところで入手できたというわけだ。
時間を確認した後、もう一度ゲーム画面に目をやると、思わずニヤける。
俺はそのままキーボードに突っ伏した。
こうなった原因は、俺が単に無茶をしたからだ。
今年大学で必要な単位を既に取り終わった俺は、開放感と没入感に身を任せて、この数年間に亘ってずっとハマっていたMMORPGである『ワールド・センス』、通称『WS』に時間を全て費やしたのだ。
ろくに睡眠も栄養も取らず、ひたすらゲームに身を投じたせいでこうなっちまった。
でもその疲労感と空腹感とともに、どこからか達成感が湧いてきた。
·····まあ、狙っていた物をやっと入手したし、もう寝ちゃっていいよな? うん、寝てもいいなぁ。あとでちゃんと睡眠を取ったらなんか食ってゲームを続けよう。
と、そんなことを思いつつ目を閉じると、キーボードに突っ伏したまま、意識を失った。
◇
「宮崎楓さん、ようこそ死後の世界へ。残念ですが、貴方は死んでしまいました」
気が付くと、俺は真っ白な部屋にいた。
部屋の中央には四角いテーブルが置かれている。
そしてそのテーブルの上にはお湯か何かが入ったポットが置かれていた。
俺に人生の終了を告げてきた相手は、テーブルを挟んで向かい側の椅子に座っている。
もし女神というものが存在するのなら、きっと目の前の相手のような存在のことを言うのだろう。
淡い水色の長い髪に、陶器と見紛うほどの純白の肌。
年は俺と同じくらいだろうか。
太過ぎず細過ぎず、出るとこは出てよく引き締まった完璧な躰は、俗に羽衣と呼ばれる布切れに包まれていた。
長く見つめていると吸い込まれてしまいそうな、髪と同じ色の淡い碧眼が、瞬くことなく俺をじっと見つめている。
俺は呆気に取られていた。
誰、この人?
と、そんなことを思いながら、
「はぁ? ついさきほどまでゲームをやっていたんですけど?」
そう俺が答えると、
俺の言葉に反応し、彼女は頷いた。
「ええ、そうですね」
「じゃあ!」
「貴方はここ最近、あまり健康的な生活を送っていなかったですよね?」
え?
そのせいっすか?
まあでも、よく考えればゲームをやる為に何日も一睡もせずに過ごしていたな。
それが原因か。
「それで、俺が死んだってわけか」
「そうです。でも安心してください」
安心?
この状況で?
そんなこと、できるわけないじゃん。
そう口を開こうとしたとき、謎の女の子に遮られた。
「あぁ、自己紹介はまだでしたね。私はアリア。日本において、若くして死んだ人間を導く聖なる女神です」
「女神?」
ガチで言ってる?
「そうです、女神ですよ?」
ガチっぽい。
「それで確認ですけど、貴方はゲームとか好きなのでしょう?」
って、いきなりどうした?
と、そんなことを思いつつ俺は答える。
「…はい、好きですけど?」
俺が素直に答えると、彼女は満足そうな笑みを浮かべる。
いやまじでどうしたんだ?こいつ、大丈夫?
「では、貴方に提案…というか報告があります」
そう言って、コホンと咳払いをするアリア。
一度落ち着いたところで語り出す。
「おめでとうございます!貴方は異世界転移ガチャに当選しました!」
「異世界転移ガチャ?」
「はい!」
アリアはニコニコしながらそう答える。
「異世界転移ガチャとは……まあ、異世界転移ガチャです。ここには、とある遊びがありまして、簡単に説明するとガチャを引いて、当たった者に異世界に転移するチャンスを与えるゲームです。そしてそのガチャを引いて当たったのが貴方でした」
そう説明してくれるアリア。
嫌なんだけど、その遊び。
まあでも、せっかく異世界に転移するチャンスが与えられたし、断るのは損だろう。
「なんかちょっと怪しいけど、はい。異世界に転移させてください」
もう死んだし。
ってことは【転移】じゃなく【転生】か?
できれば、死ぬ前の姿のまま転移か、大人の肉体で送って欲しいんだが。
転生して赤ちゃんからやりなおしなんて、流石にキツすぎるぞ。
「そう言ってくれると助かります。おまけで、貴方の願いを少しだけ叶えてもいいですよ?」
「俺の願いですか?」
「はい!例えば……特殊なスキルを所持したり、良い出会いが出来るような運命を持っていたりとかですね」
「ん?」
俺の願いか?
そんなこと、考えたことがない。
「これから俺が行く世界って、どんなところですか?」
まずは情報収集から始めよう。
「貴方が元々居た世界と比べると、まだまだ発展途上の世界ですね。スマホとか、そういうのがまだ存在しないってわけです。もっと具体的に言えば、貴方の世界でいうところの中世時代、半分くらいはあれに近いです」
「なるほど…」
そう頷く俺に対して、彼女はこう提案する。
「それでは2つ、願いを叶えてあげましょう。なんでも遠慮なく言ってください」
「本当ですか? それは本当にありがたいですね。 じゃあ、お言葉に甘えて………、1つ目の願いは、出来ればあまり人の居ない場所に転移させてくれませんか?」
「人の居ない場所?」
「ええ。町の中心に急に人が現れると変な関心を引きますから」
「だから人の居ない場所ですか。わかりました」
「ありがとうございます」
「では、もう一つの願いは何でしょう?」
「うん……」
「……」
「俺の2つ目の願いは……ふむ。そうだな。あ、あれがいい! 俺の2つ目の願いは身を守れるだけの力が欲しいです!」
「もっと具体的に説明してもらっていいですか?」
そう、困惑しているような表情で言うアリア。
「いやぁ、万能魔法とか剣術天才とか、どっちも魅力的だと思いませんか? でもひとつしか選べない。マジ、どっちでもいいからアリアさんに任せたい思います。選ぶのが難しすぎる」
「そうですか? それならお安い御用です」
「ありがとうございます」
そう、俺が礼を言うと、アリアは椅子に座ったまま、姿勢を正す。
「これで契約が結ばれましたね」
そう言った瞬間、俺の身体を包む光が現れる。
椅子から立ち上がるアリア。
そのまま目の前まで来ると、俺の額に手を置く。
「それでは……」
と、そこでアリアは目を細めると、何かを呟き始める。
「我は女神アリア。我に宿るこの聖なる力を根源に、この者の願いを叶え、第二の人生を与えたまえ」
そう言うと、身体を包む光が強くなり、視界が真っ暗になった。
意識が遠のいていく。
気付いた瞬間、パニックに陥ったが、身体を動かすことはできなかった。口を開くことすらもできなかったのだ。
「では、ここではお別れですね。第二の人生を楽しんでください」
最後にアリアの言葉が聞こえた。
そして俺は完全に意識を失った。
◇
─────────────────
■カエデ レベル 1
■体力:100
■魔力:100
【10】STR(筋力)
【10】VIT(耐久力)
【10】AGI(敏捷度)
【10】DEX(器用度)
【10】INT(知力)
【10】LUK(幸運度)
ステータスポイント:0
スキルポイント:0
■職業:無し
■称号:無し
■装備 頭【空欄】
体【村人のシャツ《黒》】
右手【空欄】
左手【空欄】
足【村人のズボン《黒》】
装飾品【空欄】
■魔法
なし
■スキル(0/∞)
空欄
■所持アイテム
・世界地図
■所持金
・1000E
─────────────────
「何これステータス画面?」
意識を取り戻すと、最初に目に入ってきたのは、どこかで見たことがあるような画面だった。
RPGで使われている半透明なステータス画面だ。
もしかして、夢なのか?
現実に、こんなものが表示される訳が無いし。
WSをやってる時、PCの前で寝落ちしてしまったのか?
そんな可能性が…………ないか。
……さっきのって確実に夢じゃなかったしな。
じゃあもしかしてあれか?
アリアが与えてくれたもの?
なぜか分からないが、そんな気がする。
これで、俺の第二の人生が始まったってことだな。
とても嬉しいんだが、冷静を欠くわけにはいかない。
とりあえず、周辺の探索をしてみよう。
そう決め、俺は周りを見回す。
辺り一面に緑が広がっていた。
ここはどうやらどこかの鬱蒼とした森の中らしい。
そして目の前には、1軒の建物があった。
見たところ、人は住んでなさそう。
正直に言って廃墟のように見える。
と、そう思いながらも、
扉を開けて中を見渡す。
目の前には大量の古そうな本が詰まった、巨大な本棚が幾つか並んでいる。
ここは………書店か何かか?
一見するとそう見えるが、違うかな。
まあ、それはそれとして、胸の奥で湧いてくるワクワクにしたがって、中に入っていった。
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