第8話


「ご苦労様でした」


 崩れていた土砂の撤去が終わると、反対側の連絡路へと繋がった。

 そこで兵士と合流。

 マットに説明責任を全て投げ、転写した紙を渡しただけで俺のお仕事は終了。

 とは言っても、俺の仕事は坑道内の地図と最短ルートの明確化だけじゃない。

 最短ルート内には《動物避け》の魔術陣も仕掛けておき、安全の確保もした。

 これは魔術陣に魔力を補充するだけで魔物が寄って来なくなるようになっている。

 うっわ、俺ってばはったらき者~。


 いろんな手続きを終えた頃には日が沈み、この日は反対側の宿場町【ヘア・ホール】にて泊まる事となった。

 例に漏れず宿は満室。

 周囲の目を気にした結果、珍しく《野営領域展開(キャンピング・フィールド)》を使わずにテントを設営した。


「これが今回の報酬です」

「おぉ!サンキュ」


 説明を終えたマットが小さな麻袋を手渡してくる。

 袋の中には金貨やら銀貨やらがゴロゴロ入っており、何%抜かれたかを確認する術はない。

 っつーか今思えば、俺はこの世界の貨幣価値をほぼ知らない。


「んじゃあ、アリスとティリスにはお小遣いをやろうなぁ」


 別にマットに騙されていても特に気にしない俺は、そう言いながら適当なポチ袋を取り出す。

 そして、金貨を一枚ずつ入れて二人に渡した。


「「え?」」

「え?少なかった?」


 金貨を渡したから良いかなって思ってたけど、足りなかったか?


「いえいえいえ!ピーターさん、ボクがこんなに貰っていいんですか?」

「私もですよ!」

「え?だって、坑道内での戦闘はほぼ二人がやってたろ」

「だからって金貨なんて貰いすぎです!」

「いいよいいよ。働いた分の価値なんてそんなもんだよ」


 護衛に支払う相場とか知らんしな。


「でも……」


 アリスもティリスも未だ納得できていないようだ。

 だから、俺はもう一つ理由を作る。


「教えたことは出来ていたし、教えてない事もキチンと実戦に耐えうるレベルで出来てた。だから、そのご褒美も含めて。これでどうだ?」


 俺がそう言うと、二人は顔を見合わせて頷く。

 そして、俺があげたポチ袋をギュッと握りしめる。


「「ありがとうございます」」


 嬉しそうに……ではなく、ちょっと潤んだ瞳のまま二人がお礼を言う。

 まぁ、いっか。

 俺は二人の頭を撫でまわす。


「これからもがんばれよぉ、お前ら」

「「はい!」」


 と、そこでマットが話に割り込んでくる。


「すいません。お三方」

「ん?どうした?マット。仲間外れにされて悲しいのか?金貨はもうないけど、せっかくだから頭でも撫でようか?」

「違います。変な事をしないでください」


 なんだ違ったのか。

 本気で嫌がったな。

 本気でするつもりも無かったけどさ。


「今後の事についてご相談が」

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