第5話
律義に待っていても状況は悪くなるだけ。
俺は息を軽く吸い、深く吐く。
そして、もう一度吸った瞬間に地面を蹴る。
「《炎熱砲撃魔術(ブラストファイア)》」
ダンプティの頭上に一瞬で移動し、撃ち下したのは炎系の中級魔術。
速射性があり、貫通性能もあり、なにより炎特有の熱によるごり押し的な突破力が備わっている。
この攻撃には鎖による防御では足りないと察したのか、ハンプティは咄嗟にダンプティへとタックルをかました。
ゴロゴロと運動会の大玉ころがしのように転がるダンプティ。
しかし、そのおかげで俺の魔術は地面へと激突した。
「ふぅ……危なかったな兄弟」
本当にファインプレーだよお前。
とっさの判断が的確過ぎて泣けてくる。
しかし、ダンプティは頭を押さえながら立ち上がり、ハンプティに近づくと彼の頭を殴った。
「どこに目ェつけてんだキョウダイ!オデは味方だぞ!?」
「狙われていたのだぞ兄弟!その武器を直している間に他の事が見えなくなる癖をどうにかしろ!」
「いきなり攻撃して来ておいて!なにを言っている!?」
「助けてやったのだと言っているだろう!」
基本的にバカなんじゃないかな。
なんでこんな場面で言い争いしてんのさ。
「《下級捕縛魔術(バインド)》」
そんな隙を見逃さずに俺は彼らを縛り上げる。
「ムオッ!?」
「なんだ!?」
どうせすぐに逃げられるだろうから、動かれる前に重ねておくか。
「《氷結捕縛魔術(フリーズソーン・バインド)》、《岩石捕縛魔術(ロック・バインド)》、《電撃檻獄魔術(ディスチャージ・インプリズン)》」
氷の茨が彼らの足を取り、せり上がった岩が彼らの体を押さえつける。
そして、絶えず放電を繰り返す雷の檻が熱を帯びながら彼らを閉じ込めた。
BLT競技内でもこの多重捕縛から抜け出せる奴はほとんどいなかったから、少しはもつと思うんだけど……。
そうして様子を見つつ、次の一手を準備しているとッパァン!と銃声が轟く。
岩の隙間からハンプティの腕に当たり、青い血が流れ出る。
音の方を見ると、銃を構えているアリス。
アレ練習用の魔導銃だから殺傷能力は無いはずなのに……なんで?
「遅くなりました!加勢しますッ!」
横に来たアリスはなぜか若干涙目で声が震えている。
まぁ、加勢してくれるのは嬉しいんだけども、なんで泣いてんの?
「《貫通力強化(ペネトレイター)》、出力強化ッ!」
アリスはそう叫んで、引き金を何度も引く。
俺の術の隙間、かつ足や腕の鎧のないところに命中させた弾がオークの体を貫く。
なるほど……。
アリスの方は《貫通力強化(ペネトレイター)》使えたのか。
っつーか、非殺傷攻撃に殺傷能力を付けるってどんな強化率だよ。
「《風刃射出魔法(ウィンドカッター)》!」
動けないオーク二匹の足に向けて放たれる風刃。
ティリスの攻撃により、彼らの兜が割れ、頭部から僅かに血が垂れる。
「うぅ……、ボクの術だとこの程度みたいです。スミマセン」
「謝る必要はないぞ。アイツらの皮膚が固すぎるだけだ」
敵は拘束状態で、三人が揃う。
状況としてはこちらが有利にも見える。
しかし、オークたちは慌てることなく静かに立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます