第8話
山賊全員が驚きを隠せていない中、一足先に我に返った俺はちょっと溜息を吐く。
「まぁ、確かに見た目は可愛いけど、どことなく少年っぽさがあるだろうに。なんで見た目で気づかないんだ?」
「そうですよね!?ボクにもちゃんと男らしさはありますよね?」
「だぁかぁら!もうその話は終わりですって!」
役得とも言える記憶を思い出したのか、顔を真っ赤にしているアリスがバタバタと腕を動かして話を止める。
そうか。さっきの話題はこれ関係だったのか。
俺が納得していると、アリスが俺にしがみつき横から顔を出してオッサンを睨み上げる。
そして、俺を盾にしたままカッコよくキッパリと断りを入れた。
「お金は渡せません!」
「そもそも持ってないからな」
「ティリスもあなた方には渡しません!」
「そもそも男だしな」
「私もあなた方のモノにはなりません」
「そもそも魔族だしな」
「変な合いの手入れてないでちょっとは追っ払ってくださいよ!」
叫ぶアリスを「どうどう」となだめていると、ティリスの体が地面へと沈む。
綺麗な脱力により体勢が低くなり、沈んだ力を利用してその場で半回転。
傍で見ていたはずの盗賊二人もティリスの行動を見ているはずなのに反応できていない。
「《複製魔法(デュプリケイション)》!《乱れ投げ》!」
懐かしき魔術名にちょっと心が躍る俺。
ティリスの手には魔力で生成された五つのナイフが握られ、同時に前方へと投擲する。
投げ出されたナイフはすべて直線を描き、ティリスに近づいていた二人へと突き刺さった。
「痛ッて!」
「何しやがんだこのガキ!」
う~ん。至近距離だから命中はするけど威力がなぁ。
至近距離での攻撃なら《投擲》か《連投》で十分な気がする。
《乱れ投げ》は混戦で使うべきだろうな。
俺がそんな事を考えていると、大人しく見ているだけだった他の男たちも次々と馬から降りて、剣を抜く。
そんな彼らを見て、俺とアリスの頭にそれぞれ天啓が下りる。
「アリス!」
「わかってます!」
俺は刀を抜き、アリスは銃を握る。
アリスが横に跳んでから、俺は馬から降りた盗賊に向かって走り出す。
一瞬で距離を詰め、男に向かって刃を振り抜く。
紅い凶刃は呆気なく盗賊の体を両断し、鮮血が舞う。
そして、轟音と共に撃ち出される弾は恐慌に陥り、本能で逃げようとした“彼ら”の足関節を砕いた。
ティリスの開戦合図から五分と経たずに戦闘終了。
いつの間にかヒゲ面のオッサンは馬に乗って逃げおおせ、この場に残ったのは六人の遺体と足を怪我した二頭の馬。
他の盗賊が乗っていた馬の大半はどこかへと逃げてしまった。
戦闘としては大勝利。
しかし、俺とアリスは互いに睨み合って、口論を始めていた。
「なんで馬も撃ち殺した!せっかくの移動手段だろうに!」
「それならそうとちゃんと言ってください!悪魔の森では【バイコーン】も【ナイトメア】も斬ってたじゃないですか!だから、あの子たちも美味しく頂くんだとばっかり……。ピーターが邪魔で二頭しか仕留められなかったじゃないですか!」
この肉欲魔族が……。
すでに肉の事にしか見てないな?
「あの……」
「ん?」
ティリスが申し訳なさそうな表情を浮かべながら、手綱を引いていた。
その先には一匹の哀れなお馬さん。
「お二人とも、これで機嫌直してください」
いや、待って。
その言い方だとその馬さんがヤギさん(スケープゴート)になっちゃう。
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