第13話 転生エルフ(100)、宿代のために魔物を狩る。

 外の世界に来てからはや1週間が経った。

 目的地はオゥル皇国領地の一つ、ガルランダ辺境伯領だ。

 

外の世界をまるで把握していなかった俺にとって、名無しの女アノニマス――もといミノリの存在は非常にありがたいものだった。


 よく考えれば道も分からなければ、今いる場所も分からないんだもんな。


「ガルランダ家に顔見せってリース様、辺境伯の領主様とお知り合いなんですか!?」


「あれ、ガリウスくんってそんなに有名なんだ?」


「有名も何も、今のオゥル皇国の中で一・二を争うほどの有力領主様ですよ!」


 数日前に地図を見せてもらった時に驚いたことだったのだが、ガルランダ辺境伯領はここオゥル国の面積の五分の一を保有するかなりの有力貴族だった。


 そして辺境伯家は意外と遠いことが分かった。

 今までグリレットさんやガリウスくんは相当頑張ってエルフの古代樹に来てくれていたみたいだ。


 方やこちらは端から一文無しの俺と、今までの有り金全てを木の実購入に費やしたミノリ。

 超特急で向かう交通手段もなく、地道に徒歩での移動を選択。

 街と街の間をつなぐ街道にたまに出現する魔物は、数少ない資金源だった。


「ミノリ! スライムだ、スライムがいるぞ!」


 俺たちの前に現れるのはゲル状の生物。

 子どもでも倒せる最弱の魔物だ。


 にょんっ。にょん、にょんっ。


 草むらの影に逃げようとする魔物を俺は今逃がすわけにはいかない。

 申し訳ないが、キミを狩らねば俺たちは野宿になってしまうのだ。


「こちらもEランク魔獣角兎ホーンラビットを発見しました! 私たちの宿代の一部です!! 確実に仕留めます! ――火属性魔法、熱波轟炎ヴァイエルン!」


 ゴゥッッッッッ!!!!


 天まで渦を巻いた一重の炎が、角兎ホーンラビットの身を丸ごと包み込んだ。


「風属性魔法、鎌鼬マンティス!!」


 ズババババッ!!!


 そして俺の風属性魔法も、スライムの胴体を綺麗に二分した。

 俺とミノリ、それぞれの前には倒した魔獣が落とすという魔石がカランと落ちる。


「お見事です、リース様!」


 屈託のない笑顔でミノリはハイタッチをしてきた。

 これを換金所に売れば、それ相応の金銭と交換してくれるという。

 ……最低ランクの宿しか取れないが、それでも女の子を単身で野宿させるよりは良いだろう。


 甲斐性が欲しい。切実に。




(おいおい、たかだかFランク級魔獣相手にオーバーキルすぎないか……?)

(っていうかあの紅髪、名無しの女アノニマス……いやでも、それならもう少し獰猛な奴だったから、違うのか……?)

(一緒にいるのって、エルフ……か? だとしたら――)


 近くには冒険者と思しき一団が恐る恐るこちらを覗き込んでいた。


「……待ってて下さいね、リース様」


 明るく天真爛漫な笑顔を浮かべたリースが、ふと冒険者の方を向いた。

 メラッとミノリの剣に魔力が宿ったかと思うと、冒険者たちは「ほわぁっ!?」とはっきりと俺にも聞こえるようにして逃げ去っていった。


 俺たちの1週間はずっとこんな感じだ。


 街と街の間に出てくる低級魔物を狩っては売って、日銭を稼いでその日の宿を確保する生活が続く。



 そんな放浪生活ではあるが道中立ち寄った宿屋では、領主としてのガリウスくんは非常に好評で――。


『ガリウス様かい? ありゃぁええ領主様だで。あのヒトがどこぞから持ってきた素材で作った農具は物持ちも良ぅてなぁ。ウチの旦那がまだ村仕事出来とるのも、あの方のおかげだもんで』


 そういえばガリウスくんとは魔道書と引き換えに、古代樹産の木材を大量に渡していたな。

 


 さらに、立ち寄った魔道書館では――。


『ガリウス様は探究心の強い御方で、数百年前の捨て魔道書・・・・・も高値で買い取ってくださるのですよ。凡人に読めない魔道書なんて、置いてても売れませんからね。ガリウス様には感謝しかありません』


 もしかしたら、この魔道書館の店主がガリウスくんに売ってくれた本が、回り回って俺の所にやって来てくれたのかもしれないな。



 はたまた冒険者に仕事を依頼する仲介所、『ギルド』では――。


『ガリウス様が俺たちみたいなゴロツキにも直々に依頼してくれるようになって、俺たちもずいぶん喰えるようになってきたんだ。一つは、ここ最近で極端に増えてきた国境を攻めてくる賊軍・魔獣との抗争。こっちはここ数年死人も出てくる、厄介だが単価の高い任務だ。もう一つは、辺鄙な所にある森の警備っつってな。冒険者ランクが高くなれば何もねぇ森をただ警備するだけで金がもらえるようになるんだ。俺もそっちに行きてぇな~~!』


 そう言って、冒険者たちが指し示したのは俺の故郷のある森の近くだった。

 ガリウスくんは俺たちエルフ族の知らない所で、ひっそりと俺たちを魔獣の脅威から守っていてくれたらしい。


 ――ほ、本当に、エルフ族が存在したなんて……! 父様の言ってた通りだ!?


 初めて会った時は、終始おどおどとしていた自信なさげの青年だったが――。


「……あのガリウスくんが、ねぇ」


 あれから7年。ヒト族にとってのこの時間は、成長するに十分すぎるモノだったのかもしれない。

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