第5話 転生エルフ(93)、初見で転移魔法を成功させる。
「えぇ!? リース様、あと7年でこの森からいなくなられてしまうのですか!?」
「あぁ。今はまだ結界も張られているから俺も大きくは動けないけど、そうだな。もし出られるとしたらキミの家にも遊びに行ってみたいね」
「も、もちろんです! きっと父も喜びます! 機会があれば是非いらしてください。我がガルランダ家代々の言い伝えと盟約によって、この森に来れるのは当代当主のみとされています。ですが、リース様がいらしてくれるとあれば話は別ですからね!」
そう言ってガリウスくんが見せてくれたのは《神木の欠片》が入ったペンダントだ。
《ユグドラシルの古代樹》の一部でもあるこの欠片は、エルフと唯一交流があるという証だ。
その昔に族長がガルランダ家と交流を持った時に預けられたものらしく、彼らはそれを何百年も大事に取り扱ってくれている。
これを持った人間一人だけがこの地に立ち入ることが許されるため、グリレットさんも来れなかったんだろうな。
「それではリース様、次の機会にまたお会いできること、楽しみにしています!」
「グリレットさんにもよろしくね。会いに行くから元気してなよってさ」
今日の所はグリレットさんには会えなかったが、俺が族長からの試験を突破できさえすればまたいつでも会えるようになる。
俺がエルフ族に転生して初めて仲良くなった人だ。改めてお礼もしたいし、リグレットさんの可愛い奥さんにも一目お会いしたい。
「はいっ! リース様も、お元気で!」
ガリウスくんは、荷台いっぱいに古代樹産の木材を入れて帰っていった。
魔道書を提供してくれる代わりに古代樹産の木材を交換材料とする貿易は、俺から始めた事業だった。
族長としても唯一親交もある上に、エルフの居住区を不可侵の場所として守り続けてくれているガルランダ家が多少の利を得られるならばとこの交渉を許可してくれた。
どうもこの木材は建築や狩り武器の生産にも非常に相性が良いらしく、ガルランダ家の財政もずいぶんと潤ってくれたみたいだ。
対価としては、千冊あまりの魔道書をもらっている。これであと数年は退屈をせずにすみそうだ。
ガリウスくんが帰った後、俺はさっそく魔道書を紐解いていく。
そんな中で先ほどから気になっていた魔道書が一つある。
古びていてボロボロの様相であるそれは、いわゆる《捨て魔道書》と呼ばれる部類のものだ。
誰もが解読出来ずにいるため、死蔵していたものとも言える。
「……《転移魔法ノススメ》、か」
パラパラと書籍を捲ってみる。
一度通して読んでみる間に、日が何度か落ちたり上がったりしていた。
まだまだ虫食い程度しか読めないが、あらかたの流れは掴むことが出来た。
全属性魔法を習得してからの俺は、ついに古代魔術の習得にも乗り出していた。
太古の昔、今は絶滅した亜人種族が使っていた魔法だったり、かつて世界を牛耳りかけた魔族が使っていたものだったりとその使用者と種類は様々だ。
通常の四大元素魔法と異なり、発動のための魔力放出回路が違っていたり発動条件が特殊だったりと、年月を掛ければ掛けるほど精錬されていくのが特に面白い。
一般的に古代魔術は、基礎魔法に精通した上で数十年の歳月を掛けてようやく1つを解読出来る程度のものらしい。
人間だと、まず基礎魔法に精通する時点で4~50年がかかる。その上で古代魔術の解読に取りかかろうとするのだから短い人生で解読を果たすには相当に厳しいものがある。
だが――。
「モノは試しだ。やってみよう」
俺は5歳の頃から魔力鍛錬を積み、20歳で回復魔法、30歳で全属性魔法を習得している。
数十年のアドバンテージを考えれば、そこらの人間の比ではない。
全ては外の世界に出て行った時に、この世に生きた証を残すための下準備。
前世では何も残せなかったが、それは俺に何の下地もなかったからでもある。
そう思えばどんな修行も辛くない!
後の7年は、いかにも便利そうな転移魔法の習得に励むとしよう。
軽い気持ちで魔道書に書かれてあった魔法の詠唱に入る。
「転移魔法、
身体の周りに魔力を循環させていく。
この魔法は、成功すればより人の多い所に自分を転移させることが出来る魔法だという。
よく考えれば、いつかの時に族長にも「両親にもたまには顔を見せておやりくださいな」なんて言われてたっけ。
あれから何十年経ったか分からないけど、この魔法が成功するようになれば自然と実家の近くに転移することが出来るだろう。
身体を魔法の粒子が包んでいくのが分かる。
これはもしかして、生まれて初めて一発で魔法の詠唱に成功する快挙を――!?
シュオンッ。
実家近くであれば父さん、母さんを驚かすことが出来るだろう。
いや、もしかしたらハンモックでまだうたた寝をしている所かもしれない。
今がちょうど旬時期であるクゥコの干し実は今でも作っているのだろうか。
魔法発動を確認した俺は、期待を胸に目を開ける。
だが、そこにはハンモックもクゥコの実も家も存在していない。
代わりに鼻に粘り着く血の臭いと獣臭さが俺を出迎えた。
「ガルルルルルル……ッ!!!」「ォォォォォォン!!」「バゥアッ!!」
目の前には全身を堅い筋肉で覆われた魔獣、
クゥコの実を取りに行ったエルフが毎年この魔獣の毒牙にかかることもある。
……ってことはここは、エルフの居住区から少し離れた隣の森ということだ。
辺りにはボロボロの布きれを血だらけにして倒れている子どもたち。
そして前世日本人的感覚からして、ゴロツキと思しき見た目の大人が数名。
みんな
「クソがっ!! どこから現れやがったテメェ! ギルドの追っ手か!?」
「違う、お頭! コイツの耳見てくだせぇ、エルフ、エルフですぜ!!」
「はやく
「エルフ族……!? んな伝承上の種族が本当に存在してるって話聞いたこともないぞ……!?」
「でも実際にいるなら信じるしかねぇだろ!」
――なんだか転移は成功したみたいだけども、非常に物騒な場面に出くわしてしまったようだ。
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