第3話 転生エルフ(30)、全属性魔法を習得する。
ヒュオォォォォ。
辺り一面開けた草原で、温かい風が吹き抜けていった。
族長以外に誰にも見られない森の外れで、俺は魔法力を練り始める。
目の前には族長が用意してくれたトレーニングダミーが4体。
このダミーはユグドラシルの古代樹の枝から作られたものだ
めったに壊れず丈夫なことから、使い勝手も非常に良いと他のエルフたちにも人気の代物だ。
「火属性魔法、
ボァァァァァァァァッッ!!
両の腕から射出した炎の渦が、ダミーの姿を丸ごと包み焦がし尽くしていく。
よし、次!
「土属性魔法、
ドドドドド……ゴガンッ!!
ダミーの側の大地が隆起し、槍の姿となってダミーの身体に大穴を開けた。
まだまだっ!
「風属性魔法、
ザシュッ!!
魔法力で練り込んだ暴風が空気の刃――飛ぶ斬撃となり、ダミーの身体を綺麗に二つに分断した。
次で最後――! 俺はこれまで以上に最高放出の魔法力を溜めた。
「水属性魔法、
ザザン!
地平にどこまでも続くかのような高圧水の刀で、ダミーを縦に二分する。
目の前には壊れた4つのトレーニングダミーが転がった。
「……さて、後は壊れたら修復ということで。回復魔法、
その壊れたダミーには回復魔法をかけた。
元々が樹木から使われたものだ。以前に
「な、何とまぁ」
族長は、綺麗に直ったダミーと俺を交互に見やった。
「四大元素魔法を全て上・超級までに仕上げというのか……たった10年で……」
「……全部を超級レベルに揃えたかったんだけどね。むぅ、難しいね」
「何を言っておる。回復魔法に至っては極致級のものじゃぞ……? 普通のエルフに出来るはずが……。いや、リースはもうそこらのエルフではないか……? ですぞ……?」
最近、俺の魔法を見る度に族長の顔がヒクついている気がする。
下級、中級、上級、超級、神級、極致級と全6段階ある魔法でも、その出来映えと進捗は様々だ。
回復魔法は極致級の魔道書まで読めるようになったが、水・風属性はまだ超級の域を出ない。火・土属性はどうもエルフにとっては比較的習得しづらい魔法だそうで、まだまだ上級程度が精一杯だ。
「……冷えタオルですじゃ」と、どうもよそよそしくなり始めた族長から布を受け取り、俺は復習がてら魔道書を開いた。
「差し出がましいことかもしれませぬが、リースよ。たまには実家にも顔を見せてはやれませんかのぅ。両親もこの間、お主の不在を心配しておりましてなぁ」
「この間?」
「あぁ。つい4年前のことですな」
それは果たしてこの間なのだろうか。
とはいえここ10年はあまりエルフの森の方に顔を出さずに、ひたすら森の図書館で魔道書を読みあさって武者修行に籠もりすぎていたからな。
父さんと母さんにも、たまには挨拶をしておこう。
……と言っても、たまに帰っても父さんや母さんはほとんどハンモックに揺さぶられて日向ぼっこしたり、木の実を囓ってニコニコしているだけなのだけれども。
どうもエルフというものは時間の概念に極めて緩いらしい。
1000年も生きるとなれば、1年1年の濃さというものも引き伸びてしまうからだろう。
1年1年が恐るべき程あっと言う間に過ぎているのを感じるのも、俺がエルフの血を引いているからなのだろうか。
そんな中で、回復魔法を極めてはや10年。俺ことリース・ファランも30の齢を迎えていた。
前世の頃ならばもう死んでいる年だ。にも関わらずエルフに転生してからは毎日毎日魔法の修行と魔道書の解読に打ち込んでいる。
全ては外の世界に出向いた時に全力で生きた証を残すための布石だ。
そう思えば、たかだか100年なんてことはない。
それに森の図書館に所蔵されている魔道書も、まだまだ読んでいないものの方が多い。
「また気が向いたら顔は出しに行くって伝えておいて下さい、族長。ところで、森の図書館なんですけど属性魔法分野の更に奥に、また違う書物が眠った部屋がありませんか?」
「むぅ……、いえ、あそこには確か人類が落としていった古代魔術の魔道書がありますな。ですが、古代魔術なんてものはいくら研鑽を積んだとしてももはや読めるものではございませぬぞ。何せ古代魔術というのは――」
――そして、相も変わらずあっと言う間に63年の月日が経った。
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