第6話 魔物とご対面
メロは急いで横に置いてあった松明を拾い上げ、魔物を照らした。
猪に似ているが、猪よりはるかにでかい。それにさすが魔物というべきか、全体から
突進してきたりしないよな?
と危惧した瞬間まさにこっちに突進してきた!
俺とメロは横っ飛びになんとかかわす。魔物はそのまま止まらず洞窟の壁に激突した。ものすごい衝撃と振動で俺とメロはよろけた。岩の破片がぱらぱら上から落ちてくる。
こ、こんなやつを倒すのかよ。
足ががくがく震える。腰が今にも抜けそうだ。しかしメロは魔物の角が洞窟の壁に刺さり、抜けなくなっているチャンスを見逃さなかった。
「ルイス様、今です! 僕が魔物の四肢を凍らせて動きを封じますから、剣で首を落としてください!」
言うなりメロは氷の魔法を発動した。気合の入れ具合からかなり全力だと分かる。
角が抜けない魔物は苛立ったように咆哮した。鼓膜が破れそうな雄たけびで、地響きが轟く。角を壁から引き抜こうと必死にもがくが、すでに四肢はメロによって凍らされ、がっちりと固定されていた。
「ルイス様、はやく! 長くはもちません」
メロが泣き叫ぶように言った。俺は震える自分の足を叱咤して、腰の剣を抜いた。
そうだ、こんなにメロが頑張っているのに、俺がしっかりしないでどうする。
俺はうおおおおおおと叫びながら魔物に飛びかかった。奴の太い首めがけて剣を降ろす。
ぽきっと音がしたのと、魔物が角を自力で引き抜いたのが同時だった。その反動で四肢を固定していた氷がばきんと砕ける。俺もわけが分からず吹っ飛ばされた。
剣が跳ね返された?
おそるおそる右手の剣を見る。
剣の刃がポッキリと真ん中あたりから折れていた。
長いあいだ自室のベッドの下で埃をかぶっていた俺の剣は手入れもされず、だいぶ脆くなっていたようだ。
魔物が「よくもやりやがったな」というような鋭い目で俺を見ている。
終わった。
詰んだ。
ちゃんと剣の手入れをしておけばよかった。
「ぐおおおおおおおおお」
魔物が俺に向かって突進してくる。俺は腰が抜けて動けない。終わりだ、目をつぶる余裕さえない。
「ルイス様!」
俺は気がついたら突き飛ばされていた。そして俺の代わりにメロが魔物の角を受けた。
魔物の角はメロの背中を荷袋ごとえぐり、遠くへふっとばした。洞窟の壁に打ちつけられたメロは声もなくその場に落ちた。荷袋の中のものがばらばらとこぼれる。
「メ……メロ、メロ!!」
俺は四つん這いになってメロの元へ這って行き、抱き起した。
「ルイス様……逃げ……て」
薄目を開けたメロが息も絶え絶えに、俺に手を伸ばした。俺はその手を強く握る。
「メロ……!」
背後から魔物が迫ってきた。獲物を逃がすまいと禍々しいその双眸は俺とメロに向けられている。
魔物が足を蹴って駆けた。
俺はメロを抱きしめる。覚悟を決めたそのとき―――
みしみしという音がしたかと思うとあっという間に天井が崩れ、魔物を押しつぶした。
さっき角が刺さって魔物が暴れたから洞窟にひびが入って崩れたんだ!
「ぐおおおおおおお」
崩れた壁の向こうで魔物の唸り声がする。まだ生きてやがるのか、しぶとい奴だ。
だけどもうどうでもいい。
俺はメロを背負うと洞窟の入り口を目指した。メロを、メロを助けなくては。
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