第51話 常闇の王ドモルテの聖大魔法……こんなことになるなんて

「驚いて声もでないようね」


 騎士団長が女の声で話をしているのにも違和感があるが、意志を継ぐものと言われても研究を盗んだと聞いている以上、信用もできない。




「お前の目的はなんなんだ」




「いいわ。冥途の土産に教えてあげる。私の目的はここでアンデッドの秘宝の効果を他国に見せること。そのために、この国には生贄になってもらうのよ。だからあなたたちにも死んでもらうわ。でも大丈夫よ。安心して殺されなさい。死んでも私がちゃんとアンデッドとして使ってあげるから」




「お前は本当に賢者の弟子なのか? 賢者はアンデッドの秘宝を完成させられなかったんじゃないのか?」




「あら? 良く知っているじゃないか。大賢者様は最後にアンデットの秘宝の研究をされていたが、完成間近で亡くなってしまったの。それを私、大賢者様の最高の一番弟子が後を継ぎついに完成させたのよ」




 団長が女っぽい感じで話しているせいで、騎士団の面々からざわざわとしてくる。


 そりゃそうだろ。




 操られているとはいえ、騎士団長が女っぽいしぐさをしながら、女の声で話をしているのだ。誰だって驚きたくもなる。




「賢者が死んでからずいぶんかかったんだな。お前もアンデットなのか?」




「ハハハ! アンデットなんかと一緒にしないでもらえる。そうね……私は独自の研究の結果、永遠の命を手に入れたのよ。アンデットのように意思も持たない役立たずとはまったく別よ」




「騎士団とかから魔石を盗んだのもお前だな!?」


 俺はみんなに聞こえるようにわざと大声で確認をする。




「えぇそうよ。このアホの騎士団長を操って盗んでやったのよ。面白いでしょ。自分で盗んで、自分で探しているのよ。犯人なんて見つかりっこないじゃない。本当に笑えたわ」




「お前が魔石を盗んだ犯人だったなんて。俺が絶対に捕まえてやるからな。隠れてないで出てこい!」




 周りで騎士団の奴らが俺たちの会話を聞いている。




「出て行くわけないでしょ。馬鹿じゃないの。あなたたちが見つけてみなさい。まぁ、無理でしょうけどね。私のアンデット軍団はあなたたちのような脳筋には絶対に倒せないわ。どんどん増えていくアンデットに恐怖しながら死んでいきなさい。私はこのまま王都が沈んでからゆっくりとあなたたち馬鹿な冒険者をアンデットにしてあげる。さぁ騎士たちよ。この国に仇なす者たちを殺しなさい」




 騎士団長は力なく倒れる。


 騎士団の方は半分以上正気に戻っている。


 俺たちをアンデットにしたいということは、まだ王都にいるということだろう。




 それにしても、余程勝つ自信があったようだ。


 俺たちの姿も見ていないようだし、アンデットを放ってからの様子すら確認をしていない。




 騎士団長が攻撃を受けたから、念のため音声だけ繋いだみたいだけど、何の意味があったのかわからない。多分、誰にも研究を発表できなかったので、自慢をしたかったのだろう。




 今の現状が見えていたら、きっとあんな余裕ぶって話なんてできない。


 俺もわざわざこっちの情報を与えてやることはないから、余計なことは言わなかったけど。




「ラッキーさっさと終わらせてしまおう」


『あいよ』




 自分たちがもう追い詰められているなんてまったく考えていないようだ。




 騎士団で意識を戻した奴らも協力をしてくれるので、あっという間に形勢は逆転した。


 騎士団はアンデットにはなっていなかった。




 どうやら、冒険者と操られた騎士団で殺し合いをさせたかったみたいだが、そんなことにはならなかった。本当に性格が悪い。




 アンデットたちも……うちの子供竜騎士たちは、ヒットアンドアウェイを繰り返し、もうほとんどが骨に帰っていた。




 もう、あまりに一方的な戦いになっている。


 ほとんど終わりだ。




 可哀想というか。アンデットたちはゆっくり寝かせてやろう。




 骨と共に魔石が転がっている。


 魔石の回収は騎士団にお願いしておく。




「ラッキーさっきのあの女の魔力を追えるか?」


『んーちょっと難しいな。こっちに直接来ているわけではないからな』




「私なら追えるわ!」


 そこにいたのはドモルテだった。




「ドモルテこんなところでどうしたんだよ? 広域の聖魔法はどうしたんだよ?」




「はぁ? それをあんたが言うの? 見てみなさいよ! この現状!」




 周りを見渡すとアンデットたちは、もうすでに1匹も動いてはいなかった。


 騎士団も全員正気に戻っている。




「もう……必要ないってことか?」




「えぇそうよ。わかる? 私が一生懸命魔法を唱えて、この国を守るのに魔法陣を作っているのに、どんどんアンデットは死んでいくし、騎士団は正気に戻って行くのよ。しかも、私を見てくれてたのはララだけ! ララの応援でさえ段々悲しい気分になってきて。もう目がないのに泣きそうになったわよ! こういうのって普通私が活躍して解決して、伝説の大賢者が死んでからも人々を助けて新しい伝説を作るとかの流れじゃないの?」




 ドモルテは相当不満が溜まっていたらしく、俺に詰めてくる。




「そんな伝説知らんわ! それより魔力を追えるのか?」




「いけるわよ。リディアの魔力は独特だし、それにまだあそこで眠ってる騎士団長さんと魔力が繋がっているから、それを追っていけば問題ないはずよ」




「よし、じゃあ行くか。ラッキー」


「私も行きます! まったく活躍していないので」


「パパー私とこの子もいくよー」




 他の従魔たちもやる気になっているが……そんなにメンバーはいらない。


「じゃあシャノンとパトラコンビ、他はアンデットがいないか確認と逃げ遅れた人々で瓦礫の下敷きになっている人間がいないか確認してくれ。ガーゴイルくん残りのメンバーを頼めるか?」




「任せてください。全員僕が守ってみせます」


 ガーゴイルくんの背中に乗っているオレンジアントEが無理をするなと、肩をポンポンと叩いている。




 状況によってはオレンジアントの方が強い時があるので、なんとも言えない。




「怪我だけはしないように気をつけてくれ。最悪このメンバーなら全員空に逃げれば大丈夫だからな。よろしく頼む」




 オレンジアントたちが敬礼のポーズを取る。


 さすが、統率が取れている。




「それじゃあドモルテ案内してくれ。決着をつけに行こう」


「私に付いて来て」




 ドモルテが先頭になって歩いていく。




 街の中はもう人々は逃げ出し誰もいない。


 そのおかげでリッチが歩いていても騒がれることがないので大丈夫だ。




 街の中を抜け着いた場所は、そこは街が一望できる大きな展望台だった。


 この展望台は遠くからの魔物の襲撃や、他国の軍隊などをいち早く見つけるためのものであり、王都から外までを一望できるほど高い。




「ここにいるのか?」


「えぇ、ここの中からリディアの魔力を感じるわ」




 展望台の扉にゆっくりと手をかける。


 鍵は掛けられていないようだ。




「ラッキーは……入れないな。必要なら呼ぶから箱庭で待機しててくれ」


『あいよ』




 展望台の1階には部屋がいくつかあり、奥には展望室へ進む階段があった。




 俺が、階段へ進もうとすると、


「そっちじゃないわよ。リディアは地下にいるわ。まさか、展望台の地下に研究室があるなんて誰も考えないでしょうね」




 確かに、俺も展望台と言うだけで上に登ろうとしてしまった。


 まさか、王都で一番高い塔に秘密の地下室を作っているとは、想像もしなかった。




「その地下室はどこにあるんだ?」


「あそこの部屋よ」




 そこは階段の横の部屋で、本や書類などが保管されていた。


 床も石畳が広がり特に異常がないように見えるが。




「今結界を解くわ」


 ドモルテが呪文を唱えると地下室への入口が開かれる。


 リディアも相当な腕があるらしい。


 いよいよ。魔石泥棒との対決だ。


―――――――――――――――――――――――――

ドモルテ「私の魔法がまたこの国を救うわ!」

ララ「ドモルテ様頑張ってください!」


この時まだドモルテは知らなかった。アンデットとの戦いにまったく役に立たずに戦闘が終わることに。


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