第47話 可燃石泥棒の犯人 まさかそんなことが……
私は、当時最強の称号を二つ持っていた。
一つは賢者として、そしてもう一つは酒豪として。
酒場でドモルテと聞けば賢者よりも大酒豪という方が有名だった。
若い頃には、魔王とも一度飲み比べをして、勝ったことがある。
どういった経緯だったかは忘れてしまった。
酔っぱらって絡んだのが魔王だったとかしょうもない感じだった気がする。
酒の席で、もう人間との戦争を辞めないかと言ったところ、俺に勝てたら戦争をやめてやると言うので見事に完勝して、2日連続で潰してやった。
魔王城はその当時、食料難に陥っていた。
別に戦争をしたいわけではなく、ただ生きるために食料を奪いに行くということを繰り返していたら戦争へと発展していたらしい。
その当時の魔王城には、陽気でアホな奴ばかりで食料を作るという考えがなかった。
生き方が刹那的すぎた。
だから私は王都の近くで、個人的に大量に育てていたキャベッツを魔王に渡してやった。
そして、育て方も教えてやった。
戦うことよりも食料を作ることの方が生活を豊かにする。
それのおかげで、戦争は終了し、私はこの経験から賢者として食料問題について研究するようになった。
私は当時、1人の弟子をとっていた。
その子はリディアと言い、とても気が利いて、優しくて、笑顔が絶えない子だった。
私はどちらかというと、人づきあいより研究に没頭するか、酒を飲まないとまともにコミュニケーションがとれないタイプだった。リディアのコミュニケーション能力に私は憧れていたと思う。
リディアは魔法の才能はそれほどでもなかった。しかし、コミュニケーションに優れる事で、彼女はその能力を実力以上に発揮していた。
誰からも信頼され、必要とされ、そして人気者だった。
魔王との戦いが終わってから、(主に飲み比べだったが)私の魔力は年齢と共に、徐々に低下していった。
若作りのために、ずっと自分に幻影魔法をかけていたが、それも徐々に力が弱くなっていく。そんな私をいつも励ましてくれたのはリディアだった。
私は何とかして生きている間に、食料で困る人が減るようにしたかった。
その中で一番可能性が高かったのがアンデットの使役だった。
アンデットを使役できれば、食料を与える必要もなく、文句も言わず働かせることができる。
もちろん、倫理的な問題はあるかも知れないが。
私はアンデットを使役する為、アンデットの秘宝の研究を必死に続けた。
アンデットの秘宝はアンデットを自由に作り、使役するためのマジックアイテムだ。
お墓や、魔力が淀んだ場所に死体があった場合に、時々リッチや骸骨剣士などの魔物になって生き返ることがある。
それを人為的に起こし、使役するのだ。
私はそれをどうにかして、できないかと思っていた。
別に戦争などで使うことは考えていなかった。
だけど、リディアは違っていた。
彼女はアンデットの秘宝を戦争に利用するべきだと言った。
戦争にそんなものを使用すれば、軍事バランスは大きく変わってしまう。
魔王との戦争が終わり、みんなが手を取り合って発展させていくべきだという考えを理解してはくれなかった。
そこの部分での2人の考えは別々だったが、2人の目的は一つだった。
アンデットの秘宝を作り上げるということ。
2人とも作り終わってからの使用については、話題にすることはなくなった。
私はずっとそれが完成すれば食料難で苦しむ人たちのために、少しでも役に立つと本当にそう思っていた。
だが、リディアは私の考えを最後まで理解してくれることはなかった。
私たちの研究があと少しで完成というところで、リディアは私の魔道具や研究結果を持ってどこかへ消えてしまった。
もう、新しく何かを作ることも研究するだけの時間も残されてはいなかった。
私は失意の中でそのまま亡くなっていった。
私の死体は火葬されることなく墓の中に入れられた。そして長い時間をかけて、持っていた魔力とお墓の淀んだ魔力が混ざり合い、気が付けば私は骨の化け物リッチへと生まれ変わった。
白く透き通った肌はなくなり、白い骨だけしかなくなっていた。
私はリッチになったが生前の魔力には到底及ばなかった。
私は少ない魔力の中で少しずつ、地下を改造し広げていった。
永遠とも思える時間の中で、疲れたら魔力が回復するまで休み、改造してを繰り返していた。
何でもできていた、あの頃よりも、何もできない今の方が充実感があったのは不思議な感じだった。
それから、どれくらいの時間がたっただろうか。
地下室は広がり、墓の裏側には入口を作った。
たまに、月夜のキレイな夜には散歩をしたりした。
でも、ある日、人間に目撃されて危うく殺されかけた。
「化け物だ! 殺せ!」
私が討伐対象になっているというのを改めて感じる出来事だった。
それ以来、外に出る時には細心の注意を払うことにした。
たまに目撃されることもあったけど、私は上手く逃げた。
地下室の入口に厳重な隠蔽魔法をかけた。
自分がリッチになって永遠に研究ができる身体になったのにも関わらず、私の魔力は入り口を隠蔽し地下室で生活するだけで消費してしまっていた。
長い年月の間に私の魔力は少しずつ減っていった。
そして、入口の幻影魔法を常時張れなくなってきた頃、生前研究をしていた魔石を代用として魔力を補うことを思い出した。
それからは、地下室を広げて行く時に出てきた魔石を使って足りない分の魔力を補っていった。しかし、その魔石も段々と少なくなっていった。
このあとどうするべきか。
このまま骨に戻るのか、それとも外に飛び出すのか。
そして魔石が底をつきそうになった時、目の前にララが現れた。
どこから来たのかと聞くと、下水道を通って来たという。
私の地下室はいつの間にか下水へと繋がる穴ができていたが、鼻のない私には気が付かなかった。
「こんなところで何をしてるの?」
「あなたこそ、どうしてここへ?」
「私はね、妖精の仲間からいじめられて逃げてきたの」
ララは街に住む妖精でピクシーと呼ばれる魔物だった。
ララの背中についている羽は一部が曲がってしまっており、飛ぶ時に上下に不規則に動きながら飛ぶ。
その動きが仲間のピクシーからは醜いと言われ追い出されたとのことだった。
「もう、私はそう長くはない。だからここの部屋は君が使うといい」
「お姉さん死んじゃうの?」
「あぁそうだ。私の名前はドモルテだ」
「私はララだよ。ドモルテなんて偉大な賢者さんと一緒なんてすごいね」
「賢者を知っているのか?」
「知ってるよ。吟遊詩人がよく歌ってる。魔王を倒して平和にしたって」
私は思わず笑ってしまった。
魔王を倒してなんていない。
ただ飲んだくれていただけなのに。
伝説なんて不思議なものだ。
それから私とララは色々なことを話した。
ララはとても優しかった。
私が死ぬ理由を伝えると魔石を探してくると言ってくれた。
まさか私も盗んでくるとは思わなかったが。
ドモルテは全てを話終えると俺に、
「というわけで、私が可燃石泥棒の犯人だ。どうか処分は私だけにして欲しい」
そう伝えてきた。
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ドモルテ「さぁ魔王飲もうぜ」
魔王「もう無理だ」
ドモルテ「そんなこと言うなよ。魔王だろ。魔王のイッキが見て見たい」
魔王「もう飲めましぇん」(……人間怖い)
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