第13話 ラッキーを見てフェンリルと言った男

 カラが指差すとキッドは激昂した。




「このクソが! 最後まで役立たずだな。どうせならあのまま死んでくれればよかったのに」




「それで? リッカさんこれはどうしたらいい?」


 証拠も揃ったことだし、そろそろ言い逃れはできなくなってくる。


 しかもこれだけの冒険者の証言があればいくらキッドとはいえ逃げられない。




「冒険者規則違反ですね。仲間への攻撃、裏切り行為、殺人未遂、救護義務違反、これは報告させてもらって少なくとも勇者の称号は剥奪でしょうね。詳しくはギルド長判断、もしくはその上の判断にはなりますがもっと重くなると思います」




「そうか。じゃあ後は任せるわ」


 あとは俺の出る幕ではない。


 結果的にみれば今回は全員死ななかった。




 置いて行かれたことに関しては腹立たしいが結局は俺がしっかりとしていなかったからだ。


 その暴挙を許せるわけではないが、新しくやりたいことも沢山ある。




 もう関わらないでくれるならそれ以上は望まない。


 処分はギルドに一任でいいだろう。




「おい! ロック!」


 アイザックが俺のことを呼び止める。




「あっ……俺が悪かった。頼む。俺はまだS級パーティーでいたいんだよ。頼む。お前を置いて行ったのは仕方がなかったって説明してくれ」


 アイザックが俺の足元まできて懇願するように縋り付いてくる。




「悪い。もう面倒くさいことは嫌なんだ。それに仲間を見捨てるのに仕方がないなんていう理由はないんだよアイザック。今回はキッドが俺を刺したけど、それを事前にお前は知っていたよな?」




「は? なんのことだよ?」




「キッドが俺を刺したあとにお前に、俺はパーティーの一員だなって確認をしてたの聞いてるんだよ。つまりお前らは最初からあのダンジョンのどこかで俺を殺すつもりだったんだろ?」




 アイザックは俺の胸ぐらを掴み殴りかかってくる。


 相変わらず感情が高ぶると大振りになるクセが抜けていない。


 軌道もいつもと同じ。




 今までなら殴られたフリをして吹っ飛んでやるがもうそんな必要もないだろう。


 アイザックの拳は空を切りそのまま地面に転がしてやる。


 アイザックはいったい何が起こったのかわかっていないようだった。




「てめぇ! 今まで俺がどれだけお前の面倒を見てやったと思ってるんだ! 今まで飯も食わせてやったし、宿にだって泊めてやっただろ」




 パーティーを組んでいれば飯を食べるのも宿に泊まるのも当たり前だと思うんだが。


 そこへリッカさんが助け舟をだしてくれる。




「アイザックさん……あなた馬鹿なんですか? あなたロックさんをクビにしたようですがロックさんのいないグラエラパーティーはS級にはなれませんよ。良くてB級、今回のことの許しがでたとしてもC級以下からやり直しです」




「はぁ? ふざけるな受付風情が俺がロックに劣っているわけがないだろ。それに勇者が俺たちのパーティーにはいれば悪くてもA級くらいにはなれるはずだ」




「本気で言ってるんですか? あなたはどこまで甘えているんですか? ギルドではわざわざ説明をしませんでしたがS級の実力を持っているのはロックさんだけですよ。例えばロックさんが駆け出しE級の冒険者と組んだとしてもあなたたちと同じくらいの結果を出すってことです。これの意味がわかりますか?」




「えっそうなの?」


 そんなのは初耳で俺自身が驚いてしまう。


 俺がS級? そんなの何かの冗談だろ。




「ふざけるな! じゃあこれが終わったらE級冒険者とロックを組ませ同じ条件で勝負をしてもらおうじゃないか。それでロックが勝ったら納得してやるが俺が勝ったら今回の件はなかったことにしてもらうからな」




「えぇいいですよ。ロックさんもいいですか?」




「いや、俺は誰ともしばらくパーティーを組む気はないんだけど」


 ソロになったのは寂しいがせっかくソロになったのであればソロなりに楽しみ方があるはずだ。時間は有限だ。そんな意味のわからない挑戦に時間を潰している暇はない。




「ロックさん。指名依頼です。E級冒険者と臨時パーティーを組んで支援能力をみせてください。しっかり報酬は払います」


 ソロになっての初の依頼か。ギルドからの指名依頼なら受けない理由はない。




「そういうことなら受けよう。ただしこういう勝負みたいなのは今回1回限りだ」




「ありがとうございます。アイザックさん、その勝負にはアイザックさんとエミーさん、カラさんの3人で挑んでもらいます。ロックさんはE級冒険者1人をつけます。キッドさんは前にダンジョンに潜った時への殺人疑いもありますので、それがはっきりしなければパーティーとして組ませることもできません。それではそちらはこれが終わってから片づけるということで。こちらをさっさと終わらせましょう」




「前の時のだって? それこそ証拠なんてない」




 キッドは今まで静かにしていたが急に自分の方へ話を振られたので驚いている。


 ダンジョンの時に仲間を見捨てるのは初めてじゃないようなことを言っていたが、さすがにあれだけでは証拠にならないだろう。




 だけどこのまま放置しておけば次の犠牲者がでるかもしれない。




「それは俺が証言してやる!」


 そこにいたのはさっきラッキーを見てフェンリルだと言った男が立っていた。


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ラッキー「私の出番は?」

ロック「すぐだよ。すぐ」

ラッキー「あなた私とは関係は遊びだったのね」

ロック「違うよ。俺にはラッキーしかいないよ」

ラッキー「いいわ。評価してくれた人と浮気してやるんだから」

ロック……評価してくれる人なら誰でもって


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