第11話 聖獣の箱庭の拡張ができるようになりました。何を設置しますか?

 赤黒いローブはすでに動かなくなっていた。


「カラ……」


 返事がない。




 もう遅かったのか。


 カラはいつも中立で俺へ非難をしないかわりに興味もないようだった。




 でもそれのおかげで、それなりに上手くいっていた気がする。


 もしあそこでアイザック側に立たれていたらきっと俺はもっと早くダメになっていた。


 ごめんなカラ。




 来るのが遅くなってしまって。




 カラを優しく抱きかかえ口元へ回復薬を飲ませてやる。


 もう無駄かもしれないが。




 そんな俺の心配をよそにカラから盛大な音が聞こえてくる。




「ぐーすぴーぐーじゅるり」


「おいっ!」




 思いっきりカラの頭を叩く。




「あれ? ロックがいる。ってことはここは天国か。確かに地面もオレンジだし。ロックごめんね。あなたのこと切り捨てたのに私も死んじゃったみたい。馬鹿だよね。あんなつまらない意地なんてはってなければ違った結果もあったかも知れないのに。」




「いやカラ死んでからも問題があるんだ。あれを見ろ。地獄の門番のフェンリルを倒さないと天国へは行けないらしいぞ」




 俺の後ろにいたラッキーの方へ指差して言うとカラは口から泡を吹いてまた意識を失った。




『誰が地獄の門番だ。あれはケルベルスだからな。冗談はほどほどにして戻るぞ』


「あぁちょっとだけ意地悪したくなっただけだ。カラを乗せてくれるか」


『今回だけだぞ。俺の背中はロック専用だからな』


「ラッキー! 可愛いこと言ってくれるじゃん」




 ラッキーはプイッと首を明後日の方向へ向ける。


 カラをラッキーの背中に乗せ落ちないように俺も押さえながら跨がろうとすると、ダンジョンの壁に穴ができているのを見つけた。




「こんな穴あったか? もしかしてオレンジアントの巣穴か?」


『そうだな。ここからでてきた感じだろう。興味があるのか?』




「ちょっとな」


『よしじゃあ少し潜るか。オレンジアントの巣穴にはたまに卵があってあれがまた美味い』




 ラッキーは舌をだし口の周りを一周舐める。


 巣穴の奥は見えないほど広くラッキーも入れるほどの大きさだった。




 巣穴の中も明るくなっているため特に光も必要はなかった。


「オレンジアントは居なさそうだけど気を付けてな」


『ロックの方こそ気を付けろ』




 巣穴の中ではオレンジアント数体と出くわしたがそれほど数は多くなかった。


 特に変わった物もなさそうだが、一番奥まで行ったところでオレンジ色の卵が5つと黄色の卵が1つ置いてあった。




「これがオレンジアントの卵か?」


『あぁ1個だけ色が違うがな』




 もっと沢山あってもよさそうだが、別の部屋にはいると大量の卵の割れた跡があった。


 どうやら何かに割られてしまったようだ。




 もしかして血の匂いだけではなく、何かをこの卵を割った犯人を捜していたのだろうか?


 アイザックたち……ではないだろう。あいつらは逃げるのに精一杯だったはずだ。




 もしかしたらオレンジアントが大量にダンジョン内にいたのは何か別の原因があるのかも知れない。




 もう一度卵の部屋に行くと卵が丁度ヒビが入りだしているところだった。


 生まれたてのオレンジアントを殺すのも……。




 それにこのダンジョンへもしばらくは来るつもりがない。


 そう悩んでいると卵から飛び出したオレンジアントが俺と目が合う。




「パパー」 


『あなた帰りが遅いと思っていたら外に女がいたのね』


「ラッキー?」




 ラッキーはまた目を逸らし、オレンジアントはつぶらな瞳で俺の方を見てくる。




【オレンジアント幼体が仲間になりたそうにしている。仲間にしますか?】


 頭の中に声が響く。




 まじでか。ただここの親はほぼ全員殺してしまったと思う。このまま放置するのもなんだか可哀想な気がする。一瞬迷うがはいと答える。




【オレンジアントを聖獣化し仲間にしました。聖獣の箱庭へ転送します】


【聖獣が仲間になり箱庭の拡張ができるようになりました。以下の場所、設備が6つまで選択することができます】


 ◆池(小)


 ◆川(小)


 ◆海(小)


 ◆小屋


 ◆箱庭拡張


 ◆畑


 ◆果樹


 ◆鉱山(小)


 ◆山




 そういえば確かに聖獣化のスキルを身につけていた。


 ってちょっと待て。そんないっきに言われても覚えられない。




 どんな状況で発動するのかまだわからないが、オレンジアントを聖獣化って新種の魔物を作り出してしまったってことだろうか?




 魔王認定とかされないよな?




「ラッキー、ちょっと箱庭に入ってくる。オレンジアントの幼体が仲間になったらしい。あとなんか拡張できるらしいんだけど欲しいものあるか?」


『私も行きたい! えっと水場は欲しい! あとは木とかあるといいな』


「ラッキー了解。ただ入るのは今度な。今はカラを見ててやってくれ」




 ラッキーがこの世の終わりのような顔をしている。可哀そうだがまた今度だ。




 箱庭に入ると先ほどの選択肢が空間に浮いている。


 だいぶ不思議な光景だ。




 とりあえず川と池、それに小屋、果樹。


 あと2つはどうするか?




 仲間も増えたし拡張してあとは畑にでもしておくか。


 オレンジアントがいればもしかしたら何か育ててくれるかも知れないしな。




 俺が箱庭に入るとオレンジアントの幼体6匹が一生懸命俺たちが入れた魔物の死体を解体してくれている。




「すごいな! 何も言わずにやってくれているのか。ありがとうな!」


「パパ―偉い?」




 パパって俺はそんな年齢じゃない。だけどそんな純粋な目で見られたら。


「偉いぞー! でもパパじゃないんだけどな」


「パパはパパだよー?」




 非常に可愛く首をかしげて聞いてくる。


 ダメだこれ以上否定することはできない。


 俺のことをパパと呼んでくるオレンジアントは頭にティアラを載せている。




 他のオレンジアントは……特になにもつけてはいない。


 もしかしたら黄色の卵から産まれたのかも知れない。


 特別なオレンジアントなのか?




 箱庭の中で拡張と唱えると広さが広がる。


 それに川と池、小屋、果樹、畑と願うと次々に広がっていく。




 川と池は澄みきっている。


 特に魚などはいないようだ。


 そのうち生きた魚でも持って来ればここで従魔たちも生活できるようになる。




 小屋の方は本当に小さな小屋だが意外としっかりしていた。


 中は狭いがそれでも簡易の机などが置かれている。


 寝たり作業したりするくらいはできるだろう。




 果樹の木は……なんの木かはさっぱりわからない。


 おいておけばそのうち果物がなるかもしれない。




 畑は草原の中に1カ所耕された場所ができた。


 こちらも何かの種を持ってきてからだな。




 なかなか箱庭も充実したものができそうだ。




「オレンジアントたち悪いけど、解体作業しといて自分たちで食べるものとか適当に分けて食べておいてくれると助かる。あとは適当にやっておいてくれ」




「わかりました。適当にやっておきますね」




「何か欲しいものとかある?」




「今のところは大丈夫です」 




 箱庭からでると思うと先ほどのダンジョン内に戻っていた。


「ただいまラッキー」


『お帰り。それよりロック大変なことに気がついた。俺の楽しみにしていたオレンジアントの卵がないんだが。卵食べられると思って楽しみにしてたのに』




「悪い。それじゃあこれが終わったら美味しい料理食べさせてやるから我慢してくれ」




『ほんとだな。楽しみにしているぞ』




「あぁ期待しておいてくれ、俺はずっと食事当番だったからな。箱庭内でみんなでパーティーでもやろう」




『よし。それじゃあさっさと戻ろう』


 カラを乗せたまま冒険者ギルドへ戻る。


 もうさすがに今度こそあいつらも戻っている頃だろう。




「ラッキーよろしく」




 ラッキーは気持ちいいくらい爽やかにダンジョンの中を駆けていった。


―――――――――――――――――――――――――

ラッキー「あなたの帰りが遅いと思ったら」

ロック「ラッキーそのネタ好きだな」

ラッキー「ロックの浮気相手は評価していない人の中に……」

ロック「やめい」


応援してくだっている方々本当にありがとうございます。


★★★


―――――――――――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る