第9話 滅火のダンジョン 裏切りの果てに……
俺はあっという間に1階層から4階層まで降りてきていた。
見落としがないようにほぼ全部の道をラッキーに確認してもらったが、どこにもアイザックたちはいなかった。
4階層くらいまでは魔物もそれほど強くない。
ラッキーの威圧感のおかげか敵はラッキーの姿を確認すると逃げていってくれるものも多かったのでかなり楽だった。
4階層の途中までくるとブルーアントの集団に囲まれているアイザックたちを見つけた。
アイザックたちは何か叫びながら戦っているため俺たちの方へ気が付いていないようだった。
「キッド! なんでカラを背中から切り付けたんだ!」
「当たり前だろ? 自分が生き残るためには他者の犠牲も必要なんだよ。それに俺はこれが初めてじゃないし、ダンジョン内ならバレることはない。それにお前らだって共犯だからな。使用人も聖女もお前たちが殺したのと一緒だ」
「違う! 私たちはそんなことやってない」
「違わないね。手を出したか出していないかの違いだ。使用人にも聖女にも手を差し出せる位置にお前はいたはずなんだ。それをやらなかったってことはお前も共犯なんだよ! いいからここをでても黙っておけよ!」
ブルーアントは5階層にでるオレンジアントよりもランク的には1段階低く強さもたいしたことがない。仲間を呼ぶのも遅くそれほど苦戦はしないはずだった。
行きでは俺が一人で蹴散らせたくらいだ。
だが、様子がおかしい。
今までだってなんどもブルーアントとは戦ってきたはずなのにキッド以外の攻撃がまるできいていない。
「あぁくそ! こんな足手まといの奴らとなんて二度と組むものか!」
「うるさい。お前だってたいした力もないくせに」
「いいから黙って攻撃しなさい」
怒声が飛び交う中へ俺とラッキーは割り込む。
ラッキーは一瞬でブルーアントたちを蹴散らした。
1人足らない。カラがいないのだ。それに切り付けたってどういうことだ?
「おい、どうしてカラがここにいないんだ」
「なっ!? なんでお前がここにいる! しかもなんでその犬が!お前は食われたんじゃないのか」
「あぁ地獄から舞い戻ったよ」
アイザックとキッドが俺たちの方へ剣を向ける。
俺はラッキーを降り両手をあげる。
『なぁ? 俺がこいつらもやってやろうか? ダンジョン内ならバレないらしいぞ』
俺はラッキーの頭をなでると俺の意をくみ取ってくれたのかお座りしてくれる。
「お願いロック、カラを助けて! カラがキッドに背中を切りつけられて5階層にまだいるの!」
エミーが俺に向かってそう叫ぶ。
エミーはたった数時間しか会っていなかったはずなのにやけにやつれたような顔をしている。
「お前ら俺だけじゃなくてカラまでやりやがったな」
「仕方がないだろ。全員が生き残れないなら弱い奴から死んでいくのが自然の摂理だ」
「クソが。お前らのような奴が勇者と幼馴染だなんてな」
なんてことだ。こんな奴が勇者と名乗っていたり、俺の幼馴染だなんてろくなのがいない。
『ロック、ほらな。こいつらに反省なんて言葉はないんだよ。もう行こうぜ……オイオイッまさかそのカラってのを助けにいくのか?』
「ラッキー頼む」
『はぁお前って本当にお人よしだな。カラってのはお前のあのリュックに入ってた臭い服着てた奴か?』
「そうだ」
街で人気の香水もラッキーからすれば異臭でしかないらしい。だがそれのおかげでカラを探すのは容易なはずだ。
『さっさと助けて帰ろう。俺たちは最高の相棒だからな』
ラッキーが前足をだしてきたので俺はそれに拳をぶつける。
それを見ていた元パーティーメンバーは驚いたように固まっていた。
そういえばアイザックもキッドもラッキーには傷一つつけられなかったんだっけ。
残念だったな。
ラッキーは俺のことを乗せると颯爽と5階層への階段へ降りる。
5階層にはオレンジアントの群れがうじゃうじゃと溢れていた。
その様子はあまり気持ちのいいものではなかった。
『ガルルルルルルルルル』
ラッキーが唸り声をあげただけでオレンジアントはカシャカシャと警告を発しながら距離をとる。
『どうやら血の臭いに集まってきたみたいだな。そう遠くないぞ』
ラッキーはオレンジアントの群れに突っ込むと前足でちょっと弾くだけで吹っ飛んで壁にオレンジのシミができる。
『あっ素材回収するのか?』
「いや、カラを優先させる」
『あいよ』
オレンジアントの目が黒から赤に変わり警戒から攻撃へと変わる。
こうなるとオレンジアントの群れはその相手が死ぬか自分たちが全滅するかまで戦いは終わらなくなる。
無尽蔵に増えていく前に本来は全部倒してしまうのが一番だがこれだけ集まっていると仲間を呼ばれても関係ない。巣ごと全部駆除するしか方法はないのだ。
ただ、メリットもある。オレンジアントたちは非常に統制がとれているのでここまで怒らせれば全部のヘイトをこちらに集めることができる。
もし、まだカラが生きているなら注意をこっちに逸らすことができるはずだ。
「ラッキー俺も降りて戦う」
俺がラッキーの横に降りてオレンジアントへ斬りかかるとラッキーは俺の死角に回り込み背中を守りながら戦ってくれた。
俺もラッキーを庇いながらどんどん斬り刻んでいく。
幼馴染のパーティーメンバーの時俺はいつもバカにされて、何をしていても興味を抱かれていなかった。
足手まといだと馬鹿にされていたが今はラッキーとは心が通じあっているように楽に動くことができる。お互いがお互いにサポートしているおかげで立ち回り時も自分だけが周りをサポートしているときよりも技のキレが増す。
オレンジアントは集団戦を得意とする魔物だ。本来は3匹から5匹くらいの数であらわれ、倒すのが遅くなると徐々に仲間を呼び増えていく。
攻撃力や突破力がないパーティーでは苦戦をしいられやがて物量にやられる。
だが1匹、1匹の動きはそこまで早いとは言えないため上手く立ち回れば余裕でなんとでもなる。
こうやって倒す側の息があっていればなおさらだ。
『ロックお前の動きは戦いやすくていい』
「ラッキーもだよ。こんなに動きやすい戦闘ははじめてだ」
俺とラッキーは円を描くようにお互いを背にして戦って行く。
オレンジアントは完全に俺たちに狙いをつけてくれたおかげで切りこまなくても近づいて来る。
それにしてもオレンジアントの数が多い。もうすでに数十匹は倒しているがまだまだ数がいる。もしかしたら100匹以上いるのではないか。
戻る時に通った時も少し多いくらいだったが、本当にオレンジアントの巣穴から全部でてきてしまったようだ。
ダンジョン産のオレンジアントはダンジョンの壁に巣穴を作る。それがやがてダンジョンとして強化され広がったりする。
ダンジョンの作りにはまだまだ謎が多いがオレンジアントがこれほどダンジョン内に大量にでてくるのは聞いたことがない。
まぁ仮にそうだとしてもいずれは終わりがやってくる。
俺とラッキー以外そのフロアには立っているものはいなくなった。
「ラッキーカラの居場所がわかる?」
『カラとかいう人間ならその先だ』
ラッキーが示す方を見るとオレンジの液の中に赤黒いローブが見えた。
あれはカラの……。
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ラッキー「俺は最高の相棒だ。ただ評価をいれてくれた人とも相棒になりたい」
ロック「ラッキーもしかして忠犬じゃなくて意外とチョロイのか?」
ラッキーのシッポがブンブン振っている姿に一抹の不安を覚えたロックだった。
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