第99話 赤く染まる11

 宗教団体”星宿せいしゃく”。教祖である綺禅きぜん曰く自分は別の世界の神の生まれ変わりであり、すべての運命を変える事が出来る力を持つとの事。信者数は既に数千人を超えておりそのほとんどが身内に重篤な病に苦しむ人々だという事。


「まあ御察しの通り所謂霊感商法によって信者たちから金を巻き上げているところです」

「なるほど……」


 つまり詐欺のサークル活動をしているという事か。


「ですが、ここ最近この星宿たちが妙な動きをしているという噂が流れ始めたのです」

「妙な噂?」

「はい。全国の霊能者たちをスカウトして回っていると聞いています。勇実さんのところにも来ませんでしたか?」


 いや来ていない。ハブられているのだろうか。それともインチキってバレてんのか? そう考えつつ俺は静かに首を横に振った。


「そうですか。それならよかったです。莫大な報酬で釣っているようなのでそれなりの霊能者が集まっていると聞いています」

「田嶋さんは随分お詳しいですね」


 田嶋の本職は不動産のはず。それなのになぜそんな怪しい団体の動きなど知っているんだ。


「星宿が集めているのは霊能者だけではありません。……曰つき物件も探しているんです。その経緯でここにも来ましたよ。随分分厚い札束を用意してね」

「事故物件を探している、と」

「はい。実際この界隈で一時期その噂で持ち切りでした。例の金沢不動産を含めた数社がその話に乗ったという事もです」


 なるほど、そこでこの話につながってくるのか。直人が購入した事故物件。それを所持していた金沢不動産。朝里の話では直人の死後にわざわざ不動産屋の人間が直人の家に訪れたという話だったな。何をしに行ったんだ。普通に考えれば故人を偲ぶためなのだろう。だがそうじゃなかったとしたら。


「……ありがとうございます。色々見えてきました」

「そうですか。何かお役に立てたのならよかった」

「そうだ、最後に一つ。アレは前から置いてあった物ですか」


 そういって俺は部屋の隅にある小さな陶器を指さした。ビー玉サイズの白い陶器の球体。小さな足のようなものがついており、まるで球体に4つの足が生えているかのようなデザインだ。


「え? いや見覚えがないですね」


 指を鳴らしその陶器の周囲に光が収束する。そしてそのまま圧縮するように光が小さくなりやがて消えた。


「ッ! 今のは!?」

「部屋に入ってから気になっていたのですが、妙な気配を感じました。以前にはなかったはずです。今の話を聞くに碌なものではないと判断しました。例の星宿の方と話たのもこの部屋だったんじゃないですか」

「え、ええ。確かにそうです。まさか話を断っただけで……?」


 危なかった。気づいてよかった。本来であれば部屋に入って気づくべきなのだ。だというのに俺としたことが田嶋との戦いに集中するあまり見落とすとはな。


「かなり微弱な力しかなかったのでそこまで心配する必要はないでしょう。念のため見て回りますか?」

「――お願いしてもよろしいでしょうか」

「お任せ下さい。


 そういうと田嶋は申し訳なさそうに小さく笑い頭を下げた。どうやら俺の嫌味に気づいたようだ。




Side 田嶋彰


 勇実さんには本当に頭が下がる。霊能者は胡散臭く、そのほとんどが偽物であるという事は多くの人間が想像する事だろう。だがいるのだ。一握りの本物という者が。  

 数週間前にこの事務所に訪れた星宿の幹部を名乗っていたあの二人を思い出す。一人はキャリアウーマンのようなスーツを着た女性だったが、もう一人の男。全身黒い服で身を包んでおりこの暑さだというのに手袋をしてサングラスをかけていたあの男。

 私が主に話していたのは米沢と名乗る女性だったからあのよくわからない物をこの部屋に仕掛けたのはもう一人の男の方か。証拠はないが恐らく間違いないだろう。初めて顔を合わせた時に感じた悪寒が今でも思い出される。念のため勇実さんに見ていただいた限りだと他にも数点見つかった。事務所の入り口、坂本さんの机の下。そしてこの応接室。ここまで私や坂本さんに気付かず仕掛けるなど間違いなく碌な物じゃない。










「気味の悪い男だ。確か――区座里という名前だったか」




 さて、今日のお礼にこのコピ・ルアクを勇実さんの事務所に送るとするか。随分と喜んでくれていたみたいだし、少し奮発して多めに送るとしよう。



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次の100話はネタ回のため本編はお休みです。申し訳ありません。

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