第74話 SS ポッキー&……
「ねぇ礼土君、最近よくポッキー食べてるよね。ハマっちゃった感じ?」
「ん? あぁこれか。前に仕事中に食べたんだけど、これが意外に美味しくてさ」
懐かしい思い出だ。以前に何度かこの事務所にきたキャバクラという店で働いているミサキという客がいる。最初は肩が凝ったという所から憑いていた霊を祓っていたのだが、何故か頻繁にこの事務所に足を運ぶようになっていた。
次第にその店で働いている別の女性も連れてくるようになり、同じようにお祓いを続けるという日が続いていたのだ。
最初は数日、次第に連日そのキャバクラで働く女性が来るようになりいい加減店自体に何か問題があるのでは? という話になった。
そのため、霊を信じていないという店長を連れてやってきたミサキと共に初めてのキャバクラへ行ったのだ。初めて中に入ったが随分と装飾が派手で煌びやかな店だった。ただ漫画が置いていない事が不思議だったため、店長になんで漫画ないのって聞いたら鼻で笑われてしまったのだ。
漫画の何がいけないのかと憤慨しそうになったが今回は一応依頼人でもあるため、我慢した。店の中に入るとソファーが沢山おいてあり、またガラスのテーブルもそれぞれ設置され、天井にはシャンデリアが飾ってあったりなどあまり見かけない不思議な空間で興味深々だった。
「れーちゃん。どうなんかいる?」
「ほんとにいるのかねぇ。全然そういうの感じないけどさ」
「もう店長は黙っててよ。絶対この店いるって。ねぇ? れーちゃん」
まだ営業前というため客はいないようだが、何故かゾロゾロと見物する店の人があつまりまるで見世物をしている気分になった。っていうか写真を撮るなと言いたかったね。
「そうだね。なんかいるし、とりあえず祓っちゃうよ」
「どれどれお手並み拝見といこうかね」
「店長いい加減にしてくださいよ。れーちゃん、お願いね」
なんでこの店長とやらは俺を目の敵にしてるんだ? 客じゃないからか? まぁ霊能者って中々分かってもらえない仕事みたいだしな。仕方ないか。
そう考えながら、シャンデリアの上の方に漂っている霊に対し魔法を発動させる。いつもの指パッチンを行い、演出用の光の魔法を発動。とりあえず霊能者を信じていない店長に対して信じてもらえる程度には派手にしようと思った。その結果、発動した魔法により幾重もの光の針が出現しそれがある一カ所に集まり収束する。
その瞬間――。
『ギャアアアアアァアアッッ!!!』
断末魔のような叫び声と共に、空気が破裂したかのような衝撃が走った。シャンデリアは大きく揺れ、店の壁側に置かれていたグラスが音を立てて割れ床に落ちていく。
「な、なんだ!? 今のはッ!」
「……すごッ! ねぇ今のって霊の声ってやつ!?」
「そんな感じだね。これでこの場の霊は祓ったからもう大丈夫じゃない?」
一応店の女性店員についていた霊と同じ力を持っていた根源を祓ったのでこれで毎回憑かれるという事はないだろう。っていうかあの霊はなんだったのだろうか。多分地縛霊じゃないよな。浮遊霊の一種だろうか。なんでこんな店に住み着いてんだ?
「とりあえず、謝礼はこんなもんでよろしくお願いしますね」
そういうといつも通り2本指を立てて帰ろうとした時だ。そう俺は出会ってしまった。テーブルの上のガラスの器に広げられていたお菓子の山。
「あ、れーちゃん。ポッキー好きなの?」
「ポッキー? へぇおいしそうだね。食べていい?」
「いいよ、コンビニで買った安いやつだけど全然食べて」
そういってミサキは器を俺の前に差し出した。俺はポッキーを一つ摘み口の中へ運ぶ。ポキッっという小気味よい音が口の中で奏でられチョコレートとクッキー生地が口の中で混ざり合う。チョコボールも美味かったがポッキーはそれと張り合う美味さだった。まさに衝撃的さ。こんな美味いものがコンビニで買えるっていう事にね。
「っていう感じでポッキーを食べたのが切っ掛けだね」
「へぇー礼土君。キャバクラ行ったんだ。へーかわいい子多かったでしょう」
栞は何を言っているんだろうか。ポッキーの話をしているのになんでキャバクラの話をしているんだ。もしかしてポッキーがコンビニで買える事を知らないのだろうか。
「あ、そういえば礼土君、今日が何の日か知ってる?」
「いや、知らないけど。何かあるの?」
なんだ。いきなり今日が何の日かなんて聞いてきて。漫画とかでよく聞くあれか? 何かの記念日だったりするのか? くそぉ、さりげなく調べるとしよう。
「ははは。その様子じゃ知らないでしょ? いい。今日11月11日はポッキーの日なんだよ!」
「え? そんな日あるの?」
驚いた。まさかお菓子を記念日にするような習慣があったのか。まぁ美味いお菓子だからな。そりゃ記念日にもなろうものだ。
そう思いながらスマホで11月11日と検索する。しかし――。
「ってあれ。なぁ、調べたら今日ってポッキー&プリッツの日って書いてあんぞ」
「え!? あ、ほんとだぁ! ずっとポッキーの日だと思ってたよ」
「プリッツか。食べた事ないな。よしせっかくだし買いにいくか」
そう思い財布を手に事務所を出ようとした時だ。事務所の玄関が開き利奈が学校の制服姿で入ってきた。手には何か四角い箱を持っている。
「ただいまー! あ、勇実さん! 今日何の日か知ってますか!」
「さっき知ったよ。今日はポッキー&プリッツの日なんだろ?」
「そうです! 勇実さんは最近ポッキーばっかり食べていたので私がたまにはって思ってプリッツ買ってきましたよ!」
利奈は本当に気が利く娘だ。少々頭が残念なところがあるが、そこがいい所なのだろう。俺は利奈から受け取ったお菓子の箱を開け袋を開封する。その中にはポッキーと同じく棒状のお菓子が入っているようだ。一本取り出しよく観察をする。見た感じはクッキーを棒状にしたというお菓子のようだ。それを口の中に運び俺は驚愕した。
ポッキーと同じく口の中で噛むとポキッっという気持ちのいい音がする。そしてクッキーのような味がするのかと思いきや、驚いた。なんせこれは――。
「中にチョコが入ってるのか! すごいな、最後までチョコたっぷりだぜ」
「ね! 美味しいでしょ! ポッキーも好きだけどこれも好きなんですよ」
なるほど。気持ちはよくわかる。これは美味いものだ。どれお代わりを食べよう。そう思って2本目を取り出すと栞が何やらずっとパッケージを見ている。なんだ、お前も食べたいのか? まだいっぱいあるし食べていいんだぜ? そう思っていると当然栞が笑い出した。
「はっはっはっは。もう利奈ったら笑わせないでよ」
「え、何お姉ちゃん。急に笑い出してどうしたの?」
「いや、だってこれ……プップップ」
必死に笑いを堪えている栞は改めて俺にこのお菓子のパッケージを見せてきた。そこには『トッポ』と書いてある。ってあれ?
「プリッツじゃなくてトッポって書いてあるね」
「えぇ!? うそ! あ、ほんとだ。間違えて買ってきゃった!?」
「はっはっはっは、知らなかったの!? 書いてあるじゃん。ほんとにおバカだよね」
はぁやっぱり残念な娘だったな利奈は。まぁでもトッポも美味いからいいか。でも今度はちゃんとコンビニでプリッツ買ってこよう。俺はそう心に決めた。
ーーーー
ポッキーの日だと知らずコメントを見て大慌てで書きました。
この作品を書いている以上、外せない日ですよね。
申し訳ありません、更新をお待ちいただけますとうれしいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます