<<007 トラウマって軽々しくないよね




 単純明快な答えはいつもそこにある。


 それを周りが否定する。


 そんな事は子供のように無邪気に無知に無遠慮だったなら気づかずに済んだのかも知れない。


 これが大人に近づくって事なのかもな。


 それなら子供でいい! これも論外だ。


 知ってしまった以上、子供ではいられない。


 一つ賢くなったな。


 授業中にずっと俺を見てくるフミカ。


 何時もなら俺達は互いに教室につくと挨拶すらも交わさず放課後は帰宅部の俺はいそいそと帰る。


 おはようの挨拶をしてくるフミカを普段は無視。


 これが挨拶のカウントに入るなら、挨拶だけはしていることになるな。


 だけど今日は違う、初めてフミカから本気で嫌われようと実行に移してる。


 1番大切なのは俺が嫌いと明確に拒絶する事じゃなく、フミカ自身が俺を嫌いになってくれるようにすること。


 これも身勝手だが、フミカを傷つけたくないと思うからだ。


 フミカはまだ子供......賢くはない。


 子供のままでいて欲しい。


 現実をぶつけられ、周りが自分を否定し始めるとすぐに子供は大人になる。


 俺なんかの事を好きになっても得なんかないって事だな。


 こんな気持ち悪い奴なんか見捨ててくれ。


 俺だって努力はしている、勉強も運動も出来るほうだと思う。


 トラウマのせいか平均点以上は取らないようにしてるし、運動でも目立ったりはしない。


 トラウマのせいで〜、は逃げてるとか言われるかも知れないが......俺にとってはそんな軽々しく扱えるものじゃない。


 注目されると一気に怖くなる、大勢の目に晒されると息が止まる。


 怖いんだ。


「おい、篠崎しのざき、この問題解いてくれ」


 そう俺にはトラウマがある。


 先生が俺を指して、この問題を解けという。


 俺は立ち上がると皆の視線にあてられ、息が止まる。


 怖い、怖い。


 ガクガクと手足が震えて立つことも出来なくなっていく。


 俺なんかに問題解かせんなよ!


「わ、解り......」


「声が小さいぞ」


「......」


「もういい、この答えが解るやついるか?」


 視線が無くなり、俺は席につくと手足の震えが無くなっていく。


 俺は1対1なら普通に喋れるが、周りの目があると喋ることも出来ない。


 こんな奴なんだよ、本当にモブだよな。


 そして学園のヒロインに好かれていると言う分かりやすい現実、本当に釣り合いが取れてないと思う。


 このトラウマは誰にも言ってない。


 家に引きこもってる方が何倍もいいが、フミカがそれを許してくれない。


 でも何故かフミカと喋ってる時だけはこの症状がなくなる。





 授業が終わるとフミカは早速俺の方に来た。



「さっきのメールって本当に女の子からかな?」


 笑顔なのに何故か怖い。


「そうだけど?」


 負けじと言い張る俺。


「ふ〜ん......放課後、私、暇だからちょっと付き合ってくれる?」


「嫌なんだけど」


 フミカの顔がぐいっと近づく。


「聞こえないよ、答えは......はい、ね」


「はい」


 本当に今日は何時もと違うな。


 俺は放課後フミカに強制的に付き合わされる事になった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る