第6話

 バッカーノは思い出す。


 王都で大火事があって大変なことになっていると臣下から報告を受けた時、自分はなんと言った?


『知らん! そんなことを聞くのは今日の予定に入っていない! お前らでなんとかしろ!』


 とかなんとか言って、ビッチーナと二人で寝室に籠ったっきり出て行かなかった。


「俺は最低だ...」


 バッカーノの頭を抱えた。そんなバッカーノの頭を


 パシーンッ!


 リコウリッタが容赦なくハリセンでひっぱたく。


「ほらほら陛下! 落ち込んでないで豚汁を配りますよ!」


「あ、あぁ、分かってる...」


 しばらく貧民街の住民達に豚汁を配っていると、


「ゴホッゴホッ!」


 咳をしながら一人の老婆がヨロヨロとやって来た。リコウリッタがすかさず介助する。


「お婆ちゃん、大丈夫ですか!? 風邪引いてるんじゃないんですか!?」


「あぁ、済まないねぇ...老人ホームが焼け落ちちゃったんで、住む所が無いんだよ...路上で寝起きしてるんだけど、寄る年波には勝てないねぇ...」


「今、新しい老人ホームを造るべく急ピッチで工事してますからね? もうちょっと待って下さい」


「えぇ、えぇ、ありがとうねぇ...ゴホッゴホッ!」


 バッカーノは胸が詰まって言葉にならなかった。黙って豚汁を差し出すと老婆は、


「あぁ、温かいねぇ...お兄さん、ありがとうねぇ...3日振りの食べ物だよ...ありがたや...ありがたや」


 バッカーノはもう限界だった。


「ご老人! せめてこれを!」


 そう言って自らが着ていたドカジャンを老婆に着せる。


「あらあら、まぁまぁ...お兄さん、こんなことまでして貰ったら申し訳ないよ。あんたが寒いだろ?」


「いいんです! 自分は若いですから!」


「そうかい...悪いねぇ...あぁ、温かい...ありがとう...ありがとうねぇ...」


 そう言って涙を流す老婆に向かってバッカーノは、


「すいません...すいません...こんなことしか出来なくてすいません...」


 と、号泣しながら何度も何度も謝っていた。


「陛下、バカですねぇ。まだまだ炊き出しはこれからですよ? 風邪引いても知りませんよ?」


 ハンカチを渡しながらリコウリッタは苦笑する。


「だ、大丈夫だ! さ、寒くなんかない! さぁさぁ! 温かい豚汁ですよ! 皆さん、沢山食べて下さいね!」


 意地を張って炊き出しを続けるバッカーノを見て、


「バカだけど、そういう姿は嫌いじゃないですよ?」


 そう囁いたリコウリッタの言葉はバッカーノに聞こえなかった。



~ 翌日 ~



「ゴホッゴホッ! は~ハクションッ! ズビスビ...」


 見事に風邪を引いたバッカーノを見てリコウリッタが一言。


「おかしいですね? バカは風邪引かないんじゃなかったでしたっけ?」


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