第47話:完全治癒ポーション
雪と氷に閉じ込められた北方では、冬にできる事は限られている。
今まで民は藁を編み小間物を作り、わずかな手間賃を稼ごうとしていた。
だが今は実質的な支配者のアリステアが食いしん坊で、美味しい料理を作ってくれるのなら惜しみなく食材を与えるので、北方の家々は料理の研究にはげんでいた。
「ネコヤシキ殿、このベーコンと言うのはとんでもなく美味いのう」
古代氷竜アリステアが能天気な事を口にしている。
俺が製薬の研究に励んでいるのにお構いなしだ。
死ぬのを止めた直後はとても神妙だったのに、徐々に地がでているようだ。
それとも、サクラの猫自由人気質が影響したのだろうか。
そもそもアリステアが生きる気になったのもサクラの影響だ。
俺の対人恐怖症が改善したのも、サクラと魂を融合させた影響だからだ。
「全部食べないでくれよ、俺も食べたいし、春になったら真田君達に送るんだから」
俺はアリステアが食べつくさないように釘を刺した。
クジラのベーコンは俺も大好物だし、真田君達も大好きなようだった。
別に覗き見の趣味があるわけではないが、贈り物が本当に相手が喜んでくれる物なのか、確かめたいと思うのは当然だと思う。
幽体離脱すれば瞬時に行きたいところに行けるし、誰にも気がつかれない。
だから俺はアリステアを唆してクジラ料理を民に試作させていた。
特に厳冬期に試すのがいい燻製を、何十何百も試作させた。
同じ燻製でも使う材木によって全然風味が違ってくる。
部位によっても、適している燻製材や香りづけの香草も違ってくる。
複数の香草や燻製材を組み合わせる割合でも大きく風味が変わるのだ。
だが、俺が1番好きなのは定番のサクラチップと泥炭を使った燻製だった。
「分かっている、大丈夫だネコヤシキ殿。
ネコヤシキ殿の領民だけでなく、代官殿の領民も王領地の領民にも試作させているから、我らが少々食べても無くなる事はない。
我らが好む美味しい燻製は残しておいて、勇者達が好きそうな燻製を贈ればいい」
俺は思わず吹き出してしまった。
真田君達への贈り物だと言っているのに、1番美味しく完成した燻製を俺と自分の分にすると言い切る食いしん坊ぶりに、大笑いしてしまった。
だがその気持ちは俺にも理解できる。
納豆を贈ってこようとする連中にはその程度でいい。
「よし、ようやく完全治癒ポーションが完成したぞ」
俺は2リットルサイズの大きな特別製焼き物を見つめながら口にした。
常識的なポーションのサイズは小さなガラス瓶が定番だ。
だが欠損した腕や脚、内臓などを完璧に再現しようと思えば、元になる素材と莫大な魔力が必要だったのだ。
それなのに、欠損した身体を再生る素材まで魔力で代用しようとすれば、とんでもない魔力と、その魔力を含有させられる希少な素材を見つけなければいけない。
だが、欠損した部分を再生させる素材を魔力と一緒に飲み食いしてもらえれば、必要になる魔力も減らせるし、素材も厳選しなくてもいい。
それに、何も1度に一気飲みしてもらう必要もない。
何度かに分けて再生させればいい。
開封してポーションに効力が減るよりも前に、欠損した身体の再生に飲んでもらったポーションが消費されるから、直ぐにまた飲むことができる。
落としても割れないように特別に焼いた容量2リットルの大瓶に、タンパク質、炭水化物、脂質、カルシュウム、各種ビタミンを混ぜ合わせた原液を入れて、俺の想いと願いを込めて製薬魔術をかける事で、完全治癒のポーションが完成したのだ。
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