よい異世界召喚に巻き込まれましたが、殺された後でした。

克全

第1章

第1話:悪い異世界召喚?

「「「「「成功だ!」」」」」

「これで救われるぞ」

「団長、グランヴィル団長、しっかりしてください」

「「「「「団長!」」」」」

「ポーションだ、回復ポーションを飲んでいただくんだ」

「「「「「はい」」」」」


 下では多くの騎士や魔術士が右往左往している。

 いや、耳に入ってくる話の内容だと、喜びの余り小躍りしているのだろう。

 騎士と魔術士が喜び合う部屋の床には巨大な魔法陣が描かれている。

 騎士や魔術士は巨大魔法陣の周辺部にいるが、中央部には動かない人達がいる。

 一瞬誰か分からなかったが、俺を助けようとしてくれた学生達だと分かった。

 彼らも、これがどういう状況なのか分かっていないようだ。


 それにしても、これはどういう状況なのだろうか。

 などと悠長な事を言っていられない事がようやく分かった。

 呆然と立ちつくす学生4人の真ん中に倒れて動かない人間がいる。

 背を丸めて何かを庇おうとしているが、ピクリとも動かない。

 よく見れば今日自分が出かける時に着替えた服を着ている。

 40年ぶりくらいに幽体離脱しているのだとようやく理解できた。


「おお、貴方達が勇者殿か。

 我らの召喚に応じていただき心より感謝する」


「何を言っているんだお前は。

 ここはどこでお前は誰だ。

 この人を襲っていた連中の仲間か。

 いったいどんな手品を使ったんだ!」


 話がかみ合っていないようだ。

 この場で1番偉そうにしている奴が俺を助けてくれた学生達を勇者と呼んでいる。

 しかも強制的に召喚したのではなく、承諾してもらったと口にしている。

 だが、学生達は承諾していないと言っている。

 俺の大好きなラノベやアニメの展開から考えると、悪い異世界召喚かもしれない。


「な、それは申し訳ない事をしてしまった。

 我々は国家存亡の危機に立たされており、異世界から勇者殿を召喚したのだ。

 しかしながら無理矢理召喚する心算はなかったのだ。

 あくまで好意で来てくださる方だけを召喚しようとしていたのだ」


 責任者の言っている事が本当かどうかなんてわからない。

 偉そうな口調ではあるが、表情からはとても申し訳なさそうに感じられる。

 だが本当に悪い奴は天才的な演技をする。

 自分の心まで平気で騙して、いや、騙されたフリをして人から大切なモノを奪う。

 俺はその事を嫌というほど知っている。


「口で何を言っても信じられない。

 人間なら口ではなく態度で示せ。

 本当に他人に対する思いやりを持っている人間ならば、無理やり連れてきたと分かったら直ぐに帰すべきだろう。

 俺達を今直ぐ元の場所に帰せ。

 そうすればお前の言っている事を信じてやろう」


 学生の中ではリーダー格であろう男が偉そうな奴に詰め寄っている。

 一瞬は茫然自失になっていたが、直ぐに立ち直って対処している。

 しかも異常な状況だと分かっても、元に場所に帰る事を最優先している。

 もし偉そうな奴が本当に思いやりのある人間ならば、直ぐに帰してくれるだろう。

 だが、表情から無理なのが分かる。

 こいつらは俺達を帰す方法もないのに召喚したのだ。

 こんな奴らは絶対に信じることができない。


「直ぐに帰して、この人息をしていないわ。

 急いで救急車を呼ばないと助からないわ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る