第16話 ささやかな贈り物
お世話になっているから無償で贈りたいという店員と、タダで頂くわけにはいかないと言うユフィの攻防が繰り広げられている中、断りもなく帰るのもなんなので、店内に置いてある品物を眺める。
装飾品に関して詳しいわけでは全くなかったが、比較的買いやすい価格の物からあり、(オレの給料の大体20分の1――前の世界で換算すると1000円位)派手さは無いものの可愛らしい物が置かれていた。
多分10代から20代位がターゲットなのかな……なんて事を考えながら見ていると、1つ目を引く髪飾りがあった。
色は淡いピンク色の――いわゆる
――そういえば、さっきこれの前でユフィ立ち止まってたよな?
そんな事を思い出しながら商品を手に取ると、今も思いやりあふれる言い争いをしている2人の下へ近寄っていく。
「あー……お取り込み中のところすいません、これも買って良いですか?」
そう言ってレジのある台の上に商品を置くと、2人はキョトンとした顔をする。
まさか、話を中断されると思わなかったのだろう。
「あー、うん。これは1000ゴルドね。包装は何色にする?」
そう尋ねられたので、ユフィの方を見る。
「何色がいい?」
「……そこで、なんで私に聞くんですか?」
「いや、今日のお礼に贈ろうかなって思って。色々お世話になったし」
店を案内してもらったことと、装飾品の選び方をオレでもわかる様に教えてくれた事に対するお礼として、このくらいの品をあげるのは変じゃない……と思う。
これまで、人にプレゼントをあげた事なかったけど。
「いや、別にお世話なんて。そもそもお礼を貰いたくてやった事じゃ無いですし」
ユフィが少し戸惑った様に眉をひそめながらそう言うが、店員さんは目ざとくオレの手からお札を受け取ると、速やかに梱包を始める。
「うむ、キミは中々いい男になりそうだね。今後とも、何かあったらウチに買いに来るといいよ」
「待ってください! わたしは未だ受け取るなんて……」
「ユフィちゃんはちょっとお硬すぎるよ、それに男の人からの贈り物は何であれ受け取っておくものだよっ!」
そう言って店員さんがピンク色の包み紙で梱包した商品をユフィに差し出すと……ユフィはため息をつきながら受けとっった。
「今日だけ、ですからね? あと、おばあ様のロザリオはちゃんとお金払いますから!」
「うんうん、それでいいよ」
少し頬を染めながら言い切るユフィに対し、店員さんは手を伸ばして頭を撫でようとするが……拒否される。
「それじゃあ2人とも、用があったらまたきてねー」
ユフィの精算が終わると、にこやかな笑顔の店員さんに見送られ、オレ達は店の外に出た。
「すいません……この様なものを頂いてしまって」
少し硬い表情でユフィが軽く頭を下げてきたけれど、肩をすくめながら笑う。
「むしろ、こっちこそ押し付けてゴメン。何となく似合いそうだったからさ」
オレがそう言うと、硬かった表情が溶けてクスリと笑われた。
「私の髪もろくに見てないのにですか?」
「……まぁ、そうなんだけどさ」
まさか成長した君の姿は何万回も見た――とも言えず、目を背けた。
「アナタは、不思議な人ですね……」
閉じていた瞼をそっと開くと、実際の黄金を凌ぐほど美しく、透き通った輝きの金色の眼がジッとオレを見てくる。
髪の色に関しては様々なこの世界だが、金色の瞳を持つ人は殆どいない――ましてやここまで美しく、純度の高い金色は恐らく彼女以外に存在しないだろう。
そんな神秘的で、どこまでも澄んだ瞳に見惚れていると……瞼がソッと閉じられた。
「……あまり、ジッと見ないで」
肌が透ける様に白いせいで、彼女の頬はまたすぐに赤くなっていた。
それを見て、オレまで気恥ずかしくなりそっぽをむく。
すると、そこでようやく自分達が街の中心地の噴水前――彼女と出会ったところまで戻っていた事に気がつく。
「それでは……」
「あ、じゃあ……って、ちょっと!」
ユフィが軽く頭を下げて背を向けたので、オレも合わせて背を向けそうになったが……そういえば、今彼女が何処に住んでいるのかさえ把握していない事に気づき慌てて声をかけるが、彼女も同じタイミングで振り返っていた。
「……私は、あそこの丘上にある教会にいますので、気が向いたら今度いらして下さい。髪留めのお礼に、お茶くらいなら出しますので」
それだけ言うとユフィは足早に去っていき、すぐに雑踏に紛れてその背中は見えなくなってしまった。
銀髪、金色の瞳の少女――ユフィ。
彼女もまた、エンブレの被害者の1人だ。
その悲惨さは、ナナ達と勝るとも劣らない。
加えて、ナナ達と同様――いや、それ以上にその原因を取り除くことが難しい。
彼女の不幸の原因の元凶、それはあの美しい金色の瞳なのだから。
心魔眼、その様に呼ばれているアノ瞳は、見る人の心を読み取ることができると言われている。
本来であれば、長く一緒にいる中で何となく気持ちが分かる――そんな程度の魔眼だが、彼女のそれはレベルが段違いだ。
一度その瞳を開けば、その人が表面的に考えている事を瞬時に察することができると言う、桁外れの力を持っている。
ゆえに彼女は――その能力から両親に見放され、虐げられ、孤児院へと預けられる事になった。
だがその孤児院でさえ、彼女は受け入れられず……ただ、その高い能力と容姿から彼女は政治や戦争の道具と利用され続けた。
故に彼女は金色の瞳の事を嫌悪していたのだが……。
今日見た彼女は、その瞳があるにも関わらず、ゲーム内の彼女よりも遥かに幸せそうに、明るく見えた。
なぜ今の彼女がこんなにも幸せそうなのか……その要因を探ろうと心に誓いながら、オレは騎士団の隊舎へと歩いていった。
◇◇◇
隊舎へ戻るとロビーにあるソファで、ナナとミヨコ姉が寛いでいるのが見てとれた。
「あれ? 2人とも部屋じゃなくて、ロビーで休んでたんだ?」
騎士団に入隊する意思を見せたナナとミヨコ姉は、退院に合わせて2人部屋が割り当てられていた筈なのに、わざわざロビーで話している事に疑問を思い尋ねてみると、2人がオレの方を向いた。
「あっ、お兄ちゃんおかえりー!」
「お帰りなさい、弟くん。今日は先輩方のサプライズのために、部屋を開けておいて欲しいと言われて、こうしてロビーで過ごしたりお散歩したりしてるの」
「なるほど」
相槌を打ちながら、ミヨコ姉達の対面のソファに座ると、ナナの可愛らしい鼻がスンスンと匂いを嗅ぐように動いた。
「あれ? お兄ちゃん、誰かと会ってた?」
そんな事を尋ねられて、後ろめたいわけでもないのにドキリとしてしまう。
「えっと……なんで突然そんな風に思ったの? ナナ」
質問に質問で投げ返してみると、ナナがキョトンとした顔をする。
「だってお兄ちゃん、お花? お薬? みたいな匂いさせてるんだもん。そしたら、誰かと一緒に居たのかな? って思うよ」
そんな事を言われて――原因が、ユフィを抱きとめた時だと気づく。
だが、接触してたのはほんの一瞬だったんだが……そんな事を考えていると、ミヨコ姉がジト目をしていることに気づいた。
「……弟くん? 一体弟くんは、匂いがつく位密接に誰と会ってたのかなぁ?」
「いや、密接とかそういうんじゃなくて……」
少し、正面のミヨコ姉から圧力を感じてしどろもどろ答えると、満面の笑顔で尋ねられる。
「弟くんはいい子だから、お姉ちゃんに全部教えてくれるよね?」
「……はい」
ミヨコ姉の笑顔の圧力に負け、オレはその後洗いざらい全てのことを話した。
なお、ユフィとぶつかって抱きとめた事を話しした時には、ミヨコ姉の顔が真っ赤になっていた事を補足しておく。
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