第4話 企む人
私の頭痛を柔らげているあいだ、森綱さんは私の前に現れた理由を少し説明してくれました。頭が痛くてあんまり聞いてなかったけど、要するに、月を落とそうと企ててる奴らがいて、その為に私の力を利用しようとしている。みたいです。
意味不明です。こう言うのを何て言うんでしたっけ? コウトウムケイだったと思います。私は「意味が分からない」と答えました。すると森綱さんは、私の重力を操る力も意味が分からないと言います。私も確かにそうだと思いました。
「なんで知ってるんですか?」
私は、まだまだ14歳です。こんな風に聞き返したら、私に重力を操る力があるって認めているようなものです。
って、これを書きながら気がつきました。
「暑いね。涼まない?」
森綱さんは、私の質問を無視して辺りを見回しました。
森綱さんは近くのファーストフードのお店でハンバーガーを奢ってくれました。私は頭痛が引いた代わりに空腹を感じていたので、素直にご馳走になりました。まだ警戒心はあったけど、私の秘密を知っている事と私を利用しようとしている奴らがいること。それと『六葉紋』と手の温もりから、ちょっと話を聞く位ならいいかな? そんな気持ちになってました。それにいざとなったら、クゲンの力を使えばいいやって思ってた。
森綱さんとの会話を全部覚えている訳ではないけど、覚えてる事を、つぎはぎ しながら書いておきます。後から記憶を補っている部分もあります。
「さっきの質問に答えてもらってません。なんで私の力のことを知っているんですか?」
「自分にも少しだけど血が混じっているの」
「ち? 血ですか? 血液の? なんの血が混じっているんですか?」
「なんて言ったらいいのかな、『鬼』かな?」
「オニ? 森綱さんはソッチの、妄想系の人ですか?」
森綱さんは笑いました。笑い顔はすごい可愛かったけど、犬歯がニュッと大きかったです。お店に入ってマスクは外したけど、サングラスは相変わらず外そうとしません。サングラスをかけたままハンバーガーを頬張ります。犬歯が突き刺さると、バンズが刃物で裂いたように裂けていきました。
「ソッチ系ではあるけど、妄想系ではないよ。むしろ普段は真面目に働いて、社会にキチンと溶け込んでいる系だと自負してる」
「ジフ?」
「自分ではそう思ってる」
「ふ〜ん、社会に溶け込んでる人は職質されて連行されないと思います」
森綱さんは、また笑いました。笑うと犬歯以外は普通の人です。
「バックボーンに社会的信用があるから、解放されたの。千重ちゃんは頭の回転が早いね」
「私はバカです。褒めるついでに千重ちゃんとか言って、距離を詰めないでください。私はまだ森綱さんのことを信用した訳じゃない。森綱さんは何者なんですか? 私とどんな関係があるんですか? なんでクゲンの事を知ってるんですか?」
「すごい沢山の質問だね。どれから答えればいいのかな。まず自分は、なんて言ったらいいかな、組織の人間だよ。あなたを守るように育てられた。 クゲンって、懐かしい言い方。祖父君は元気?」
サングラスで見えないけど、森綱さんは顔を上げてお店の外、遠い所を懐かしむように見ている感じでした。
「お祖父ちゃんの事まで知ってるんですか?」
「ん? 先生みたいなものかな。力の使い方と、格闘技を教わったよ」
「格闘技?」
「うん。格闘技の基礎ね。本格的なのは組織の方でミッチリ仕込まれたけど、でも師匠といえば、あなたの祖父君になるかな」
「格闘技って、なんで? なんで私を守るんですか? 力と関係してる? 私を何から守るんですか? 利用はどんな利用なんですか? 悪いことに使おうとしてるんですか?」
私は疑問がいっぱい出ました。今でもわからない事があります。森綱さんが答えてくれた事は、通称『先輩』と呼ばれる人と『喪失者』と呼ばれる人が、私の力を利用して月を落とそうとしているって事でした。
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