第46話 と言う事で、心霊体験を浴びせられた俺は怖すぎてトイレにも行けなくなりました。

千智「よぉぉぉぉし!!ここまで来ればこっちのもんだぜ!!」



 ミリリアの鎌を手に甲冑を身に付けたゴリマッチョの傲慢男と戦い、優勢を手にした俺。ここから先は俺のターンだ!!!



千智「デアァァァァァッ!!!」



 気持ちい程に攻撃がヒットする…!!

 バトル中にこんな感覚を味わったのは超久し振りだな!!

 何だか…楽しくなってきてしまうぜッ!!

 こうも優勢を味わってしまうとよ!!

 


千智「奥義…!!」



 さてと、そろそろ終わりにしてやるぜ…!!

 喰らいな………俺の奥義をッ!!

 しかし奥義を放った瞬間、俺の後ろからいきなり津波が押し寄せた。そしてその津波に飲み込まれ、再び目を開けるとそこにはいつも見ていたベッドから見る天井があった。


 …そっか…夢か。

 くっそ~、どうせ起きるなら奥義を決めた後に起きたかったなぁ。

 うっすらと目を開けて天井を眺めながら項垂れていると、ある感覚が俺を襲った。


 …!!

 

 やべぇ…小便に行きたい…!!

 だから津波に飲まれたのか!!


とにかく急がねぇと、俺の膀胱とベッドとサイドの二人が偉い目にあっちまう。腕にしがみつく美柰咲とエミューザを起こさないように振りほどき、トイレに向かう。

 一分後、用を足し終わり自室へと向かって歩いていると、窓から射す月の光に目を奪われた。

 そう言えば、地元に居た時によく夜に散歩してたっけ。静けさが広がって世界に俺一人しかいないって感じの雰囲気が好きだったんだよなぁ…。


 そう思った矢先、寝巻きの軽い服のまま靴を履き外へ散歩に出掛けた。まぁ、つい数分だけの軽いウォーキングだ。すぐに帰ればいいだろう。


 それにしても、相変わらず薄暗いなぁ。レイド達に電灯を作ってもらおうと思ってるけど、毎回忘れてしまう。

 明日こそは絶対に依頼しよ。

 テラスを離れて少し木が生い茂っている場所に辿り着いた時、微かに寒気を覚えた。


 …そろそろ帰るか。

 そう思い城へと足を進めようとした瞬間、背後に何者かの気配を感じた。



千智「ッ!!」


 

 勢いをつけて後ろを振り向く。しかしそこには誰も居らず静かな林道が続き、涼しげな虫の鳴き声だけがあった。

 まさか…また気配殺しの能力者か…?

 だけど、何か変だ。感じた気配は今までみたいなアサシンやレイシェルの様な気配じゃない。

 もっとこう…何と言うか…気持ち悪い感じだった………。


 林道を見つめ敵を探していると近くの茂みから何かが通り過ぎる音がした。


 …美柰咲…だよな…?

 じゃなきゃエミューザか…?

 ったく…脅かすなよ(汗)

 

 音がした茂みに向かい両手で草を掻き分ける。

 逆に驚かしてやろう…!!



千智「バァァァァァッ!!!」



 掻き分けた途端に盛大に声を上げた。だが、逆に驚かしてやろうとして驚いたのは俺だった……。

 その茂みに美柰咲はおろか人の影すら存在してなかった………。


 …はぁ?


 何かの魔獣かな?でも魔獣なら気配や鳴き声で一発で解るはず…。

 だったら…。

 か、考えても無駄だ…。

 もう帰って寝よう。今日は不本意ながら美柰咲に寄り添って寝てやるか。

 勘違いするなよ。別に怖いとかそんなんじゃないから。

 いやマジだから。

 マジで…!!

 

 再び城へと体を向け足を進める。そして最高の恐怖が訪れた。

 それは歩こうと足を上げた時、俺の足を生温くてヌラリとしたものが撫でた。



千智「ひゃっ!!」



 思わず変な声を出してしまった……。

 でも今確かに俺の足を撫でる感触があった……。


 何だったんだ今のは…。

 城へと帰るべく足を進めようとし、前を向く。その時、俺の目に入ってきたのはさっきまでの恐怖なんかまだまだ序の口と言わんばかりの光景だった……。

 目の前に並んでいる五番目の木の影から顔が半分溶け、目が付いているのかも解らない状態の生首が俺をじっと見つめている。その首から気配を感じる事が出来ず、本当にあるのかすら疑問に抱く程不思議な物だった……。



千智「イヤァァァァァァァァァッ!!!」



 叫ぶと同時にそれが何かを認識した。

 嘘だろ…!!

 ハッキリと見たのは初めてだ…!!


 ってそんな事を言ってる場合じゃない!!

 逃げなきゃ!!

 そう思い走ろうとする。しかし恐怖で体を縛られている感覚に陥り、足が動かない。

 

 ちょっ!!

 動けよ!!こちとらどんだけ必死だと思ってんだッ!!

 ふざけるのもいい加減にしろッ!!

 そう思うもこちらを見ている死霊の気配がそこらかしこに増えてきた。


 あかん…死ぬ…!!

 俺…このままやと…死んでまう…!!


 気付いた頃には俺は無数の死霊に囲まれていた。


 何で…!!何で死霊がこんなにも…!!


 もう何が何だか解らない…。

 ここに別の気配があるのかすら解らない…!!


 クソッ!!まさかこれが迎えとでも言うのか…!!これが俺の最後とでも…言うつもりか…!!

 俺の異世界ライフは…特にこれと言った結果も見出だせずに死霊に終止符を打たれてしまうのか…!!



死霊「うぅぁぁ…。」



 周りから変な呻き声が聞こえてくる。その声は次第に増えていき、やがて俺を取り囲んだ。


 そうだ!!ステータス!!

 そう考え、自らのステータスを確認する。


 …いや3ページも見てられるかッ!!


 とりあえず何か出来ないかと色々試行錯誤をしているが、動揺のし過ぎで手に着かない……。しかもそれのお陰で《冷静》すらもが作用していない…!!


 ちくしょう…!!こんな所で…!!


 体を震わせながら地面に顔を向け極力周りを見ないようにしていた中、直前にあった茂みが音を発てながら揺れ、そこに誰かが立っていた。俺を見下ろし何かを言おうとしているのが気配で感知できる。

 今回ばかりは本当にダメかもしれん…。

 もしマジで死んじまったらミリリアは残った奴等に任せよう…。


 クソ…!!

 クソクソ!!

 情けねぇぜ…全くッ!!

 奴の好き勝手に付き合わされた挙句の果てがこんな死霊共に殺されるのか…!!

 あの時…あの時外に出ていなかったら…。

 黙って部屋に戻って三人で寝ていたら…。

 こんな事には…こんな…事には…!!


 破裂しそうな心臓を押さえ付けようとするも、なかなか実行できない。ステータスどころか試行も追い付かなくなってきた。

 ガタガタと震える体の音が聞こえてくるレベルにまで達する……。


 そして目の前のソイツが口を開いたーーーーー




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