第33話 世の中に楽しみ多し然れども(7月18日)

 本日は横綱白鵬の全勝優勝について語る気分であったのだが、それを押しのけて私を動かす題材が出てこようとは思わなかった。

 この件については明日の優勝後の会見を確かめて考えることとし、私は素直に自分の心に由ることとしたい。


 本作で「孤独のグルメシーズン9」の放送開始を紹介したのももう十日ほど前ではないかと思うが、第二話の「ふらっとQUSUMI」を見ながら感じたのは心地よさよりも衝撃であった。

 元々、このドラマは食べることを通して何かを解決するわけでも、新たな展開を呼ぶわけでもない。

 淡々と一個の男が飯を食うだけである。

 加えて、その後に作者が登場する先述のコーナーでも大きな違いはなく、ただその傍に麦スカッシュや井戸水があるだけでしかない。

 傍から見ればおじさんが飯を食うだけで、こちらは垂涎を約束されたドラマが十年近く続くものだと不思議でならない。


 ただそれは、今が「個の時代」であることを象徴しているのではないかと思う。

 食べる側が個であることを好むようになり、また、そうした時に店側にも個を求めるような思考が一定の支持を得たということであろう。

 無論、それが多数派という訳ではなく、私の知り合いも多くは一人で自由に飯屋で飲み食いすることに抵抗がある。

 それもまた自由であり、むしろ、孤食や独酌が必ずしも多数派をとることは控えてほしいと思うほどである。

 これは私が小世帯に留まりたいという性分によるものでしかないのだが。

 話が逸れてしまったが、ある意味ではこの孤食は個人と個人の四つのぶつかり合いであり、そこに滲み出てくるものが全てである。


 それが様々な要因から苦戦しているのも現代であるのだが、コロナウィルスはそれに止めを刺さんとするように一年以上跋扈している。


 自粛自粛 自粛と言いて ひと笑い 何が自粛と 笑うも自粛


 それに精一杯、個が抗おうとしているのが今シーズンではなかろうか。

 無論、主人公の飲み食いの姿は以前と変わらず、酒を排して突き進むのみである。

 ただ原作者の久住氏の食べる姿に陽炎が見え、左手の求める恋しさを抑えながらこちらもしっかりと食と向き合っている。

 このままでは個人というものを大きく損なってしまうという危機感が、呑兵衛を立ち上がらせ、突き動かす。

 それは私もまた同じように歩んだ道であり、その歩み方もまた独りぼっちの獣道である。

 素面でいるガールズバーや居酒屋の面白さを知れたというのも収穫であろう。

 ただ、その視線の先に共通するのは誰彼気にすることなく、酒を飲み、飯を食うという単純な絵であり、理想郷である。

 そのためであれば、私はもうしばらくこの戦いを共にしよう。


【本日の出来事】

◎京都アニメーション放火事件から二年

 当時、仕事を終えた後に上司や先輩と話をしていてその口から京都アニメーションの名前が出たことで、この事件を初めて現実として捉えることができた。

 そこから思い立ち、盆休みに合わせて上洛して解体前の現場を訪ねたのは今でも記憶に新しい。

 映像も言葉も確かに訴える力を持つが、事件からひと月ほど過ぎてなお漂う煤の匂いが染みついて離れない。

 被害に遭われた方への労りと犠牲になった方への哀悼を示しつつ、本事件が粛々と裁かれる日を待つ。

◎大阪の「表現の不自由展」閉幕

 ぜひ「ちびくろサンボ」とフランスの風刺画と釣り目で書かれたセーラームーンとを同じように並べていただきたかった。

 そして、その表現の自由が齎すものが何かをしっかりと映し出していただきたかったのであるが、こればかりは致し方あるまい。


【食日記】

朝:フランクフルト

昼:たまごサラダサンドウィッチ、牛メンチカツバーガー

夕:サイコロステーキ、豚肉と千切りキャベツの馬見原ダレ炒め、ウィスキーお湯割り4

 馬見原の究極ダレは山都町で買い求められるロックな一品で、餃子も薄味の蒸し鶏もこれで進んでしまう。

 野菜炒めに良いのだが、酒が進みすぎるのが玉に瑕。

他:おーいお茶、野菜ジュース

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