第7話 突っ込みどころ満載
「なんなのアンタの会社。頭おかしいんじゃないの?なんで言い返さないわけ?」
定時きっかりに仕事を切り上げ、先に帰っていた妻と目線があった瞬間、思いっきり言葉でビンタされた。
「いや、まぁ融通は利かないとは思うよ。ただその場だとなんというか、話の穴をついて返す雰囲気でなかったというか、いきなりは俺も立場とか関係性がね」
「立場とか関係なくてこれは労働者としての権利の問題なのわかってる?雇われて労力を払う義務に対し、会社は給与の支払いをして、業務に集中できる環境づくりする義務があるの。相互関係を崩されてるのわかってる?」
出鼻をくじかれるどころか出る前に完封されてしまった私は、しどろもどろに返すしかなかった。以前から整合性が取れない事柄に関しては真っ向から立ち向かってきた彼女である。交際当時から意見の相違があるたび粉砕…いや、粉すら残らないまでにやり込められ、私とのデート中も難癖をつけてきた中年男性を公共の場で論破し、泣かせていた。某猟奇的な女性はここにいたのだ。
そんな彼女に対し、鞄をテーブル近くに置いた私は両手でよくわからない動きをしつつ釈明を続けた。
「そりゃわかるよ。たださ、住宅手当って法律的な義務が無いのは知ってるでしょ。それを向こうはわざわざ
「そのマイルールが滅茶苦茶なのわかってる?」
空のコーヒーカップを突き出しながら事実確認をしてくる妻。「わかってるよ」と言い残し、おかわりを入れて戻った私は気持ちを仕切り直し、妻と向かい合って着席した。
「正直俺も言いたかったよ。目的に対する手段が適切じゃないって。ただ、向こうが自分で言ってて気づいてないんだもの。証明するのに書式は問題ではないって事に」
「どういうこと?」
私は、事務員が「会社が求める書式でなければダメで、相手方に書式がなければ持っていって記入してもらうか、一筆書いてもらって」と言っていたことを説明した。記入してもらう事を一筆書くと表現することもできるが、書式を持参し記入してもらう事を既に選択肢に入れている。つまり、
「普通に考えたらここでの一筆っていうのは自由書式で、極論として切れ端に手書きだったとしても求める内容と会社の保証としてのハンコが押してあればいいって解釈ができる訳よ」
「指定の書式に対応できないなら一筆でいいって既に矛盾よね」
「しかもさ、これ見てよ」
足元に来るように置いた鞄からクリアファイルを取り出し、コピーしておいた住宅手当の規定を妻に差し出す。受け取った妻は素早く目を通すなり、厳しい目線を向けてきた。
「なにこれ、ルールで決められてないじゃない」
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