第113話 騎士団でのひと幕

 命を狙われたガステンさんは、騎士団で身柄を保護することになった。

 とはいえ、これは騎士団側からすると好都合。

 何せ、ガステンさんとの接触を試みていたわけだからな。


 しかし、まだ油断はできない。

 学園に不正を持ちかけている貴族側についている者は、騎士団の中にも存在している可能性がある。



 ガステンさんの身柄を騎士団へ届けた後、俺は城にある騎士団長の執務室へ呼びだされた。


「来てもらって早々だが、協力をしてもらいたい」


 執務室へ入った途端、いきなりお願いされた。

 ――が、それは想定内だ。

 ゾイロ騎士団長が呼びだした理由については大体察しがついたのだ。


「俺がガステンさんから事情を聞きだせばいいんですね?」

「さすがに話が早いな」


 ニッと口角を上げたゾイロ騎士団長。

 俺としても、今回の事件の真相についてはいろいろと知りたいことがあるため、望むところであった。……ガインさんの件もあるしな。

 

「場所を案内してください」

「あー……その前に、ちょっとやるべきことがある」

「えっ?」


 やること?

 このあとに?

 ……一体なんだろう。

 皆目見当もつかなかったが、俺はその「やること」を果たすため、ゾイロ騎士団長とともにある場所へと向かった。


「カリナ、ちょっといいか」

「騎士団長? 今日はどうされました?」


 案内されたのは、城内にある一室。

 そこは、騎士団における事務的な仕事をこなしている場所らしく、ゾイロ騎士団長はそこで働くカリナという女性に声をかけた。


「悪いんだが――この子に合うサイズの制服を貸してくれ」

「「えっ?」」


 カリナさんだけでなく、俺も一緒に声をあげる。


「制服って……」

「相手の警戒心を解くためだ。騎士団でもなく、ましてや学生の君が急にやってきたら必要以上に警戒されるだろう?」

「た、確かに……」


 なるほど。

 これから事情を聞くことになるが、まず間違いなく後ろめたい隠し事があるはず。だとすれば、今の彼はかなり警戒心が強まっているはず。そこへ、ただの学生である俺が質問をするなんて言いだしたら、さらに警戒心が強まって本心を隠し通すだろう。

 それだけならまだしも、困るのはひと言も喋らなくなることだ。

 もしかしたら、「言語スキルを使う学生がいるから注意するように」ってお達しがいっているかもしれないし。


「時間がないんだ。手短に頼めるか、カリナ」

「お安い御用ですよ! ささ、こっちへ来て!」

「は、はい」

 事情は把握した。

俺はカリナさんに連れられて部屋の奥へ。

背丈を確認し、それに合うサイズの制服を選ぶと試着室へ移動。それにしても、まさかこのような形で騎士団の制服に袖を通すことになるとは……。


 ちょっと動揺しつつ、着替えを終えて試着室の外へ出る。


「うん。サイズは問題ないようね」

「き、騎士に見えます?」

「大丈夫よ!」


 背中をバシンと勢いよく叩かれ、俺はゾイロさんのもとへと送り出された。


「ほぉ、似合うじゃないか」

「あ、ありがとうございます」

「本来ならばもうちょっと余韻に浸っていたいところだろうが――残念ながら、その時間はない」

「! 分かっています……」


 顔つきの変わったゾイロ騎士団長を前に、俺も背筋が伸びる。

 さあ、いよいよガステンさんのもとへ行くぞ。

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