第64話 疑惑
試験では少しくらいアピールできたと思ったのだが……クラス分けの結果は現状維持のEクラス。
応援してくれたサーシャやエルシーには申し訳な――
「ハーレイ殿ぉ!」
そんなことを考えていたせいか、早速エルシーに見つかった。エルシーがいるということは当然サーシャの姿もある。ふたりともAクラス入りを果たしているのに表情はどこか暗い――その理由は間違いなく俺だろう。
「あっ、そ、その……」
弁解をしようにも、言葉が浮かんでこない。
とにかく謝った方がいいだろうと思い、頭を下げようとした時だった。
「おかしいですよ、この結果は!」
「まったくだわ」
ふたりは怒っていた。
――が、俺が想定していた理由とは違う。
「へっ? どういうこと?」
「だって、あの勝負はどう見てもあなたの勝ちよ。結果も内容も全部含めて、あなたがEクラスになる理由なんてないわ」
「そうですよ! それに、負けたヘンリー殿の方がAクラスというのもおかしな話です!」
「えっ?」
ヘンリーがAクラスだって?
……それは確かに妙だ。
「私は……今回の結果の裏には、何か不正が働いているのだと思うわ」
サーシャはハッキリとそう言い切った。
国内でも指折りの名家であるレヴィング家のご令嬢が、学園側の不正を疑うような発言――誰かに聞かれたら、問題になりそうだが……とりあえず、大丈夫そうだな。
「お、お嬢様、さすがにそれは……」
「あら、あなただってついさっきまでそう言っていたじゃない」
「それはそうですけど……」
エルシーが押されている。
いつもはどちらかというと逆のイメージだ。突っ走るエルシーをサーシャが冷静な口調でたしなめる――が、今に関しては逆だな。
「この件について、私は抗議するつもりよ」
「し、しかし、聞き入れてくれるかどうか……昇級試験もあるみたいですし」
「えっ? 昇級試験?」
またしても初めて聞く言葉が出た。
しかし、それは俺にとって希望を抱かせるものだ。
「そ、その昇級試験というのは……」
「今年から新しく導入された仕組みです。低いクラスから上位のクラスへ昇格するための試験です。一ヶ月に一度行われるらしいのですが……」
「なるほど……」
昇級試験、か。
それを突破すれば、文句なしにクラスが上がるってわけか。
「……分かったよ」
「えっ? 分かったというのは――」
「その昇格試験を突破して、Aクラスに入る」
「! そ、そんな! あなたは――」
「大丈夫だよ、サーシャ」
サーシャは俺のことを心配して抗議をしてくれると言ってくれた――が、下手をすれば、それはサーシャだけの問題でなく、レヴィング家全体の問題に発展するかもしれない。サーシャの父親であり、レヴィング家の当主を務めるゾイロ騎士団長にも随分と世話になったからな。迷惑はかけられない。
ヤツらが妨害をしたのかどうか、それはきっと有耶無耶にされて終わりだろう。
だったら……妨害されない方法で突破すればいい。
さすがに昇級試験を突破したのにクラスが上がらないとなったら、誤魔化しきれないだろうからな。
うん。
振り分け試験に勝ったことで、少し自信がついたようだ。
「ありがとう、ふたりとも。――必ず追いつくよ」
「ハーレイ……分かったわ」
最後は穏やかな表情になったサーシャ。
これ以上彼女を曇らせないよう、しっかりやらないとな。
とりあえず、一ヶ月後の昇級試験に向けて準備をしていかないと。
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