第60話 試合開始

 魔法使いの家系に生まれながら、魔法が使えずにいた俺が得た新しい力――新しい家族がくれた希望。

 スキル判定をしてくれたガスパルさんも、言語スキル使いとしての才はあると言ってくれたからな……やってやるぞ。

 それに今は、以前とは状況が異なる。


「頑張って、ハーレイ」

「落ち着いて戦ってください!」


 エールを送ってくれるサーシャとエルシー。

 彼女たちの存在が、大きな励みになっている――と、


「うん?」


 ふと俺の視界に映ったのは、弟のマシューだった。

 ……なんだ?

 いやに不機嫌そうな顔だな。 

 最初はバカにしていた俺への嫌悪感かと思ったけど……どうも違うみたいだ。あいつの視線は俺に向けられていない。むしろその背後――まさか、サーシャか?


「おい!」

 

 マシューの異変について考えていると、対戦相手であるヘンリーに声をかけられる。


「随分と余裕のある態度じゃねぇか」

「そうかな」

「けっ! はなから勝負を捨てているってわけかよ……いいねぇ、落ちこぼれは気が楽でよ」


 別にそんなこと思ってもいないのだが……それに、俺は勝つ気でいる。

 

「はじめ!」


 試合が始まった。


「さっさとケリをつけて、アピールしておかねぇとな」


 そう語るヘンリーは剣を構えた。

 本来魔法使いである彼が、あえて武器に剣を選らんだ。


 つまり……俺はなめられているのだ。


「どうした? ビビっちまったのか?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべながら、剣先をわずかに動かす。

明らかな挑発行為だ。

 恐らく、相手は俺の方から飛びかかってくるの待ってカウンターを決めるつもりなのだろうが……いいさ。そこまでカウンター狙いに徹するというなら、お望み通り、こちらから仕掛けてやる。


「はあっ!」

「!?」

 

 気合を入れてヘンリーに仕掛ける。

 魔法使いとはいえ、最低限の剣術は心得ているらしく、一瞬で決着とはならなかったが、こちらが優勢に運んでいるのは明白だ。


「このっ!」


 防戦一方のヘンリーはすでに息が上がっていた。

 なんとか距離を取り、呼吸を整え始める。俺も少し張り切りすぎたようで、呼吸が荒くなっており、それを整える。


 その間、周囲のざわつきが耳に入った。


「本当にあのハーレイなのか?」

「今までとは動きが違うぞ」

「あれだけの力を隠していたのか?」


 そのほとんどが、俺の動きに対する驚きであった。別に隠していたわけじゃなく、セスとの特訓で鍛えられたというのはある。それに、なんだか今日はいつもより軽快に動けている気がするんだ。相手の動きも良く見える。


「ちっ……」


 一方、ヘンリーは聞こえるほど大きな舌打ちをする。

 彼からすれば、俺を相手にここまで苦戦するとは思っていなかったのだろう。

 互いに仕切り直しとなった――が、ここでヘンリーが勝負に出る。


「まさかおまえ相手に魔法を使うことになるとはな」


 ヘンリーの全身から立ち上る魔力。

 それは徐々に形を変えていき、やがて炎となった。

 彼がもっとも得意とする炎魔法だ。


 ――となれば、俺はアレを繰りだすか。


「……【詠唱吸収】を使ってみるか」


 初めて戦闘用スキルを発動してみることにした。

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