第47話 作戦会議
「水路から壁に、か……」
こっそり王都を抜けだし、待機場所となっている近くの森へ向かった俺は、セスやソフィたちへ城周辺の状況をまとめて伝えた。そして、それらの情報から、水路から突破する作戦を提示する。
セスの潜水能力については問題ないので、あとはいかにして警備の目をかいくぐり、壁を突破するかにかかっている。
「みんながパレードで注目している間に忍び込もうってわけだ」
「そんなにうまくいくの?」
ソフィの疑問はもっともだ。正直、それだけの情報では、成功の可能性は限りなく低いだろう。これはもう半ば賭けであった。分の悪い賭けだ。それでも、
「やってやれないことはないな」
セスは乗り気だった。
「当日の朝、俺は家族と王都に行くから別々になるけど、パレードの時になんとか抜け出して三番水路を目指すよ」
「でも、セスが王都に現れたらパニックになるんじゃない?」
ソフィの指摘した通りだ。
いくら心は平和を愛し、人間と共存もできる優しいモンスターであったとしても、王都の人たちが「じゃあ安心だ」なんて即座に納得するはずもない。
当初は王都を流れる運河から直接三番水路へ行けばいいと考えていたのだが、実は城のもっとも近くを流れるこの3番水路は独立した水路で、他の水路とはつながっていないことがあとで発覚。
そのため、検問所スルーのため一度運河から王都へ侵入し、そのあと着替えて3番水路から庭園を目指すプランとなった。
だが、その対策はバッチリ用意してある。
「セス、当日はこいつを着て王都まで行くんだ」
「? これは?」
俺がリュックから取り出したあるモノを、セスとソフィは興味深げに眺めている。その正体とは、
「こいつはコートと言って、人間の着る衣服の一種さ。父上が昔使っていたものを拝借してきたんだ」
かつて父上が使用していたブラウン系のコートだ。
「これなら全身を覆い隠せるだろ?」
「おぉ……着てみていいか? 人間の服っていうのには前々から興味があったんだ」
「どうぞ」
俺はセスのお願いを快く了承。
初めて袖を通す服に、セスは興奮していた。周りのモンスターたちも、「似合う!」とか「色男!」とか茶化していて、セスも満更ではないようだ。
「当日はそいつを水に濡れないよう袋に密閉していけよ」
「わかっているよ」
……やれやれ、本当にわかっているのかね。鼻歌まで歌っちゃって、暢気なもんだ。――おっと、肝心なことを忘れるところだった。
「あのさ、セス」
「なんだ?」
「この前の提案についてだけど」
この前の提案――それは、俺がセスとセレティナ姫が会う場面に立ち会うというものであった。もちろん、俺がモンスターを城内へ侵入させたということがバレたら大問題に発展するだろう。でも、セスとしては心細く、また、いざという時の指示役として俺に来てもらいということだった。
で、問題は作戦が失敗に終わり、セスと俺が一緒にいるところを誰かに目撃されたと想定した場合の切り抜け方にあった。
「やっぱり……セスに脅されてやったっていうのは……」
「それでいいだろ。でなきゃ、おまえにあらぬ容疑がかけられちまう。せっかく入った学園とやらもお払い箱になっちまうんだぜ?」
言ってみれば、リザードマンだけにトカゲの尻尾きりに利用しろとのことだった。
モンスターと会話ができる俺を脅して城へ潜入したということにすれば、全部セスが悪いということになって俺はお咎めなしになるって寸法だ。
「俺としちゃ、最後の最後までドジるわけにはいかねぇんだが、いかんせん人間の住む街っていうのは不慣れでよ……おまえの手助けがどうしても必要になる。なぁに、失敗しなければいいだけの話だ。そう難しく考えるな」
「だけど……」
「俺は逃げることについては慣れている。ベテランだ。絶対に捕まりはしねぇよ」
……俺が心配しているのはそこじゃない。
もしも、今回の作戦が失敗してしまったら、姫様に会うどころか、人間たちの前に二度と姿を見せられなくなるだろう。そもそも、捕まったら命はない。
「でも、やっぱり」――という、ソフィの言葉に被せるようにして、
「おまえには……感謝してるんだぜ?」
「え?」
「こんな一世一代の好機をお膳立ててくれてよ」
表情はあまり読み取れないが、たぶん、セスは笑ったのだろう。
「おまえがいて、この道を示してくれなかったら、きっと俺はずっと後悔するところだったろう」
「セス……」
かつて、命と心を救ってくれた恩人――セレティナ姫に最後の別れの言葉を贈るため、セスはこの難関へと立ち向かう。
見た目はモンスターだっていうのに、その心意気はこれ以上なく人間臭い。
こんな姿を見せられたら、成功させないわけにはいかないな。
俺も気合を入れ直し、明日に備えるため、モンスター村をあとにして家路へと急いだ。
さあ……どうなることやら。
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