DAY 86-3
「勇者にしか持ち得ない光の魔法と、始空神と同じ天使の翼を携えしたった一人の、まごう事なき勇者!」
彼女達の口は、開いたまま塞がりませんでした。
理解が及ばぬまま時間は過ぎ去り、やがて身体が統一して目を覚ましたベレスと、謎の少女により連れてこられたカロンはそのまま評議会に参席し、意味不明な言葉の羅列を、ただただ耳にしているだけでした。
魔族でありながら、ベレスは勇者である。その事実に、間違いは無い。
ひたすらに、そう問われ続けたのです。
✳︎
評議会は事実確認を共有すると颯爽と解散となり、彼女達には豪華な部屋を与えられました。
抵抗する気力も起きず、ただ時間に身を任せ、すっかり外は暗くなっていました。
静まり返ったその部屋でベレスは一人悩んでいると、扉の音と共に少女が入ってきました。
少女は変わらずベレスに微笑みかけていました。
「どうでした? 色々と分かったことがあったでしょう?」
少女の言葉など、ベレスの耳には入ってきません。
もう何もしたくないと、ベッドの上で蹲りまってしまいました。
「⋯⋯ここは、勇者の地と呼ばれるようになった大陸の真ん中に位置する城の中です」
少女は気にせず言葉を続けました。
「勇者が生まれ落ちた場所がここだったという話から、人々はここを勇者の地へと名前を変え、ちっぽけな村から世界で一番の城を築いてみせた⋯⋯貴方の父親が討伐されてから、僅か数年の出来事です」
「⋯⋯」
ベレスは蹲ったまま、少女の言葉を聞き流していました。
「すみません、聞きたい事とは違いますねよね。では、百年前に戻りましょう。貴方と、貴方の母親が封印された直後の事です。その封印は、勇者の仲間であったイズンという賢者に見つかり、解かれようとしていたのです。封印を解かれる訳には行くまいと、アーガルミットは堕天により手に入れた、魂喰いという力で抵抗しますが、賢者には及びませんでした」
「⋯⋯」
「封印が解かれる直前、貴方の母親であったグシオンは再度封印を施す為、内側から再封印を測った。しかし同じやり方ではいずれ突破されてしまう。だから、自分の全てを触媒にその部屋ごと封印を施し、勇者一行に認識阻害まで掛けて、部屋の存在ごと閉じ込めたのです。グシオンはベレスさんを眠りにつかせると、そのまま力尽きるように朽ち果てていった⋯⋯これが真実です、ベレスさん」
「そんな⋯⋯パパもママも、私の為に⋯⋯」
「そう、貴方の両親は世界の結末よりも、自分たちの娘の命を選んだのです」
「私が⋯⋯勇者だから⋯⋯?」
「それは⋯⋯ふふふっ⋯⋯貴方、この世界ではこんなにも卑屈なんだな⋯⋯」
「分かんない事、言うなよ⋯⋯」
「ああ、いえ、聞かなかった事にして下さい、こちらの話です。貴方が次の勇者だからという理由は一因してるかもしれませんね、既に予言書に書かれている事ですから」
「その、予言とか予知って、なんなんだよ⋯⋯お前は全部知ってるのか?」
「はい、
「⋯⋯もう、勇者って話は散々聞かされたぞ。もう良いよそんなのは⋯⋯」
「いいえ? そんな軽い話ではありませんよ」
「⋯⋯え?」
少女は⋯⋯ベレスにとって、この世界にとっては理解不能な事を口にし始めました。
「女の子キャラとして設定、そこでは純朴な村娘、十六歳で旅立ち、大きな街でアトリエを持ち、経営をしながらやがては結婚をし、なんでもない幸せな日々を送る。貴方はそういうプログラムを建てられていたのですが⋯⋯」
「ちょ、ちょっと待て、何を言ってるかさっぱり──」
「しかしそれらは世界にとって歪な物、秩序によって排除されようとするが、落ちた先はグシオンのお腹の中。ただのデータは転生という形で受肉を果たし、そのプログラムと予言で確立されていた因果律をあろうことか分岐させた⋯⋯光魔法を宿してしまったばかりに。光魔法とは、あらゆる事象を捻じ曲げ、自分の導とする最大の元素魔法、因果律分岐。ベレスさん、貴方は決めなければならない。捻じ曲がり過ぎた存在のまま生き続けるか、今までの自分を捨て勇者であり続けるか⋯⋯どちらかの未来を」
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