DAY 68-1
警備国アルターの中で、一際離れたゴミの山を背にしたカロンの家に着いた魔王の娘のベレスは、カロンの指示の元光魔法を使い圧縮空間装置を起動させ、一時的に過去の魔王城へと転移してしまう。
更にそこでベレスは幼き日の自身と両親と再会する事になるのでした。
過去に戻ってきた影響から徐々に記憶を取り戻していくベレスは母親に誘われて、装いを新たにしながら魔王である父親の元を訪ねる。
これまでの事情を両親に話すと、父親は成長したベレスがここへやって来る事を既に知っていたと明かし始めました。
力を得たいという娘の願いを叶えるために、予言に従って父親は力の半分を使い、ベレスを暗黒へと放り込みました。
ベレスは必ずその空間を突破する、そう信じて、両親は未来の娘の姿を見守るのでした。
「全く、どれほどの時間をかけたのか⋯⋯」
カロンは帰ってきたベレスの姿を見ては何度も小言を吐いていました。
それもその筈、起きてすぐベレスは自身の力を確かめる為に力を使い、カロンの家の半分を消し飛ばしてしまったのです。
それに加えてベレスの姿にも変化がありました。
背丈は変わらずですが髪は伸び、角は黒く変色しながらも捻れて、丸く収まっておりました。
顔つきも多少凛々しくなっており、まるで数年ぶりに再会したような感覚をカロンは感じていました。
「話も把握出来てきましたよ。魔王も、娘の前では甘いのですねぇ、力の半分を使うなどと⋯⋯。それに、その未来までも知っていたとは」
「考察のしがいがある?」
「ええ、これでは勇者もさぞ悲しんだ事でしょうね」
「悲しくて、転生を選んだ?」
冗談を交えたつもりのベレスですが、案外そうなのかもとカロンは考えるのでした。
✳︎
「これからどうするのですか?」
カロンが先に切り出しました。
「勿論、魔王城まで向かう。アルターから船に乗って、そこからは⋯⋯歩きになるのか」
ベレスが頭で考えながら物を言っていると、カロンも楽しげにそれに参加するのでした。
「この港近辺には足を貸してくれる所も無いですから必然的にそうなってしまいますねぇ。考えてみれば、ワタシも良く己の足一つでアルタナ坑道まで来れた物です」
「うーん⋯⋯それ以外には無いか? 鳥は? 空を飛べたりは?」
「飛空艇を設計しようと思った事はあります。が、国から止められてしまって、更にワタシもそれに関してはやる気が地に伏しているのです」
「どうして?」
「⋯⋯色々あるのですよ、ワタシにも」
カロンは空を見つめながら、答えるのでした。
「魔法を仕事道具に使う様になったってアンジェが言ってたから、空飛ぶ乗り物くらいあると思ってた」
「ああ、飛ぶ用の箒くらいならワタシが発案した物が⋯⋯ただし箒に込められた魔力は専用の置き場でないと充填されませんし、すぐに清掃用具に戻ってしまいますよ」
「良いのがあるじゃないか。カロン、早速箒を出してくれ」
「今は手元にありません」
「どうして?」
カロンは無言で箒のあった先に指を差しました。
ベレスがそこへ振り向くと、綺麗にぽっかり空いた穴から、背景となっているゴミの山を更に鮮明に映していました。
ベレスが「⋯⋯なるほど、捨てられたのか」
ぽんっ、と手を叩いて納得すると「いえ貴方が先程塵にしたのですよ」とすぐに帰ってきました。
ベレスは逃げるように穴から遠ざかり、再度作戦を練り続けました。
「⋯⋯箒は作れる?」
「ゴミの山から素材を取るのに何年かかる事やら⋯⋯そしてその間にゴミの山も撤去されるで以下省略、作れませんっ」
カロンはハッキリとそう言い切って腰に手を当てました。
「他にないのか?」
「飛行用の箒は魔法学校へ供給されるので、そこへ行けばあるでしょうねぇ。ただしその場合盗みを働く事になりますが」
「盗むのは⋯⋯良くないよな。うん⋯⋯」
思い悩むベレスを見て、カロンは思うのでした。
魔族であるのにも関わらず、自分の正義感を軸に物を考えるその様は、普通のレグメンティア人と何ら変わりがない、と。
(彼女を虐げた相手が賊だから、という理由だけでは無いでしょう。生まれが魔族というだけで、レグメンティア人と同じように育てられた事が、今の彼女を形作られているのでしょうね。しかし何故そのような教育を魔王は施したのか⋯⋯? 力の半分を賭ける程に、彼女には何かがあるのだろうか)
「⋯⋯セルビア、という町を覚えていますか? ベレスさん」
「セルビア?」
ベレスの言葉に、カロンは小さく頷いて話し始めました。
「小さい町ですが⋯⋯港から魔王城へ行くまでの間にあって、魔法学校も町にあります。⋯⋯生徒の一人に貸して貰う、という事ではどうでしょう」
「⋯⋯アンジェがいる町⋯⋯」
ベレスは思い出しました。
「アンジェさんは今は怪我も落ち着いて、問題なく学校へは通えているでしょうね。ベレスさんが途中で庇ったり、ワタシが横から全部薙ぎ倒したのが幸いしましたね」
「さり気なく自分を立てたな。でも良かったよ、アンジェ⋯⋯なあ、カロン」
「どうしました?」
「作りたい物があるんだ。船に乗ってる間に完成させたいから、作り方だけ教えて欲しい」
「構いませんよ。では、そろそろ出発しますか?」
「ああ、行こう。魔王城まで⋯⋯なるべく真っ直ぐ」
心の奥底で煮えたぎる感情を抑えながら、ベレスはカロンと共に旅立つのでした。
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