DAY 49
「そうだ⋯⋯ベレス」
私を見て何かに気付いたのか、ママは唐突に私に声をかけてきた。
「な、なに?」
「貴方の服、すっかり傷んでしまっていますね⋯⋯パパと会う前にお風呂とお着替えを済ませておきましょうか」
私が百年後からやって来たことは既に説明している。
そのことを聞いている時のママの表情は、どこか寂しげに見えていたが、私の言葉を端から全て、真剣に受け止めてくれた。
そして話の後、もうすぐ帰ってくるパパにも会っておこうとママと一緒に城の一番上まで歩いていた途中だ。
どこを見ても暗い、紫色の城の壁から一変して、浴室は使ってないみたいに真っ白だった。
魔族には不必要な物だから、ママと、昔の私しか使っていなかった覚えが微かにある。
私の身体を、温かい湯船が浸透していく。
心まで包まれるその感覚は、目覚めてからずっと誰かに使われて来た私の身体をゆっくりと沈めてくれた。
親子水入らずを経験し、ママが用意してくれた服を着る。
常に布で全身を隠していたから気にも止めていなかったが、よく見るとアミーが着せてくれた服はもう服と呼べるような状態に無かった。
身体が成長した影響もあって大きく破けていたり、そのまま地面に突っ伏して寝ていることも多くてボロボロだった。
「どう? 似合うのかな⋯⋯これ」
「大丈夫、似合っているわ。ママのお古で心配だったけど、ちゃんとサイズもピッタリで、とっても素敵よ」
純白のドレス、それがママの用意してくれた服。
こんなにキラキラしていて眩しい物を着たのは初めてで少し恥ずかしいけど、ずっと着ていたい。
そんな、夢のような衣装だった。
ドレスの裾を摘み、大きく広げながら立ち鏡を前にする。思えば自分の姿を見るのもこれが初めてだった。
青い肌の私が口角をあげて顔を赤く染め上げている。後ろではママも楽しげな笑顔を浮かべて、鏡の中の私を見つめていた。
鏡を見て気付いたのだが、折られていた角は少し伸びて、動物の耳のようになっていた。
この時はずっと口元が元に戻らずにいて、とにかく、楽しかった。
でもこれは束の間の幸せだ。
いつかは分からないが、ある程度の知識を得たタイミングで元のカロンの居る場所に、私は戻ってしまうはず。
私にとってこれはまだ、早すぎるんだ。
しかしだからこそここに居る。
だからこそ、元の場所に戻って──
魔王城を──絶対に取り戻してみせるんだ。
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