剣聖の物語 ~美の剣聖 スフィーティア~ エリーシア篇

@izun28

プロローグ


 アーシア歴1508年 愛誓月あいせいづき(5月)


 山間にある城砦都市。申時刻しんじどき(午後3時~5時)

 曇天の空。今にも嵐がやってきそうで強い風が吹いていた。

 都市まちの城壁の見張りの兵士二人の会話だ。

「嫌な空だ。気が滅入るぜ。早く交替にならんかね。酒場で一杯やりたいよ」

「おいおい、まだ交替まで一刻(2時間)以上もあるんだぞ」

「え、まだそんなにかよ!あ~あ」

 曇と雲の薄い裂け目から、何かがキラリと光った。

「う?何だ、あれは?」


 大きな黄色い竜が城壁に飛び込んで来た。


 ズドドドーーン!

 

 一瞬で城壁は崩され、瓦礫と化し、守りの城壁に大きな風穴が開いた。


 巨大な竜の出現に、都市まちの人々は家を飛び出し、逃げ出した。

「ドラゴンだ!ドラゴンが現れたぞ!」

「住民は城外へ避難しろ」

 砦の兵士が動員され、ドラゴンに立ち向かっていく。大きな岩を放つ機械や、大弓を射る機械でドラゴンを攻撃した。

 しかし、ドラゴンには、全然歯が立たない。黄色いドラゴンは、飛び立つと兵士に襲い掛かってきて、兵士等を踏みつぶし、それらの機械は破壊されていく。


 黄色いドラゴンが上空に舞い上がると、眼が輝き大空に向かって咆哮した。

 

 クケケケケーッ!

 

 すると、曇天の空が真っ暗となり、雷がゴロゴロと鳴りだし、大きな雷が、街の教会に落ちた。教会は崩れ、街には火災が発生した。他の場所にも次々と雷が落ち、街は炎に包まれる。

 住民は、炎の中を逃げ惑うが、多くは焼かれ、そこら中に死体が転がった。

  

 そして、上空から様子を伺っていた黄色いドラゴンは、大空へと消えていった。


 ドラゴンが消えるとすぐに、山岳方向から都市まちに続く道を通り国境を越えて異民族が突然襲撃してきた。

「ニンゲンドモヲコロセ!」

「ワレラノトチヲテニイレルノダ」

 小さな異民族は、大穴の空いた城壁を超え、都市まちに侵入した。

 ドラゴンの襲撃により殆どの兵士が殺されていたため、抵抗らしい抵抗も無く、国境の城塞都市は敢え無く陥落し、異民族の手に落ちた。



 ここは、アマルフィ王国王都サントリーニの王宮。

「ハア、ハア、ハア・・」

 回廊を駆ける政務官。

 審議の間では、国王臨席の元緊急の会議が招集されていた。

「国境付近でドラゴンの襲撃が相次いでおります。また、異民族がそれに呼応して我が国の領土に侵攻してきております。すでにドラゴンが襲撃した5か所のうち3か所が異民族により西方の国境が浸食されております。ドラゴンの襲撃とどう結びついているのか不明ですが、サスール、タトゥーでは、領内に異民族の侵攻を許し、深刻な事態となっております。両諸侯からは、テンプル騎士団の派遣の要請が届いております」

「恐れながら、騎士団派遣の要請には応じかねます。北方のルーマー帝国の守りが手薄となりましょう」

「西方では、既に領内に侵略を許しているのですぞ!そのような事を言っている場合じゃない」


 そこに、先ほどの回廊を急いでいた政務官が、ドアをノックもせずに開け、駆け込んできた。

「申し上げます。カラミーア国境都市ボンにドラゴンが現れました。これにより都市は壊滅し、ガラマーン族が侵攻してきたとのことです。すでに、ボンは陥落し、ガラマーン族が勢いに乗って周辺一帯を占領しました。カラミーア伯爵自ら出陣し、ガラマーン族に応戦しているとのことですが、勢いに乗ったガラマーンの攻撃に苦戦しているとのことで、援軍要請が出ております」

 そこまで一気に言うと、政務官はへたり込んだ。


 審議の間はさらにざわつき始めた。

「あそこは、峻厳な山が天然の要害となっているため、十分な兵が配備されていないのではないか?王領からも近い。すぐにも騎士団を派遣すべきでしょう」

「問題は、ドラゴンだ。奴らが出てきては、騎士団とてどうにもなるまい」

「もう、ここはテンプル騎士団を派遣すべきだ」

「お待ちください」

 王の隣でやり取りを聞いていた気品漂う青い髪の若い女性が口を開いた。

 彼女の背後には、屈強な黒髪の女騎士が控えていた。皆が一斉に声の主の方を振り向き、次の言葉を待った。

「ここは、専門家に任せるべきでしょう。ドラゴン退治の専門家に。彼らの力を借りるのです」

剣聖けんせいですか?しかし殿下、彼らとて人間。これほどのドラゴンを相手にできるのでしょうか?」

「やってみても、我らには損はない。彼らは、特に見返りを求めるわけではない。彼らの要求は、ドラゴンの亡骸を回収するだけだからな」

「陛下、御裁可を!」

 王女と呼ばれた女性が、隣に座る国王の方を向き、頭を下げ判断を仰ぐ。

「エリザベスよ。お前に任せる」

 エリザベス王女は、立ち上がり、居並ぶ配下に向かい凛とした声を響かせた。

「英断はくだされました!蛮族などにカラミーアを突破させてはなりません。剣聖団に剣聖の派遣を要請し、ドラゴンへの備えとします。また、テンプル騎士団を派遣し、ガラマーン族をカラミーアから追い払うのです」

「ハッ!」


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