えくす②.伊万里先輩との甘い休日
部屋に入るなり、僕は
「はむ……、ん……、ちゅっ……」
「……あの、先輩、いきなり何してるんですか?」
「っぷぁ……、なにって、
「主語を抜かないで下さい! 耳をでしょ! 耳を!」
「まあ、そうとも言いますね」
伊万里先輩はそう言いながらも耳から口を離さない。
甘い声がダイレクトに頭に響いてくるので、それだけで頭がクラクラとしてくる。
「あの、伊万里先輩、いきなりこういうのは、なしにしませんか?」
「だってぇ、私、今日という日を凄く楽しみにしてたんですよ?」
「そりゃあ、僕だって楽しみにはしていましたけど……」
だからと言って、いきなりこういう展開を望んでいたワケではない。
時間はたっぷりとあるのだし、もっとこう、健全なお家デートにしたいのであった。
「ワン!」
「あっ! ちょっと、ダメ……、ジョネス!」
(ナイスだ! ジョネス!)
背後から僕を襲う伊万里先輩を見てじゃれ合っていると勘違いしたのか、ジョネスが間に割り込むように入ってくる。
ジョネスはアフガン・ハウンドというかなり大きな犬種なので、それだけで僕と伊万里先輩の距離は少し離れることになった。
「ハハ、よしよしジョネス! 良い子だね~」
僕はその隙に伊万里先輩の腕を振りほどき、体勢を変えてジョネスを抱きしめる。
「あ、ずるいです藤馬君! 抱きしめるなら私を抱きしめてください!」
「いつもしてるじゃないですか……。それに、今日はちゃんとジョネスの面倒も見てあげないと駄目ですよ」
そう、今日僕らがこうして
麻沙美先輩は、今日から三日ほど旅行で家を空けることになっている。
その間、ジョネスの世話をすることを条件に、麻沙美先輩の家を自由に使えることになったのだ。
……つまり、それをいいことに僕らはプチ合宿というか、プチ旅行という感じでお泊りに来たのであった。
「むぅ……、まぁ、いいでしょう。夜は長いですからね」
「まだ朝ですけどね」
時間はまだ午前9時過ぎである。
夜までは10時間近くあるのだから、流石にフライングし過ぎだ。
「伊万里先輩、僕も男です。別にそういうことがしたくないワケではないんですよ。ただ、節度は保ちましょうという話です」
そうでないと、本当に際限がなくなってしまう。
思春期の持て余し気味の性欲を、なんのリミットも付けずに解放してしまえば、恐らく非常に大変なことになる。
それはもう、獣のように……
あの麻沙美先輩と二人きりの時ですら、ギリギリのところで理性を保ったのだ。
伊万里先輩相手に全てを解放してしまえば、……下手をすれば妊娠だとかそういう騒ぎになりかねない。
「……でも、じゃあ、ナニをして遊ぶんですか?」
「それは……、え~っと……」
しまった。何も考えていなかった。
二人でイチャつくことばかり考えていたから、いざそれ以外に何かしようと思ったら何も思い浮かばない。
麻沙美先輩からは家のモノは自由に使っていいと言われているけど……
チラリとリビングを見ると、そこには色々なパーティグッズの入ったケースが置かれていた。
中身は、
アレを使って遊んだりしたら、完全に本末転倒である。
「そ、それじゃあ、しりとりでもしませんか? それならジョネスと遊びながらでもできますし」
「……別に構いませんが」
伊万里先輩は少し落胆した表情を浮かべたが、気を遣ってか付き合ってくれるようだ。
「じゃあ、僕から始めますね。しりとりの<り>からで、りんご」
「誤解」
「い……、イカ」
「間接キス」
「……スイス」
「スマ〇」
「アウトーーーーーーー!」
こ、この人、いきなりぶっこんで来たぞ!?
「い、伊万里先輩!? どうして淫語しりとりにしようとするんですか!?」
「別にそんなつもりはありませんよ? ただ思い浮かんだ単語を言っただけです。さあ、藤馬君の番ですよ」
このまま続けろと!?
それに思い浮かんだ単語を言っただけって、年中そんなことばかり考えているとでも!?
……いや、伊万里先輩なら考えていてもおかしくはないか。
ここで納得してしまう辺り、僕も二人の影響を受けまくっている気がする。
「クッ……、じゃあ、魂で!」
「淫行」
「う、ウド!」
「ドスケベ」
「それはダメでしょう!」
そんな単語は認められない!
僕はドチクショウガと言いたいぞ!
「じゃあ、土手で」
土手……、何やら暗喩的なニュアンスがありそうだが、気にしてはいけない。
「手羽先」
「キス」
そう言うと同時に、伊万里先輩から本当にキスをされてしまう。
「っ……、ぷはぁ! い、伊万里先輩!? 駄目だって言ったじゃないですか!」
「だって、ただのしりとりなんて、つまりませんよ。そこで提案です。これから私は、単語を言う際にその行動をします」
「っ!? そ、そんなのダメですよ!」
「いいえ、譲りません。もし私を止めたければ、行動以外の単語になるよう誘導してみてください」
「誘導!? そんな難易度の高いことを要求されても……」
「さあ、<す>ですよ藤馬君」
あ、駄目だこれ。こうなってしまうと伊万里先輩は本当に譲らない。
となると、やはり言われた通りなんとか誘導するしかないのだが……
す、す……、スイスはさっきの単語で返されたらアウトだし、スカーフは<ふ>だからアレがあるし、スミレはレイ〇とか返される可能性が……、意外とないぞ!?
動揺しているせいか、まともに単語が浮かんでこない。
これはマズいぞ……
「す、スイカ!」
「か、ですか。じゃあ間接キスで」
「お、同じ単語は無しですよ!」
「ありです」
そう言って伊万里先輩は、自分の人差し指にキスをしてから、僕の唇にその指を当ててくる。
このくらいなら良いけど、どうしよう、また<す>だぞ!?
しかも同じ単語OKルールだと、やっぱり<す>で返すのはマズいし……
「す、す、あ! ストライク!」
どうだ! <く>なら無いだろう!?
「……藤馬君、
「え? すいません、知らないです」
「口取って料理用語なんですけど、もう一つ意味があって、それは……」
「え……?」
……どうやら僕は、気づかずに返答を誤ったらしい。
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