第53話 そして三人はついに……



「まず、改めてになりますけど、僕は伊万里いまり先輩のことが好きです。一昨日、僕達はついに結ばれましたが、この思いは変わることなく……、いえ、むしろ強くなったと思っています」



 この春、僕は伊万里先輩に告白され、付き合い始めることになった。

 初めは好きという感情はほとんどなかったけど、可愛い彼女に僕はどんどん惹かれていき、あっという間に好きになってしまった。

 その感情は日を追うごとに増していき、一昨日の行為でさらに一気に跳ね上がっている。



「だから、今後どんなことがあろうとも、僕の気持ちは変わらないと思います」



 僕がそう言うと、本当に一瞬だけど、麻沙美まさみ先輩の頬がピクリと動いた。

 さっき言っていたように、僕にフラれるかもという思いがあるから、そんな反応をしたのかもしれない。

 今の発言で麻沙美先輩にそう思わせてしまったと思うと、罪悪感がこみ上げてくる。

 しかし、僕はこれからもっと罪深いことを言おうとしているのだ。この程度で胸を痛めては何も言えなくなってしまう。



「……ですが、そう思いながらも、僕は先日、麻沙美先輩と〇ックスしてしまいました。これは、例え伊万里先輩の同意があったとしても、やっぱり良くなかったと思っています」



「藤馬君……」



 麻沙美先輩の声が僅かに震え始めている。これは、凄まじい罪悪感だな……



「……ただ、それに対して後悔はありません。麻沙美先輩にはちゃんと言いましたが、僕が麻沙美先輩を受け入れたのは、同情だとか、単にしたかったからとかではなく、ちゃんと好きという気持ちがあったからなんです。その気持ちに偽りはありません」



「……つまり藤馬君は、私達二人、両方ともを好きだと?」



「……はい。最低かもしれませんが、これが今の僕の、正直な気持ちです」



 あれこれと考えたが、結局僕の気持ちが変わることはなかった。

 倫理的にどうとか、一般的にどうとか、そういう考えはもちろんあるけど、少なくとも今すぐにこの気持ちをどうこうできる要素にはなり得なかった。

 はいそうですかと、簡単に人を嫌ったり好きになったりなんてできたら、誰だって苦労はしないだろう。



「最低、か……。藤馬君は、なんで最低だなんて思ったんだい?」



「え、それはだって、そうでしょう? もし僕が伊万里先輩や麻沙美先輩から同じこと言われたら、絶対に凄くショック受けますし……」



 凄く身勝手な話だが、同じことを僕が言われたら、正直立ち直れない自信がある。

 二人が、僕以外の男となんて思うと……、またしても胃がキリキリしてきた。



「でも、私は藤馬君と伊万里、両方とも好きだぞ?」



「え?」



「私も、藤馬君のことは愛していますし、麻沙美先輩のことも体を許すくらいには好いています」



「そ、そうです、か……?」



 あれ? なんだろう。僕、凄く悩んでいたハズなのに、二人にこんな返され方すると、どう反応していいかわからなくなってくる。



「そもそも、私は今でも何人かと肉体関係は続けているよ? 無論、少女限定だがね」



 そう言われてみれば、そうであった。

 麻沙美先輩はもともとレズアビアンなお方だし、今でもそういった関係は続けていると言っていた。

 それに対し、僕は別に嫌悪感を覚えたことはなかった。



「まあ隠してはいないから知ってたとは思うけど、こう言われて藤馬君はショックだったかい?」



「いえ……、まったく……」



 自分でも信じられないくらいにショックを受けていない。

 対象が女性だからなのだろうか? そういえば、さっき麻沙美先輩と伊万里先輩が肉体関係にあったと言われた時も、衝撃は受けたが嫌悪感はまるでなかったな……



「良かった良かった。ならばもう、何も問題は無いということじゃないか。いや~、これは完全にフラれる流れだと思ってたから、冷や冷やしたよ……」



 麻沙美先輩は心底ホッとしたような表情を浮かべ、僕にしなだれかかってくる。

 柔らかな胸が背中に押し当てられ、顔がスリスリと擦り付けられた。



「ちょ、ちょっと麻沙美先輩! なんでそんなに脱力してるんですか!」



「だってさ……。私本当に捨てられるんじゃないかって……。今までそんな経験無かったから、本当ドキドキだったんだよ……」



「いや、でも、麻沙美先輩は本当にいいんですか!? 僕、本当に伊万里先輩のこと大好きなんですよ!?」



「藤馬君……」



 僕の言葉に伊万里先輩がポッとしているが、そういったつもりで言ったワケではない。

 肉体関係以前の問題として、僕は伊万里先輩のことが好きであり、麻沙美先輩のことも好きである。

 そんな状態で、二人とも本当にいいのだろうか?



「さっきも言っただろ? 私は藤馬君のことが好きだし、伊万里のことも好きだ。愛情という意味では藤馬君に軍配が上がるが、肉体関係自体は二人と持ちたいと思っている」



「っ!?」



 今の言葉は、ほとんど僕にも当てはまる言葉であった。

 僕は伊万里先輩のことも麻沙美先輩のことも好きだけど、愛情という意味では伊万里先輩が一歩リードしてる感は否めない。しかし、二人と肉体関係を持つことに関しては、その、全然OKなのである。



「私も二人のことは好きですが、愛情は藤馬君へのものが勝っています。それでも、今後麻沙美先輩が望めば、肉体関係を持っても良いと思ってます」



「マ、マジですか……」



 いや、もうそう言うほかなかった。

 そんな爛れた関係、ありなのだろうか……



「……決まりだね」



「き、決まりって、何がですか?」



「もちろん、これからすることがだよ」



「それって、まさか……」



「ああ、3Pだ!」



 や、やっぱり……




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