第51話 逆の立場で考えると……
ひとしきり噛みつかれた後、僕はようやく永田から解放された。
噛まれた箇所を触ってみると、やはり歯型が残っている。本当に禿げないか心配だ……
「ぷはぁ! 優季よ! お前の気持ちはな、俺にだって痛い程わかる! ハーレム願望なんてものは、ほとんどの男の願望と呼べるものだからだ!」
永田は食べかけのラーメンを一気にかきこみ、僕に指を突きつける。
そんなしょうもないことを堂々と宣言できる永田は、ある意味ツワモノなのかもしれない。
「いや、僕は別にハーレム願望があるってワケじゃなくて……」
別に僕は、女の子を複数囲う、いわゆるハーレム状態を望んでいるワケではない。
ただ、純粋に二人の女性を愛してしまっただけなのである。今後増える予定は一切ないのだ。
「結果的には同じことだ!」
「う……」
そう言われてしまうと、返す言葉もない。
ただ、僕は決してよこしまな気持ちを持っているワケではないので、なんとか言い返せないものかと考えあぐねる。
「優季、お前は純粋な気持ちで二人を思っているのかもしれないが、こう考えれば一発で気づくと思うぞ」
永田は自分の中でも何か納得したように、うんうんと首を盾に振っている。
「な、なんだよ、もったいぶらずに言ってくれよ……」
「簡単なことだ。逆の立場で考えてみるといい」
「逆の、立場……?」
「そうだ。例えば、初瀬先輩が、お前の他にもう一人誰かを好きになったとしよう。そして、今のお前と同じように、二人とも愛しているから二人と付き合いたいと言ってきたら、どう思う?」
「っ!?」
それは……、なんだろう、物凄く嫌だ……
自分勝手かもしれないけど、それは到底許容できる気がしない。
あの
「うっ……」
急激な吐き気がこみ上げてき、思わず口を押える。
「お、おい優季! 大丈夫か!」
「う、うん……。大丈夫。ちょっと想像して、胃にきただけだから……」
「そ、そうか……」
水を一口飲み、なんとか落ち着きを取り戻す。
「……まさか、ここまで嫌悪感を覚えるとは思わなかったよ」
今まで想像もしなかっただけに、さっき脳裏に浮かんだ映像は相当な衝撃を僕に与えた。
もし、実際にそんな光景を見たりしたら、僕は自殺するかもしれない。
「お、おう。とりあえず俺の言いたいことは理解してくれたようだな」
「うん……」
僕は、こんな思いを二人にさせていたのだろうか。
二人が同意したからといって甘えて……、僕って最低だ。
「た、ただ少し、本来とは状況が異なっているのは気になる所だ」
「……?」
なんだろう? ひょっとして、気落ちしている僕を見て慰めてでもくれようとしているのだろうか。
「さっき優季は、二人の同意があったって言っただろ? そんな羨まけしからんことがあるとは
「どう変わるんだ? 結局、二人に甘えていることに変わりはないと思うんだけど……」
「例えばだ、優季に心から親友と呼べるヤツがいたとする。そいつにだったら、初瀬先輩を譲ってもいいと思えるくらいのな。……それだったら、三人の関係もギリギリ許せたりしないか?」
それは……、なんとも微妙なラインである。
確かに、見知らぬ男とそういう関係になるよりかは、いくらかハードルは下がる気はする。
しかし、だからといって完全に許せるとは絶対に言えない。
百羽譲って、という感覚が一番近いだろう。
もしかして、伊万里先輩もそういう気持ちだったのだろうか?
「俺は当事者じゃないからなんとも言えないが、その辺はしっかり確認しておいた方がいいぞ。そうじゃないと、今後どうするかだってわからなくなるしな」
確かに……。僕はまだ、伊万里先輩から同意を得ているということを、麻沙美先輩の口からしか聞いていない。
本人が何も言わないから、同意を得ているのは事実なのだろうけど、その理由も、考え方も、伊万里先輩からちゃんと聞いたワケではなかった。
「……そうだね。伊万里先輩が、どういう意図で、僕と麻沙美先輩の関係を認めているのか、はっきり聞いておいた方が良いかもしれないな」
この前少し話した内容より、もう少し踏み込んだ話だ。
伊万里先輩はどうして、僕と麻沙美先輩が〇ックスするのを許したのか、それをはっきりと聞いた方が良いだろう。
「そうしとけ。今の話じゃ月岡先輩だって、初瀬先輩のことどう思ってるかわからないしな」
「……そう、なのかな」
麻沙美先輩は、僕と〇フレになろうとしているだけで、もしかしたら愛情はあまり無いという可能性もある。
いや、先日の感じだと、そうとは決して思えないのだけど、女の人の気持ちは僕程度には理解できないからな……
「ん……? ちょっと待て。そういえば月岡先輩って優季以外にも色んな子に手を出してるっぽいけど、お前一人に絞ろうとしているってことなのか?」
「いや、そうじゃなくて、僕とはその、体だけの関係になりたいと……」
言ってから、僕はしまったと後悔する。
案の定、再び永田は僕の背後に回り込んでいた。
「優季、お前というヤツは、本当に……、本当に……」
「ま、待ってくれ永田! これ以上は僕の頭皮がヤバイ!」
「うるさい! 問答無用だ! このスケコマシ野郎!」
そうして、本日三個目の歯型が僕の頭皮に刻み込まれたのであった……
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