第46話 行為を終えて……



 キャン! キャン!



 と、遠くで犬が鳴いているのが聞こえる。



(朝チュンではなく、夜キャンってヤツか……)



 などと下らないことを考えながら、僕は顔を横に向ける。

 そこには安らかで、それでいて満足気な笑顔を浮かべた伊万里いまり先輩の姿があった。



(ついに、やってしまった……)



 常日頃から行われていた情熱的なアプローチから考えて、そう遠くない日にこうなるであろうことは予測できていた。

 いや、今日家に招かれ、そして家族がいないと言われた時点で、ほぼ確信に至っていたと言っても良い。

 だから、僕だって覚悟はできていたのだ。

 しかし――



(本当に、凄すぎた……)



 恐らくだが、一日に果てた回数としては、人生で一番だったと言っていいだろう。

 それくらい、伊万里先輩の攻めは激しかった。

 情けない話だが、僕が攻めらしい攻めにまわれたのはせいぜいが2~3回程度で、あとは終始攻められっぱなしだったのである。

 実際の行為自体は2回で済んだのだが、僕が果てた回数はその倍以上であり、伊万里先輩も同程度は果てていたと思う。

 その度に後始末はしたのだけど、なんとなく肌が引きつるような感じがしてならない。



(……あんなに乱れていたのに、今は天使のように可愛いなぁ)



 伊万里先輩の寝顔は、控えめに言って天使や女神の美しさに等しいと思う。

 いや、天使も女神も見たことはないので、想像の上の話ではあるのだけど……



(ゴクリ……)



 その天使が、先程までは淫らな嬌声を上げて僕にしがみ付いていたのである。

 逃げようとする僕の下半身を、足を絡めて拘束し、同様に上半身も強く抱きしめられて……



(あれが噂の『〇いしゅきホールド』というヤツなんだろうな……)



 その手の怪しい知識については、全て悪友の永田が情報源である。

 ヤツは、何故か僕にこの手の知識を披露したがるのだ。


 ちなみに、『〇いしゅきホールド』とは四十八手における『茶臼がらみ』と呼ばれる体位のことらしく、古来より存在する由緒ある体位なのだそうだ。つまり、昔の人はあんな体位をその頃に生み出していたのである。本当、なんてエロいのだろう……


 僕はちゃんとゴムをしていたので平気だったが、もし付けていない状態でアレをされたら、逃げられる自信はなかった。

 なにせ、何もされてなくとも離れたくない情動があるのだ。腰まで固定されたら普通の精神じゃ絶対逃げられない……



(それにしても、コレ、どうするんだろう……)



 布団を捲って下の方を見ると、そこには赤いシミが点々と残されている。

 伊万里先輩曰く、この程度なら鼻血だと言えば誤魔化せるとのことだったが、なんとなく小鞠さんなら勘付きそうな気がしてならない。しかも、僕を招いたタイミングでこんなシミができたのだから、なおさらである。



(でも、伊万里先輩、初めてなのに、その、凄い乱れてたな……)



 出血量も少なかったし、もしかしたらそんなに痛くなかったのかもしれない。

 処女膜の形成には個人差があるらしいし(これも永田から得た知識である)、その辺が関係しているだろうか……



「う、ん……。藤馬、君……」



 そんなしょうもないことを考えていると、伊万里先輩が目を覚ます。



「あれ、私、寝ちゃってたんですか……」



 寝ちゃったというか、アレはもう気絶に近かった気がする。

 伊万里先輩は最後にひと際大きな声を上げて、バタリと倒れ込んでしまったのだ。



「……もしかして、恥ずかしいところを見せてしまいましたか?」



 そんなことを言ったら、ある意味全てが恥ずかしいところであった気がする。

 正直、あの声量だとご近所に聞こえていやしないか心配だ。



「いえ、その、伊万里先輩はどんな時でも可愛いです」



「そ、そうですか。ありがとうございます……」



 この状況でこんなセリフを吐けるとは、僕も成長したものである。

 いや、これも賢者タイムの効果のお陰かもしれない。



「それより先輩、暗くなってきましたし、そろそろ色々片付けないと、マズいのでは……」



「っ!? 今、何時ですか!?」



「17時前ですが」



 僕が時間を言うと、伊万里先輩は少しホッとした様子を見せる。

 どうやら、まだ小鞠さん達が帰ってくる時間までは余裕があるようだ。



「そ、そうですか。でも安心はできませんね。色々と片付けてしまいましょう」



 伊万里先輩は裸のまま、脱ぎ散らかした衣服を拾い集める。

 その姿がとても扇情的で、僕の下半身は再びムクムクと反応してしまった。

 そんな僕の反応に気づいたのかはわからないが、伊万里先輩が振り返って笑顔を浮かべる。



「でも、まずはお風呂にしましょうか。もちろん、二人で♪」




 ――結局、僕はお風呂でも再び、伊万里先輩に搾り取られてしまうのであった……






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