第20話 図書準備室で朗読会
正直、その巻だけでは物足りず、前後の巻が読みたいと思う程度にはハマってしまっている。
「ヤバイです。これ、全巻読みたいです……」
「だろう? 気に入ってくれたようだし、私も勧めた甲斐があったよ」
連載されていたのは随分昔のはずなのに、今読んでも全然楽しめる内容だと思う。
やはり良いものは、いつ読んでも良いものということだろうか。
「この漫画は古いだけあって、文庫サイズ版や愛蔵版など色々なサイズで再販されているんだよ。だから、もし可能であれば
……確かに、それも良いかもしれない。
借りたり漫画喫茶などで読むのでもいいのだが、こういうモノは自分で買ってみて読み込む方がより入り込みやすくなる。
金銭面に多少不安はあるが、購入を検討してみてもいいだろう。
「そうですね。安く揃えられそうであれば購入してみようと思います」
「ありがとう! 私も同士が増えて嬉しいよ」
麻沙美先輩は余程感激したのか、僕の手を握って上下に振ってくる。
多分他意はないと思うのだけど、柔らかな手のひらの感触にちょっとドキリとさせられた。
「そうだ、そんな藤馬君には是非これも読んで欲しいんだけど、どうかな?」
そう言って麻沙美先輩は、今度は別の漫画を勧めてくる。
僕としてはさっきの野球漫画の続きが読みたかったが、いずれ購入するのだからと思い気にしないことにする。
「いいですよ。どんな漫画ですか?」
「これも結構昔の漫画なんだけど、内容はちょっとしたSFモノかな。舞台は現代なんだけど、ヒロインは未来から来た女の子で、歴史を変えるために主人公を狙っているんだよ」
「へぇ、面白そうですね」
それだけの情報では完全に内容を把握することはできないが、表紙を見る限り絵は上手そうだ。
「だろう? これも私のオススメ回を読んで聞かせてあげよう」
「え、麻沙美先輩が読むんですか?」
「ああ。駄目かな?」
「いえ、僕は別に問題ないですけど……」
漫画の朗読って台詞も多いし、結構恥ずかしかったりしないのかな?
麻沙美先輩の声は綺麗なので、僕としては全然オーケーなのだけど。
「じゃあ、何も問題ないね。……それじゃあ、始めるよ」
そう言って麻沙美先輩が開いたページは、丁度主人公が落ちた生徒手帳を拾うシーンであった。
「『どうしよう……? これ、きっと困るよな……』」
主人公が拾った生徒手帳は、通学証明書と一緒になっているタイプであり、落とした生徒の住所なども記載されているようだ。
普通に考えれば次の日に渡すのでも問題は無いと思うが、落としたことに気づいて探し回ったりするかもと考えると、気の毒にも思える。
僕と同じことを考えたのか、主人公は住所を頼りに生徒手帳を届けに行くことにしたようであった。
「『ここが、先輩の家か……、えーっと、呼び鈴は……っとわ!?』」
呼び鈴を押そうとした瞬間、中で聞こえた大声に慌てて飛び退く主人公。
そしてドアに近付く音が聞こえたため、慌てて身を隠す。
ドアから出て来たのは、主人公にとっては見知らぬ男だったようだ。
(っていうか麻沙美先輩、読むのメチャクチャ上手い……。声優とかになれるんじゃないだろうか……?)
去って行く男の後から、生徒手帳の落とし主である少女が現れる。
そして、中途半端に隠れていた主人公と目が合った。
「『あら、
「っ!?」
漫画の中の主人公とほぼ同時に、僕もビクリと反応してしまった。
今まで気づかなかったが、どうやら主人公の名前はトウマというらしい。
「『ねぇ、上がっていって。いいから……』」
漫画の中では、少し乱れた感じのラフな格好をした少女に招かれ、主人公が部屋に入る所であった。
どう考えても何かの情事があったとしか思えないが、主人公は目を泳がせるだけで危機感を感じている様子が無い。
(駄目だろ! 迂闊に入っちゃ! この流れってアレだよ!? 傷心の少女が、一時の慰めを求めて、その……、アレだよ!?)
「『届けてくれてありがとう。でも、なんでワザワザ届けてくれたの?』『そ、それは、先輩が困ると思って……』『ふふ……、優しいのね。……ねぇ、優しい貴方なら、私のお願い、聞いてくれるかしら』」
ホラやっぱりこういう展開になった!
この主人公は危機感が全く足りてないよね!
「『私、さっき彼氏と別れたの。酷い男でね。私のこと、ブスだとか言って……』『ブスだなんてとんでもない! 先輩は凄くきれいです!』『……ありがとう。やっぱり君に、お願いしちゃおうかな』」
僕はドキドキしながら次の展開を待つ。
しかし、次の瞬間――
「『冬真君、私を、抱いて……』」
耳元で聞こえたその声に、僕はビクリと反応する。
慌てて立とうとしたが、既に先輩に取り押さえられる状態になっているため、身動きが取れない。
危機感が足りていないのは僕もだった!?
「ちょっ! 麻沙美先輩!?」
「『冬真君になら、私の初めてを――』」
バン!!!!!!
麻沙美先輩の言葉は、ドアが開かれた盛大な音でかき消される。
「麻・沙・美・セ・ン・パ・イィィィィィッ!?」
……今回もギリギリの所で、僕は助かった(?)ようであった。
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