125話 傲慢

「那奈さんのことが………」


 自分の那奈さんに抱いている感情を伝えようとした。


 その刹那。


 脳裏にこの約半年間の間に起こった出来事が浮かんだ。

 

 西園寺さんと出会い、

 香乃と再会し、

 那奈さんと仲良くなり、

 星川とデートをし、

 朱音先輩と泊まり、


 そして……みんなに告白されたことを……。


 もし、俺がここで那奈さんに想いを伝えたら、他の人はどうなる……?

 

 他の人は何を想う……?


 こんな俺に真剣に惚れてくれたみんな……そんな気持ちを俺は無碍にするのか。


 彼女達の好意を……。


 そんなことをしたら、他の4人は……。


 ここに来て俺は自らの真意を知る。


 そうか。俺は決断を下すことから逃げていたわけでも、みんなの好意から逃げていたわけでもない……俺は……。


 この今の関係が崩れるのが怖かったのか。


 みんなと楽しく居られるこの関係が、"恋愛"という感情が入ることで崩れていくのが、なによりも嫌だったのか。


 関係が進むのが怖かったんだ。


 ハーレム系主人公が、ヒロイン全員に優しくしている気持ちがここでようやく理解できた気がする。


「神原……くん?」


「ごめんなさい……やっぱり……まだ……」


 最後の最後で言葉を渋る。

 那奈さんに呆れられると思い、目を背けると那奈さんは……。


「そっか……」


 と小さく言い、そして


「ごめんね、なんか酔っている間に私君に何かしたみたいだね! すぐに答えはいらないから、気にしないで!」


 今日一番の笑顔を俺に向けてくれた。


「那奈さん……ごめんなさい」


「いいよ……気にしないで。あ、もう遅いから本当に帰るね」


 そう言い、那奈さんは立ち上がり、俺の部屋を出ようとする。


「今日は本当に楽しかった。誘ってくれてありがとう……」


「はい……」


 玄関まで行き、俺は那奈さんを見送る。


「今度はみんなで行こうね……バウワン」


「そうですね……」


「それじゃあ、おやすみなさい」


 そう言い、俺に背を向け、ドアノブに手を置く。

 その背中を見送っていると那奈さんが、ジッと固まり、


「私はずっと待っているから……」


 言葉をこぼした。


「え?」


「神原くんの答え……どんな答えでも、私……待ってるから……」


 そう言い残し、自分の部屋に戻っていった。


「待っている……か」


 どんな答えでも待ってる。

 それは同時に答えを出して欲しいと言っているように思えた。


 この関係が続いて欲しいとみんなが思っている。

 だけど、彼女達はそれと同じかそれ以上に関係が進むことを望んでいる……。


 どんな結果になろうとも。


 俺だけは前に進めないんだ。

 きっと俺だけ……。


  この先俺は一体どうすればいいのだろう……。

 

 何をすればみんなが満足する結果を得られる……。


 その全てがわからなかった。


 だから………。


 1人残ったオタク部屋で俺はベッドに寝転がって、スマホを耳に当てた。


「教えてくれ……俺はあと何回この罪悪感を味わえばいい……俺はあと何回、彼女達の想いを背ければいいんだ……彼女達はこんな俺に何も言ってはくれない……教えてくれ……"京也"!!!」


『いや、知るかよ。てか、こんな夜中に電話してくんな!』


 ブチ。


 切られてしまった……。

 

 あんな軽薄な男に相談した俺が悪かった。

 ちくしょう……。


 やはり答えは自分で見つけるしかない……。


 どうすればいいのか……。


 俺は自分の気持ちに一つの区切りをした。

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