123話 諦められない恋
「それじゃあ……お先失礼します」
「あ、待って姫咲さん」
退社しようとした時、職場の後輩2人に呼び止められ、私は足を止めた。
嫌な予感がする……。
「これから時間あります? よかったら合コン行きません? 1人キャンセルでちゃって」
やっぱり……。
「あ、いや……私……」
「姫咲さんって彼氏いないんでしょ? だったら良いじゃないですか」
「いや、その……」
「もしかしているんですか?」
「え……?」
「あー!」
後輩の1人が何かを思い出したかのように声を上げる。
「そう言えば、結構前、姫咲さんが男の人といるの見ました。ここの近くの公園のベンチで男の人と話してましたよね」
「え、そうなんですか?」
神原くんと初めて会って話したところだ。見られてたの……?
「あ、あれは……その……」
「あ、私もそう言えば、最近駅で姫咲さんが男の人といるところを見ました。確か姫咲さんが有給取得してた日だったかな。大きい荷物持って歩いていたから旅行帰りかなと思って見てました。あれって彼氏さんですか?」
熱海の帰りだ。
どうしよう……なんて答えよう……
「え、えーと……」
彼氏という嘘、もしくは気になる人という本当。どちらも口にするほど私は勇気がなかった。
だから……。
「し、親戚、たまに会ったりしてるの」
情けない嘘をついた。
「そうなんですね!」
「私てっきり彼氏かと思いました。でも今思えば納得です。彼氏にしてはよそよそしい感じしてましたし」
「え……?」
後輩の言葉を聞き私は突然気分が悪くなった。
「そうなの?」
「うん。妙に距離置いてたし、それにあまり姫咲さんの方見てなかったわ。彼氏だったとしたらすぐ別れるタイプね」
「あんたそういうのは鋭いわよね……」
「まーね。あれ、どうかしました姫咲さん?」
「え?」
「なんだか具合悪そうですよ」
「ご、ごめん……ちょっと体調が良くなくて……せっかく誘ってくれたけど、ごめんなさい」
そう言い私は逃げるように去って、そのまま駆け足で部屋へと帰る。
帰って直後、シャワーにも浴びず私はベッドに倒れ込んだ。
そうか……そうか。
他人から見ても神原くんは私のことを……
"異性として見てない"
そりゃあそうだよね。周りにあんな魅力的な女性がいるのにこんな喪女、相手にしないよね……。
うう……。
今までの私ならここで諦めをつかせていた。
こんな私には無理。無理な恋なんだって。
だけど"彼"だけはどうしても簡単には諦めきれなかった。
熱海でのあの夜。
勇気を振り絞り告白した時から私の頭の中はずっと彼で埋め尽くされていた。
こんな言い方するのは"痛い"と思われるけど、運命を感じていた。
私と彼を結びつけたユリユリ……。
あれは弟が生前好きだった漫画だった。
弟に勧められて私もハマったのだ。
そう思うとこの縁はもしかしたら死んだ弟が結びつけたものなのかもしれない。
彼から弟の面影を感じるのもただの偶然とは思えない……。
きっと彼は私にとって運命の相手なのかもしれない……!!
でも……そう思っているのはきっと私だけ……彼にとって私はただのお隣さんなんだろう……。
わかってる……わかっていた。
こんな私じゃ彼とは結ばれないって。
諦めなければ……この先さらに辛くなる……。
彼のことを忘れるため。色々なセミナーに行った。
マルチ商法とわかっていたけどそれでもその洗脳術で彼を忘れさせて欲しかった。
だけど……私は……。
"今暇?"
彼を忘れることができなかった……。
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