121話 お酒はほどほどに。
18時。
バウワンを出て、俺達は駅前の飲み屋に行った。
普段はリーズナブルな飲み屋に行っているが最近ボーナスが出たので今日は少し高い個室の居酒屋に来ていた。
「シャレた居酒屋は久しぶりだな」
「私も」
「那奈さんは普段飲みに行ったりするんですか?」
「いや……外では飲まないかな」
そう言えば俺の家で飲んだ時も少ししか飲んでいなかったな。熱海に行った時は全然飲んでなかったし、もしかして苦手なのか。飲みに誘ったのは悪手だったか。
「ご注文は決まりですか?」
店員さんがオーダーを聞きにきた。
居酒屋に来たがここは那奈さんに合わせて俺もお酒はやめよう。
「あ、俺、烏龍茶で」
「え!?」
那奈さんが不思議そうに俺を見た。
「私に気を遣わなくていいよ……お酒が飲みたくて来たんでしょ?」
「え、あいや……」
「私……少しだけなら飲めるから……カシスオレンジで」
那奈さんがアルコールを注文する。
逆に気を遣わせてしまったな。本音を語り合うというのに、ダメだな。
「あ、すいません、やっぱり俺は生で」
その後てきとうにおつまみとこの居酒屋のおすすめであるモツ鍋も注文した。
「それじゃあ乾杯しましょうか」
「うん……!」
"マジカルチアーズ"
「ぷっ」
「ふっ」
お互い少し笑った。
流石那奈さんだ。"ユリユリ"に登場する乾杯のセリフと俺と被せてくるなんてな。
お互い酒を口にする。
「それじゃあ早速いただきましょうか。ここのモツ鍋マジで美味いんすよ!」
「そうなの?……うん、美味しい」
「でしょ? これが酒とあうんすよ!」
京也に教えてもらったことだけど。
そこからお互いアニメの話をしながら鍋をつまみ、お酒を飲んだ。
「いや〜〜やっぱり"ユリユリ"の新劇場版楽しみですよね!」
「うん。前回の総集編からまさか新作が出るとは思わなかったよ」
ユリユリのことから。
「俺、今までだったらJK✖︎JKが至高と考えていたんですけど、最近おネロリの良さにも気づいたんですよね」
「まだ甘いな神原くん。百合で本当に大事なのはそのキャラではなくシチュエーションだよ。ちょっと胸にくるような人間関係模様を描いた結果、結ばれるストーリーなら私はなんだっていける」
自分の好きな癖のことまで。
話が弾むに連れてお酒も進んでいき、お互い顔がどんどん真っ赤になっていく。
いいなあ。この感じ。馬鹿みたいに飲んで騒ぐのではなく好きな話をして徐々に酒が回ってくる感じ。
これが大人の酔い方だよな。
話している内容はオタクだけど。
それに気兼ねなく話せる相手と遊んでその後の飲みはさらに楽しい。
最高の1日を過ごしている。
ポカポカしながら俺は充実感に満ちていた。
「あれぇ?」
ふと疑問に思う。
俺ってなんで那奈さんを飲みに誘ったんだっけ?
なんか大事なことを話し合うためだった気がするけど……。
「まあいいか!」
俺は思い出すことを放棄した。
「那奈さん、次何飲みます?」
那奈さんは顔を伏せていた。どうやらダウンらしいな。
「大丈夫すか?」
肩をゆする。
すると。
「———丈夫よ」
「え? なんて?」
「———から———ぶらって」
「えー?」
さらに聞き返した。
そして、次の瞬間。
「大丈夫だって言ってんじゃん!!」
那奈さんが今まで聞いたことのない大きな声を上げる。
その声にびっくりして俺の酔いは一瞬でどこかへ消えていった。
「あれ、那奈さん?」
恐る恐る顔を覗くと那奈さんはヘラヘラ笑い始めて、
「よーし、たんばらくん! まだろむぞーー! ハイボール、ハイボールもってこーい!」
そう親父みたいな口調で話し始める。
呂律が回ってないのか。半分何言っているのかわからない。
まさか那奈さん……いやこれは十中八九、那奈さんは酔っ払うと性格が変わる!!
そんな那奈さんを前に俺は動揺を隠しきれずにいた。
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