第22話 アレキサンドライト
さいたま駅にやってきた福坂徳郎は、両手を上に伸ばして、周囲を見渡した。
「うーん。やっぱり、いいな。駅前とか久しぶりに来た気がする」
近くにいる徳郎の声に、加村優は頷く。
「ああ、そうだな。荷物とかも実家に贈ってるから、身軽だ」
「そうそう、かわいい彼女の荷物もな」と徳郎はニヤニヤ笑いながら、優の隣にいる白いワンピース姿の松葉芽衣に視線を向けた。
「彼女じゃなくて、私はただの友達だよ」
「まあ、どっちでもいいけど、優。お前、松葉さんを実家に連れていくとか、スゲーこと考えたな。お前ら、ホントは付き合ってるんだろ? それで、高校卒業後すぐに結婚できるように、ご両親にご挨拶だ!」
「だから、気が早すぎる! まだ付き合ってないんだからな!」
優の姿の芽衣が、徳郎の顔を睨みつける。その顔を見て、徳郎は両手を左右に振った。
「おいおい、冗談だって。そんなに怒るなよ。それにしても、優、お前、ヤベェこと考えたなぁ。彼女と元カノを会わせるなんて、修羅場確定じぇねーか!」
「ああ、日和姫が話したがってたからな」
「優、お前なぁ」
「そういえば、日和姫ちゃん、来てないのかな?」
優の隣で芽衣が呟く。一方で、徳郎の視界の端に、そわそわとした仕草でこちらに近づいてくるポニーテールの少女が歩み寄ってきた。
ピンク色の薄手のパーカーに、青いボーダー柄のTシャツを合わせ、水色のミニスカートを履いたその少女は、右手を振る。
「あっ、やっと見つけた。徳郎、こんなところにいたんだ!」
「ああ、日和姫、久しぶりだな!」
もう一人の幼馴染を認識した徳郎が、近くにいる優の右肩をポンと叩く。
「おい、優。日和姫が来たぞ! なんかいうことがあるんじゃないのか?」
「ええっと……」と言葉を詰まらせた優の姿の芽衣が、目の前に現れた加村優の元カノをジッと見つめる。
そこにいるのは、学校でモテそうなかわいらしいルックスの美少女。
一方で、優に見つめられた日和姫の頬は赤く染まっていった。
「ちょっと、優。そんなに見つめないでよ」
「えっと、かわいいなって思って」
「ホント! すごく嬉しい!」と日和姫が表情を明るくする。
そんな優の姿を見て、隣の芽衣は苦笑いした。
そのあとで、日和姫は優の隣にいる少女に視線を向け、首を捻った。
「ところで、優の隣にいる子って……」
「ああ、あっちの高校で仲良くしてる松葉さんだ」
そう言いながら、優の姿の芽衣は、右手で松葉芽衣の体を指した。それに対して、日和姫は両手を叩き、右手を少女に差し出した。
「ああ、この子が噂の松葉さんなんだ。初めまして。河原日和姫です。一度、会ってみたいって思ってたんだぁ」
「よろしくお願いします」と芽衣の姿の優が日和姫と握手を交わす。
「芽衣ちゃんだっけ? この子、なんか優と似てるね」
笑顔でそう話す河原日和姫の声を聴き、徳郎は首を傾げた。
「ん? 俺はそう思ったこと一度もないけどな」
「絶対似てるよ」
「えっと、これからどこに行くんだっけ?」
そう優が尋ねると、日和姫は一瞬、右手首に付けられた腕時計を見てから、右の方にあるバス停を指差す。
「丁度2分後くらいにあっちのバス停から出るバスに乗って、さいたまショッピングモールに行くよ。あそこの展示スペースで遺跡発掘展IN埼玉が開催されてるの。世界各国の遺跡から発掘された宝石が展示されてて、話題になってるから!」
「さいたまショッピングモールって……」
そう呟いた徳郎と優はチラリと芽衣の顔を見た。その仕草を目にした日和姫はキョトンとする。
「何? 私、なんか変なこと言った?」
「ああ、覚えてないか? この前、さいたまショッピングモールで事件が起きただろ? ここだけの話、松葉さんはあの事件の被害者なんだ」
声を潜めた優の話を聞き、日和姫はジッと芽衣の顔を見つめた。
「私、あの事件が起きたフロアにいたんだよ!」
「へぇ、そうなんだ。あの日、どこかですれ違ってたのかもね」と芽衣の姿の優が苦笑いする。
「あっ、私のことは大丈夫だから、そこに行こうよ」
芽衣の姿になった優が両手を叩く。そのあとで徳郎は首を縦に動かした。
「まあ、松葉さんが良いなら、それでいいけど……はい、優、下の句は?」
「下の句って何だよ!」
「このあとに続きそうなカッコイイセリフだ!」
「いざとなったら、俺が守ってやる……って、そんなこと言わせるな!」
こんな男子たちのやり取りに、芽衣の姿の優は、思わず笑った。
バスに揺られて30分、さいたまショッピングモールにある3階の展示スペースの中で、河原日和姫は目を輝かせた。
広い黒色の空間の中で、四方を囲むようにショーケースが置かれ、約60名が会場内に展示されたキレイに輝く宝石を見ている。また、中央にもポツンとショーケースが置かれている。そんな中で、優(中身は芽衣)は入り口で貰ったパンフレットに視線を向けた。
A4サイズの紙を二つ折りにしたそれには、展示されている宝石の簡単な説明が掲載されていた。パンフレットの右端には主催者、白石麗華と記されていて、表紙には展示会の目玉となっているアレキサンドライトのブレスレットの写真が載っている。
そんなパンフレットに目を通した優の右手を、日和姫が笑顔で引っ張った。
「優、行こうよ。最初は大粒のダイヤモンドから!」
グイグイと優の体との距離を詰めてくる日和姫の顔を、芽衣は怖い顔で見つめる。
後方を振り返り、芽衣と視線を合わせた優は、日和姫の手を振りほどいた。
「日和姫、松葉さんが怖い顔してこっちを見てるんだが……」
「気にしない、気にしない。久しぶりに会ったんだからさ。これくらい平気でしょ?」
「ちょっと、日和姫ちゃん。ズルい!」と芽衣がふたりの間に割って入る。
それに対して、日和姫は頬を緩めた。
「大人しい子でも、そうやって嫉妬するんだ。でもね。私は優と中学卒業するまで一緒にいた幼馴染なんだよ? 優のことだから、最近あなたと仲良くなったってところでしょ? そんな子に負けるわけないじゃない!」
黙り込む芽衣の前に優が立つ。
「お前は俺の元カノだ。日和姫、その事実は変わらねーよ」
「優、そうやって松葉さんのこと守ろうとするんだ?」
会場内をドロドロとした空気が流れはじめ、徳郎は慌てて3人の元へ駆け寄った。
「おい、お前ら、そこまでだ! 他のお客さんもいるんだぜ」
「……そうね。じゃあ、楽しまないとね」
徳郎の声に納得した日和姫が徳郎と共に入り口近くにあるショーケースへ向けて歩みを進めた。
その後ろ姿に芽衣も続こうとすると、突然、優が芽衣の右手を引っ張った。
突然のことに、芽衣の頬が赤く染まる。
「ちょっと、いきなり……」
「入り口前で貰ったパンフレットの表紙見て」
「パンフレット?」と優は芽衣の首を傾げた。
その表紙には、アレキサンドライトと呼ばれる宝石が埋め込まれた銀のネックレスの写真がある。首元には宝石が埋め込まれ、銀には特徴的な二重螺旋模様が刻まれている。
「これって……」
「宝石が埋め込まれてるっていう違いはあるけど、そっくりだよね? あのブレスレットと」
「ああ、この展示会の目玉ってことは、あの中央にあるヤツか?」
ヒソヒソ話をしながら、ふたりは真っ先に中央にあるショーケースに向かい足を進めた。
【天月の首輪】
【出展者
【光によって色が変わるアレキサンドライト。同時に発掘した古文書に、月光で照らし、呪文を唱えると世界が反転すると記されている】
そんな説明文が記されているショーケースの中には、確かにあのブレスレットと似ているモノが展示されていた。
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