第25話 暴徒と化した市民達

 マティアスが改造人間となって1週間後、2人の元に司令室からの連絡が来た。新たな任務の連絡だろうか。

 マティアスはこの1週間で改造人間としての力に慣れてきた。マティアスとハンニバルは司令室へ向かう。


「諸君、よく来てくれた! 実は大変なことが起きてしまってな……。どうやら軍事基地周辺の町へのハンバーガーの供給が突然ストップしてしまったのだ。その影響で隣町の市民達が暴徒化し、大規模な暴動が発生している」


 ウィリアム司令官が真剣な表情で2人に説明をした。ハンバーガーはアメリカのソウルフード。ハンバーガーの供給が停止すれば暴動が起こるのは必然だ。


「なんだと!? ただでさえ健康の為にアイスティーばかり飲まされてるというのに、ハンバーガーも食えなくなるのかよ……」

「ウィリアム司令官、どうして供給がストップしたのですか!?」


 2人もアメリカンとしてハンバーガーの供給停止に驚きを隠せなかった。


「情報によると、ハンバーガー工場がテロリスト達に占拠されてしまったようだ。諸君にはハンバーガー工場に潜入し、テロリスト達を始末してもらいたいのだ」

「野郎……ハンバーガーを独り占めしやがって! アメリカンとして生かしておくわけにはいかねーな!」

「全くだ! 新たな力を身に着けた私の強さを見せてやる!」


 ハンバーガー工場を占拠するテロリストの存在……奴らの目的は不明だが、2人ともハンバーガーのことで頭がいっぱいで怒りをあらわにしていた。


「ここが目的地のハンバーガー工場だ。だが、工場へ直行する前に生物兵器研究所のオスカー博士のところへ向かってくれ。彼も諸君に用があると聞いたのでな」


 ウィリアム司令官は目的地が書かれた地図を2人に渡し、一旦研究所に向かうように指示をした。

 2人は司令室を後にし軍事基地を出ると、軍用車で生物兵器研究所へ向かう。そしてオスカーの部屋に入り、彼と対面した。


「話はウィリアム司令官から聞いてるよ。お前達には戦いに行く前に、これを装備してもらいたいんだ」


 オスカーは2人の頭上に小型カメラがついた機械を設置した。小型で軽量なので、移動にはほとんど支障が出ない作りだ。


「この小型カメラで戦闘の様子を記録してきてくれ。お前達……特にマティアスの改造人間としての強さをこの目で確かめさせてもらおう。あと、この小型カメラはいつでも俺と通話できるようになっているぜ」


 オスカーは自分のパソコンのモニターに2人の頭上のカメラの映像をそれぞれ映し出し、リアルタイムで視聴・録画出来ることを説明した。

 また、必要に応じてオスカーの方から2人に通話を掛けることがあるそうだ。

 2人は何も操作する必要は無く、小型カメラからオスカーの声が聞こえたら応答すれば良いとのことだ。


「分かったぜ。お前にはマティアスを助けてもらった恩もあるからな。それくらいは手伝ってやるぜ」


 ハンニバルは先日の恩もあって快く引き受けた。マティアスも自分の動きを録画されると聞いて、やる気マンマンだ。

 

「工場に行く途中では、暴徒化した市民どもがお前達を邪魔してくるはずだ。邪魔する奴らは死なない程度に蹴散らしてやれ」

「心得たぜ!」


 2人はオスカーの依頼を引き受けると研究所を後にした。2人は軍用車に乗り、目的地が書かれた地図を確認しながらハンバーガー工場へ向かって行く。

 今回もいつも通り、ハンニバルが運転席、マティアスが助手席に乗って進んでいく。

 出発からしばらくすると、ハンバーガー工場へ向かう途中、都会の街の中に入った。ここを抜けないとハンバーガー工場に辿り着けないからだ。

 そこには大勢の暴徒と化した市民達で溢れかえっており、なかなか先に進むことが出来ない状態だった。

 市民達はナイフやトマホークを振り回しており、その光景はまるで荒野の無法地帯を思わせるものだ。

 正気を失った市民達が寄ってたかって、2人が乗る軍用車に殴る・蹴るなどの攻撃を加えてくる。

 そのまま軍用車を発進させて市民達を蹴散らすことも考えたが、守るべき一般市民達を殺すことは軍人としてあるまじき行為だ。

 2人は一旦軍用車から降り、邪魔な市民達を死なない程度に蹴散らすことに決めた。

 ハンニバルは軍用車を殴っていた市民の腕を掴み、勢いよくジャイアントスイングをしながら周りの市民達を蹴散らしつつ、手で掴んでいる市民を遠くに投げ飛ばす。

 投げ飛ばされた市民はミサイルの如く、遠くの市民の群れに激突した。

 マティアスはスタイリッシュかつアクロバティックな動きで、市民達を蹴り飛ばしたり、殴り飛ばしたりしていく。

 大勢の市民を蹴散らす2人を見ていた市民達は、恐怖のあまり動きが固まっていた。


「私達はハンバーガー工場を占拠するテロリストを倒しに来た軍人だ! ハンバーガーの供給を再開させる為にもここを通してくれ!」


 マティアスはそんな市民達を見て、大きな声で事情を説明した。


「テロリストに占拠されてるだと!?」

「軍人さん、奴らを倒してハンバーガーを取り戻してくれ! 頼んだぞ!」


 それを聞いた市民達は、ハンバーガーの未来を2人に託すべく道をあけてくれた。2人も市民たちに元気よく返事をし、再び軍用車に乗る。

 街の道路を運転中、2人の頭部に設置されている小型カメラからオスカーの声が聞こえてきた。


「第1ステージクリアおめでとう! 素晴らしい無双っぷりだったな! ドクター感激だよ!」


 オスカーは自室のパソコンのモニターに映る映像をゲームのように楽しんでいた。たかが市民を蹴散らした程度で感激されても困るものだが。

 街を越えてしばらく進むと、ようやくハンバーガー工場らしき建物が見えてきた。

 食品工場とは思えないほど巨大な建物で、もはや要塞ともいえる雰囲気が漂っている。

 ハンバーガー工場付近にも暴徒と化した市民達が暴れており、道を塞いでいた。2人は再び軍用車を降り、市民達を説得しようとしたが……。


「いい加減にしろ! この改造人間どもがぁぁぁぁぁ!!」


 小型カメラの向こうのオスカーが突然怒りを爆発させた。


「ど、どうしたんだよ、オスカー!?」


 ハンニバルは思わず困惑した口調で声を上げる。


「ちんたらやってんじゃねぇ! そんなことやってたら、ハンバーガー工場に到着する前に日が暮れちまうだろうが!」

「そ、そんなこと言われても……。それに今はまだ昼間じゃねーか……」

「とにかく全速力でハンバーガー工場へ向かえ! 邪魔者を轢き殺してでもなぁ!」

「わ、分かったぜ……」


 オスカーはせっかちな男で、目的の為なら罪の無い市民の命すらも惜しまないマッドサイエンティストなのだ。

 オスカーに怒られてタジタジのハンニバルを見ていたマティアスも思わず「大変だなぁ……」とつぶやく。

 2人は軍用車から降りるのをやめ、ハンバーガー工場に向かって一直線に発進する。

 走行中、邪魔な市民達が道を塞いでいたが、ハンニバルは構わず目の前の市民達を車ではね飛ばした。


「悪いことしちまったなぁ……。まぁ、あれくらいで死にはしないだろ……」

「今回ばかりは仕方ない。……大丈夫さ、あの程度ならかすり傷で済むだろう」


 少しだけ罪悪感に苦しむ2人だったが、改造人間となった2人は常人と感覚がズレているのか、車ではねられた程度ではかすり傷扱いらしい。幸い、市民達は軽傷で犠牲者は出なかった。

 2人は突き進んでいるうちに、ようやくハンバーガー工場の入り口付近に到着した。

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